[太字][斜体]「翠憐、出番」[/斜体][/太字]
と御客から呼び出しがかかった際の合図が響く。
翠憐は、今、光の中へ踏み出す。
客の揃った広間に繋がる濃紺の布をくぐり、朱霄楼のトップである至高の華は、決然と顔を上げた。
卑屈さも恐怖もない、圧倒的な余裕げな笑みを浮かべて。
その肢体は、緋色の絹に包まれ、夜目を惹きつける。
一歩踏み出すたびに、足首に光る金鎖の微かな音が、雑踏の喧騒すらも制した。
彼女は知っている。
この瞬間の、自分こそがこの楼閣の[下線][斜体]絶対的な支配者[/斜体][/下線]であると。
一方で、街の全てを血と金で塗り固めるマフィア「[漢字]i[/漢字][ふりがな]アイ[/ふりがな]」が動き出す。
零番街を支配する三つの勢力のうち、最も名高く、最も冷酷だと噂される彼らが。
錆びた灯りの路地に、一台の黒塗りの高級車が停車した。
夜明け前の、最も濃い闇に覆われた時間帯。
夜の帳を纏った六人の男が降り立つ。
その足音は、足元の煙草の吸い殻すらも踏みにじる。
零番街の王達は、誰も口を開かない。
しかしその瞳が放つ冷酷な光は、周囲のざわめきを瞬時に消し去った。
彼らの纏う気配は、この街の澱んだ空気を切り裂く刃物に等しい。
彼らは、朱霄楼の赤く禍々しい提灯を見上げる。
[太字]「ここが……朱霄楼ねぇ」[/太字]
先頭に立つ桃色の髪の男が、低く獰猛な愉悦を滲ませて囁く。
その声には、いっそ清々しいほどの悪意が籠もっていた。
男の細められた眼光は、提灯の奥に潜む「何か」を既に射抜いている。
i は、新たな獲物を手中に収めることを厭わない。
それはこの街の掟であり、彼らの信条である。
彼らこそが、この零番街の頂点に立つ六人だった。
そして、この朱霄楼という[太字][斜体]金色の籠[/斜体][/太字]を、己らの漆黒の帝国へ組み込むために、今、その重い扉を叩こうとしている。
その瞬間、桃色の髪の男――零番街の第4の王が、冷たく、そして甘やかな響きを以て命令を下した。
[太字][斜体]「開けろ。この街の、主の来訪だ」[/斜体][/太字]
彼の言葉は、夜の静寂を切り裂く断罪の鐘のように、朱霄楼の門前にこだました。