ストーブの中は炎が赤々と爆ぜ、冷え切っていた教室もようやくじんわりと温まってきた。
「はい、じゃあ座席表見ながら机持って移動してくださーい」
担任の気の抜けた声が合図となり、一斉に机を引きずる不協和音が響き渡る。
「……よし」
あみだくじで決まった、これから三ヶ月間を共にする私の席。
窓際から二列目の一番後ろ。
視力は悪くないし、前後左右もそれなりに話せるメンバーで、ひとまず胸をなでおろした。
(ジンくんは……どこかな)
無意識に視線を流す。
誰とでも分け隔てなく接することができる彼は、既に新しい席の周りと賑やかな空気を作り出していた。
ジンくん。
以前、密かに想いを寄せていた人。
でも、彼の誰にでも優しい性格は、私にとっては時に残酷だった。
期待しては落ち込む日々に疲れ、「傷つく前に諦めよう」と心に決めたばかり。
そんな彼は、廊下側の一列目の一番後ろに配置された。
(…きっと私には、不釣り合いだったんだよね)
ほっとしたはずなのに、少しだけ胸が痛い。
その時だった。
「先生〜、僕ここだと黒板ちょっと見えにくいかもです」
通路を挟んだ隣の席になった男子が手を挙げる。
すると、すかさず別の声が重なった。
「あ、じゃあ俺代わるよ。その班なら知ってる奴らも多いし」
聞き慣れた、少し低い声。
心臓が跳ねた。
ジンくんがガタガタと机を引いてやってきたのは、あろうことかすぐ隣なのだ。
「……え」
思わず声が漏れる。
ジンくんは机を整えると、ふとこちらを見て、いつもの屈託のない笑顔を向けた。
「よろしくね、〇〇さん。ここ暖かいし当たり席かも」
「……うん、よろしく。ジンくん」
私は慌てて前を向く。
「諦める」と決めたはずなのに、わずか数十センチ隣から彼の体温や、衣服の微かな香りが漂ってくる。
これじゃあ、視界に入らなようにするなんて無理だ。
三ヶ月。
この近さで、私は自分の心を守りきれる自信がこれっぽっちも持てなかった。