桜色の狐耳を持つ美女――もう名前が長すぎるから『[漢字]桜狐[/漢字][ふりがな]さくらぎつね[/ふりがな]』と呼ぶ――は中々に横柄というか、堂々とした性格であるようだった。
僕のことなど微塵も気にかけずに走り去ったと思えば、いきなり僕の肩にぶつかってくるし、今だって、「早うせい」と連呼しては僕を追い立てているのだから。
「ま、待ってよ…!もう、走れ、ない…っ」
「ぬ?童…というよりも『人間』はそこまで脆弱なのか?」
僕は疲労によりうまくそれを聞き取れなかったけれど、桜狐が全人類に謝罪しなければいけない発言をしているのが見て取れた。
「はぁ…はっ…もうダメ」
「うむ。我とウヌの目的地はもう目の前だぞ」
「え?」
僕はぽたぽたと汗の滴る髪を払い、顔を上げた。
そこには、あの樹海の中で見た古めかしい洋館―『図書館』が再びそびえたっていた。
* * *
「入るぞ」
桜狐が少しの遠慮もなく分厚い木製の扉に手をかける。僕も少し息を整えて、中を覗き込んだ。
その中には確かに、図書館と呼べるような場所であった。天井まで積みあがった本の数々が、僕らを出迎える。それらの中心には、[太字]天使のような男[/太字]がいた。
「え?」
僕は、またも目を擦る羽目になった。僕は一日に何度、己の目を疑えばよいのだろう。
桜狐がその天使に向かって呼び掛けた。
「お主のお望みの童が来たぞ」
天使は、その純白の羽をファサリと翻しながら僕を見た。
(―――ッ⁉)
[漢字]刹那[/漢字][ふりがな]せつな[/ふりがな]、僕の体は凍り付いたように動かなくなった。蛇に睨まれた蛙の気持ちを、一瞬で味わう。僕が今まで見たことのない部類の目。圧倒的上位者の視線。
数秒、十数秒の沈黙であったのかもしれない。しかし、僕にとってそれは半永久とも呼べる時間であった。
「…ほう。確かに、俺様のお眼鏡にかなう奴だな。―20年、待ったのだ」
「その通りじゃな。あの坊やも喜ぶ故」
「ふん。…おい、人間」
桜狐と天使の会話は、僕が踏み込めないような壁があった。もっとも、踏み込むつもりもなかったけれど。そんな時に、天使のほうから呼びかけられた瞬間、僕はまずその視線から解放されたことに安堵を覚えた。
「…[小文字]はい[/小文字]」
「お前は[漢字]石上 宅嗣[/漢字][ふりがな]いそのかみ やかづく[/ふりがな]…だな?それ以外は認めん」
「…[小文字]はい[/小文字]」
「声が小さいぞ、童よ。あやつが機嫌を損ねてしまうぞ」
「余計なことを言うな、[漢字]9番[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]」
僕はその時”9番”という呼び名が非常に気になったが、それは後で分かる話であった。
「石上 宅嗣」
「はいっ…」
「俺様が、お前をここへ[漢字]誘[/漢字][ふりがな]いざな[/ふりがな]った理由を、話せる範囲で話してやる」
僕のことなど微塵も気にかけずに走り去ったと思えば、いきなり僕の肩にぶつかってくるし、今だって、「早うせい」と連呼しては僕を追い立てているのだから。
「ま、待ってよ…!もう、走れ、ない…っ」
「ぬ?童…というよりも『人間』はそこまで脆弱なのか?」
僕は疲労によりうまくそれを聞き取れなかったけれど、桜狐が全人類に謝罪しなければいけない発言をしているのが見て取れた。
「はぁ…はっ…もうダメ」
「うむ。我とウヌの目的地はもう目の前だぞ」
「え?」
僕はぽたぽたと汗の滴る髪を払い、顔を上げた。
そこには、あの樹海の中で見た古めかしい洋館―『図書館』が再びそびえたっていた。
* * *
「入るぞ」
桜狐が少しの遠慮もなく分厚い木製の扉に手をかける。僕も少し息を整えて、中を覗き込んだ。
その中には確かに、図書館と呼べるような場所であった。天井まで積みあがった本の数々が、僕らを出迎える。それらの中心には、[太字]天使のような男[/太字]がいた。
「え?」
僕は、またも目を擦る羽目になった。僕は一日に何度、己の目を疑えばよいのだろう。
桜狐がその天使に向かって呼び掛けた。
「お主のお望みの童が来たぞ」
天使は、その純白の羽をファサリと翻しながら僕を見た。
(―――ッ⁉)
[漢字]刹那[/漢字][ふりがな]せつな[/ふりがな]、僕の体は凍り付いたように動かなくなった。蛇に睨まれた蛙の気持ちを、一瞬で味わう。僕が今まで見たことのない部類の目。圧倒的上位者の視線。
数秒、十数秒の沈黙であったのかもしれない。しかし、僕にとってそれは半永久とも呼べる時間であった。
「…ほう。確かに、俺様のお眼鏡にかなう奴だな。―20年、待ったのだ」
「その通りじゃな。あの坊やも喜ぶ故」
「ふん。…おい、人間」
桜狐と天使の会話は、僕が踏み込めないような壁があった。もっとも、踏み込むつもりもなかったけれど。そんな時に、天使のほうから呼びかけられた瞬間、僕はまずその視線から解放されたことに安堵を覚えた。
「…[小文字]はい[/小文字]」
「お前は[漢字]石上 宅嗣[/漢字][ふりがな]いそのかみ やかづく[/ふりがな]…だな?それ以外は認めん」
「…[小文字]はい[/小文字]」
「声が小さいぞ、童よ。あやつが機嫌を損ねてしまうぞ」
「余計なことを言うな、[漢字]9番[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]」
僕はその時”9番”という呼び名が非常に気になったが、それは後で分かる話であった。
「石上 宅嗣」
「はいっ…」
「俺様が、お前をここへ[漢字]誘[/漢字][ふりがな]いざな[/ふりがな]った理由を、話せる範囲で話してやる」