冷たい風が吹き抜ける校庭で、体育の授業として駅伝が行われた。
自分の出番を終えた私は、震える手で厚手のジャージを羽織った。
元々運動は苦手としていたため、膝はガクガクと笑い、喉の奥からは鉄の味がする。
呼吸をするたびに肺がヒリついて、立っているだけでも精一杯だった。
数分後、コースの向こうからジンくんが走ってくるのが見えた。
私は隣にいた親友のマヤのジャージを引っ張り、私たちは何気ないふりをしてコース沿いの柵に近寄る。
本当は胸がどきどきして、走った後とは違う意味で息が苦しい。
彼が目の前を通り過ぎる瞬間、私は勇気を振り絞って声をかけた。
「ジンくん、頑張れ〜!」
走っている彼に、返事をする余裕なんてあるはずがない。
彼はまっすぐ前を見据えたまま、風のように私の前を駆け抜けていった。
その背中を見送りながら、私は「声、届かなかったかな」と少しだけ寂しくなった。
大会が終わり、教室に戻ると、熱気と埃っぽさが混じった独特の空気が漂っていた。
ジンくんは自分の席で友達と話している。
私は火照った頬を隠すようにして、冗談めかした口調で彼に話しかけてみた。
「さっきの応援、聞こえた?笑」
正直、期待はしていなかった。
大勢の声援の中の一つでしかないと思っていたから。
けれど、彼はパッとこちらを向いて、迷いのない声で言った。
「聞こえた!ありがとう」
その瞬間、思考が止まった。
すれ違いざまだったから、それ以上言葉を交わすことはできなかったし、彼の表情をまともに見る余裕もなかった。
でも、その一言だけで、喉の痛みも体の疲れも、全部どこかへ飛んでいってしまった。
「……ちょろいなあ、私」
心の中で自分に呆れる。
あんなに「もうやめる」と決めたはずなのに。
彼が私の声に気づいてくれた、ただそれだけのことで、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
冬の午後の光が差し込む教室で、私は自分にしか聞こえない溜息をついた。
結局、私は彼の引力から、まだ逃げられそうにない。