読書サークルの室内にて。
鏡に映る僕の頭には、はっきりと「0番」という数字が浮かんでいた。
慌てて千冬に問いかける。
「ねえ、僕の頭、何かついてるよね?」
「…何もないけれど?」
千冬の怪訝そうな顔を見て、僕は少し俯きながら「なんでもない」と答えた。
もしかすると、これが見えているのは僕だけかもしれない。
肩を落として、部屋を出た。
「…おー、もう帰るのか、[漢字]宅嗣[/漢字][ふりがな]やかづく[/ふりがな]」
「うん、そうする…」
大学の中を歩いていると、サークルへ向かおうとしていた琥珀に呼び止められる。
「転ばないようにな」
「うん…」
曖昧に返事をして、僕は帰路についた。はずだった。
『我が来たぞ!』
突然、視界が桜色でおおわれる。それと同時に、よく通る声が僕を貫いた。
目の前には、再び薄桃色の髪をたなびかせる美妖女――桜狐こと9番――が立っていた。
「久しいの、童よ」
数時間前の出来事なのに、彼女が言うと本当に久しぶりに感じられる。
「きゅ、9番…?」
「ほう。やはり0番の名をウヌに預けてよかったと思うぞ。その頭にあるもの、よく似合っておるではないか」
9番は、僕の頭にあるこの数字が見えているようだった。
「あ、その、この数字のことなんだけど――」
「そんなこと、今は気にしなくてもよいぞ。…こちらの世界にお迎えする時が来た故、ウヌを呼びに来たのじゃ」
夜遅いのも気にせず朗々と声を響かせ、周囲の学生たちの視線を一身に集める。
「…何あれ、コスプレ?」「美人だな~」
桜色の華やかな和服、頭には隠すことのない狐耳――9番の姿は一際目立っていた。
「ちょ、ちょっと9番、別のところに行こう」
「むぅ?童は積極的じゃな。されど、我は駆け引きには乗らぬ」
ぶつぶつ言う9番の手を引き、僕は人の少ない場所へ向かった。
そこは樹海を思わせる暗い森。9番は手を振り払い、満足げに頷く。
「流石じゃな」
「何が…?」
「人が多ければ、向こうの世界への入り口は作れぬ故」
訳が分からぬまま首をかしげる僕をよそに、9番は静かに言の葉を紡ぎ始めた。
[太字][斜体]繫ぎたまえ 繋ぎたまえ――。 [/斜体][/太字]
威厳と神聖さが彼女に漂う。
やがて、暗い森の中に怪しげな穴が現れた。虹を歪めたようないびつな形――。
「そ、それは?」
「ウヌもしばしあちらに慣れれば作れるじゃろう。…これが入り口、行くぞ」
9番は僕の手を掴み、一気に穴へ飛び込んだ。あの時と同じ、眩暈が僕を襲う――。
鏡に映る僕の頭には、はっきりと「0番」という数字が浮かんでいた。
慌てて千冬に問いかける。
「ねえ、僕の頭、何かついてるよね?」
「…何もないけれど?」
千冬の怪訝そうな顔を見て、僕は少し俯きながら「なんでもない」と答えた。
もしかすると、これが見えているのは僕だけかもしれない。
肩を落として、部屋を出た。
「…おー、もう帰るのか、[漢字]宅嗣[/漢字][ふりがな]やかづく[/ふりがな]」
「うん、そうする…」
大学の中を歩いていると、サークルへ向かおうとしていた琥珀に呼び止められる。
「転ばないようにな」
「うん…」
曖昧に返事をして、僕は帰路についた。はずだった。
『我が来たぞ!』
突然、視界が桜色でおおわれる。それと同時に、よく通る声が僕を貫いた。
目の前には、再び薄桃色の髪をたなびかせる美妖女――桜狐こと9番――が立っていた。
「久しいの、童よ」
数時間前の出来事なのに、彼女が言うと本当に久しぶりに感じられる。
「きゅ、9番…?」
「ほう。やはり0番の名をウヌに預けてよかったと思うぞ。その頭にあるもの、よく似合っておるではないか」
9番は、僕の頭にあるこの数字が見えているようだった。
「あ、その、この数字のことなんだけど――」
「そんなこと、今は気にしなくてもよいぞ。…こちらの世界にお迎えする時が来た故、ウヌを呼びに来たのじゃ」
夜遅いのも気にせず朗々と声を響かせ、周囲の学生たちの視線を一身に集める。
「…何あれ、コスプレ?」「美人だな~」
桜色の華やかな和服、頭には隠すことのない狐耳――9番の姿は一際目立っていた。
「ちょ、ちょっと9番、別のところに行こう」
「むぅ?童は積極的じゃな。されど、我は駆け引きには乗らぬ」
ぶつぶつ言う9番の手を引き、僕は人の少ない場所へ向かった。
そこは樹海を思わせる暗い森。9番は手を振り払い、満足げに頷く。
「流石じゃな」
「何が…?」
「人が多ければ、向こうの世界への入り口は作れぬ故」
訳が分からぬまま首をかしげる僕をよそに、9番は静かに言の葉を紡ぎ始めた。
[太字][斜体]繫ぎたまえ 繋ぎたまえ――。 [/斜体][/太字]
威厳と神聖さが彼女に漂う。
やがて、暗い森の中に怪しげな穴が現れた。虹を歪めたようないびつな形――。
「そ、それは?」
「ウヌもしばしあちらに慣れれば作れるじゃろう。…これが入り口、行くぞ」
9番は僕の手を掴み、一気に穴へ飛び込んだ。あの時と同じ、眩暈が僕を襲う――。