俗にいう『夢』ではないかと思った。電車を乗り継いで、狐と森を駆け回った…という、夢。
そう思い込まなければ、穏やかな森も、古めかしい洋館も、そして今ここに広がる大都市も、全部説明がつかなくなってしまうのだ。
「そうだ、僕はまた…都会に戻ってきたんだ…?」
あのつまらない、都会に?
僕は目を強く擦る。そしてもう一度見れば、確かに大都市が広がっていた。背の高いビル群、人工的な光を放つ街灯。どれも見慣れたものである。しかし、人が全くいない。となれば、夢ではない…のだろうか。
『その通りじゃ。[漢字]童[/漢字][ふりがな]わらべ[/ふりがな]よ』
ひらひらとした花びらのような声が、僕の耳に届いた。驚いて振り返る。
そこには、桜色の[漢字]狐耳を生やした美女[/漢字][ふりがな]・・・・・・・・・[/ふりがな]が柳のようにして建物にもたれかかっていた。現代ではめったに見ない和装に、豊かな薄桃色の髪が風になびく。そしてやはり、頭上の狐の耳が大きな存在感を示していた。
「はぁ…?」
誰、と聞こうとした途端、その美女が眉を吊り上げた。
「童よ!まだわからぬか。折角、ウヌを案内さんばらえたというものを」
そう言うと狐耳の美女はその特徴的な耳を左右に動かした。桜色の、耳を。
「あっ…あの、僕をここに連れてきた狐さん?」
美女…狐は[漢字]鷹揚[/漢字][ふりがな]おうよう[/ふりがな]にうなずいた。
僕はものすごく動揺するとともに、はたと気づいた。僕は、初対面の人などとは全然話せないのに、この狐に対しては抵抗なく喋ることができる。きっと、初めに見た姿が動物であったからだと決めつけることにした。
「童よ」
「はっ…はい」
「ついて来たれ。ウヌを呼んだ訳が分かるゆえ」
それだけ言うと、狐は出会ったころと同じようにタッと駆け出し、ちらりと振り返った。
僕は再度訪れた徒競走に口元をひきつらせたが、彼女の神秘性に引きずられるようにして足を大きく踏み出した。
* * *
人に化けた狐の美女は、毛並みの代わりに美しくたなびく桜色の髪をはためかせ、狐のときのそれよりも速く駆ける。
「はぁっ…はぁ…」
普段運動などをしなかった僕はすぐに息が上がるも、彼女が最初のように振り向いて気遣う様子を見せてくれなかったので、何も考えずひたとくっつくようにして走った。
そのとき、狐の美女が「すまぬ、[漢字]退[/漢字][ふりがな]の[/ふりがな]いてくれ」と言って急に進路を右にずれたのを、酸欠になりかけていた僕は気が付かなかった。
刹那、ドンッと何かと互いにぶつかる。
「あ‼す、すいませ…」
僕はそのぶつかった何かに謝り、かろうじて目を向ける。
そこにいたのは、僕とぶつかったからであろう、尻もちをついた[漢字]華奢[/漢字][ふりがな]きゃしゃ[/ふりがな]な少女がいた。手には小さな小花が握られている。顔は赤い頭巾で隠れていて見えなかったが、相手も相当驚いているようだった。
『……』
お互い、見つめ合ったまま黙り込む。…と、その華奢な少女がぽつりと言った。
「えっと…その、ごめんなさいっ…」
そして、この状況に耐えられないとでもいうように、タッと駆け出した。
「……」
気まずいと思ったら、どうにもできなくなる…僕の悪い癖であった。しかし、落ち込む暇はなかった。
「童よ!早うせい‼」
いつの間にかUターンしてきたのか、狐の美少女が僕の肩を思いきりどついてきたのだ。
「痛ッ…何、するんだよ」
「我をあまり焦らすのではない。童よ、[漢字]行[/漢字][ふりがな]ゆ[/ふりがな]くぞ」
僕はさっきぶつかった少女を胸の片隅で気にかけながら、僕は再び走った。
そう思い込まなければ、穏やかな森も、古めかしい洋館も、そして今ここに広がる大都市も、全部説明がつかなくなってしまうのだ。
「そうだ、僕はまた…都会に戻ってきたんだ…?」
あのつまらない、都会に?
僕は目を強く擦る。そしてもう一度見れば、確かに大都市が広がっていた。背の高いビル群、人工的な光を放つ街灯。どれも見慣れたものである。しかし、人が全くいない。となれば、夢ではない…のだろうか。
『その通りじゃ。[漢字]童[/漢字][ふりがな]わらべ[/ふりがな]よ』
ひらひらとした花びらのような声が、僕の耳に届いた。驚いて振り返る。
そこには、桜色の[漢字]狐耳を生やした美女[/漢字][ふりがな]・・・・・・・・・[/ふりがな]が柳のようにして建物にもたれかかっていた。現代ではめったに見ない和装に、豊かな薄桃色の髪が風になびく。そしてやはり、頭上の狐の耳が大きな存在感を示していた。
「はぁ…?」
誰、と聞こうとした途端、その美女が眉を吊り上げた。
「童よ!まだわからぬか。折角、ウヌを案内さんばらえたというものを」
そう言うと狐耳の美女はその特徴的な耳を左右に動かした。桜色の、耳を。
「あっ…あの、僕をここに連れてきた狐さん?」
美女…狐は[漢字]鷹揚[/漢字][ふりがな]おうよう[/ふりがな]にうなずいた。
僕はものすごく動揺するとともに、はたと気づいた。僕は、初対面の人などとは全然話せないのに、この狐に対しては抵抗なく喋ることができる。きっと、初めに見た姿が動物であったからだと決めつけることにした。
「童よ」
「はっ…はい」
「ついて来たれ。ウヌを呼んだ訳が分かるゆえ」
それだけ言うと、狐は出会ったころと同じようにタッと駆け出し、ちらりと振り返った。
僕は再度訪れた徒競走に口元をひきつらせたが、彼女の神秘性に引きずられるようにして足を大きく踏み出した。
* * *
人に化けた狐の美女は、毛並みの代わりに美しくたなびく桜色の髪をはためかせ、狐のときのそれよりも速く駆ける。
「はぁっ…はぁ…」
普段運動などをしなかった僕はすぐに息が上がるも、彼女が最初のように振り向いて気遣う様子を見せてくれなかったので、何も考えずひたとくっつくようにして走った。
そのとき、狐の美女が「すまぬ、[漢字]退[/漢字][ふりがな]の[/ふりがな]いてくれ」と言って急に進路を右にずれたのを、酸欠になりかけていた僕は気が付かなかった。
刹那、ドンッと何かと互いにぶつかる。
「あ‼す、すいませ…」
僕はそのぶつかった何かに謝り、かろうじて目を向ける。
そこにいたのは、僕とぶつかったからであろう、尻もちをついた[漢字]華奢[/漢字][ふりがな]きゃしゃ[/ふりがな]な少女がいた。手には小さな小花が握られている。顔は赤い頭巾で隠れていて見えなかったが、相手も相当驚いているようだった。
『……』
お互い、見つめ合ったまま黙り込む。…と、その華奢な少女がぽつりと言った。
「えっと…その、ごめんなさいっ…」
そして、この状況に耐えられないとでもいうように、タッと駆け出した。
「……」
気まずいと思ったら、どうにもできなくなる…僕の悪い癖であった。しかし、落ち込む暇はなかった。
「童よ!早うせい‼」
いつの間にかUターンしてきたのか、狐の美少女が僕の肩を思いきりどついてきたのだ。
「痛ッ…何、するんだよ」
「我をあまり焦らすのではない。童よ、[漢字]行[/漢字][ふりがな]ゆ[/ふりがな]くぞ」
僕はさっきぶつかった少女を胸の片隅で気にかけながら、僕は再び走った。