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ライブラリーズ ~新たな柱となれ~  

#11

文才・あいだ千冬

 サークル棟の隅の隅、最も端に構える小部屋が、僕らの『読書サークル』だ。相変わらず閑古鳥が鳴いているようだが、扉の鍵が開いているので[漢字]自[/漢字][ふりがな]おの[/ふりがな]ずと[太字]あの子[/太字]が活動をしているのは察することができた。
 「…入るよ」
 僕はあの子の集中をちぎらないように細心の注意を払い、扉を小さく開けた。
 カラカラカラ――。
 扉を引く指に力をかけすぎず、絶妙なコントロールで引き戸を[漢字]捌[/漢字][ふりがな]さば[/ふりがな]く。
 やはり、そこにいたのは一人の女の子だった。半ば地毛でもあろう、氷色の長く豊かな髪が風と戯れ、しかしながら紙と文字を見つめるその目は真剣で、だれにも邪魔できない雰囲気をまとっている。
 彼女の名前は[漢字]千冬[/漢字][ふりがな]ちふゆ[/ふりがな]。ペンネームは『[太字]あいだ千冬[/太字]』。数年前から小説家として活動し、次世代の文豪として注目を集めている。尚且つ大学のマドンナ的存在だというのだ。彼女にぴったりな言葉は、まさに『高嶺の花』。
 しかも彼女は――。
 「あら?ヤカヅクくんだったのね。そうだ。私のママには『今日の帰り、遅くなる』って連絡してくれない?」
 「…うん。分かった。じゃあ晩御飯は僕の家で食べていきなよ」
 「ほんと?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
 ――…彼女は、僕の幼馴染でもある。
 千冬だけが、僕の名前を『ヤカヅクくん』などと――絶対わざとだが、あえて片言にするように――呼んでいる。千冬とは大学で再会した。小さいころまで一緒に絵本を読むような仲だったのに、今や相手は売れっ子の作家になっていたと知った時の僕の心情は、かなり激しいことになっている。
 「…千冬、今は何を書いてるの?」
 「んー?ちょこっと冒険小説…かなぁ。まだ少ししか書けていないけれど」
 そういう彼女の足元は、資源ごみのように紐で括られた紙束がいくつも埋め尽くしている。これが『少し』?僕は幼馴染の感性を疑った。
 僕が中途半端に散らばった紙の端々をかき集めると、どれも達筆に…彼女の美しく鋭い感性が光る文章の数々が目に飛び込んできた。僕には絶対できない所業である。
 「僕には到底真似できないことばっかりだね、千冬は」
 「そうかな。私が思うには、ヤカヅクくんのほうが感受性が豊かだから、何かを表現するのは向いてると思うよ」
 そういうと千冬は己の髪をすこし掬い、気まぐれに編み込みを始めた。僕はその自由奔放な姿を眩し気に捉えて、ネラ=大図書館が語る『理想の0番』の姿と重ねてみた。
 ――…僕なんかより、千冬のほうが『0番』に向いている気がするのにな…。ううん、あの人は僕を選んでくれたんだから。
 僕は不意に浮かんだその思いを頭から掻き消して、サークル部屋の中にあった大きな姿見の前に立った。そして無理にでも笑う…つもりだった。
 「えっ⁉」
 「どうしたのよ?」
 僕は千冬の問いかけに応答すらできず、ただ放心して自分の顔――正しくは右の頭頂部を凝視した。
 僕の頭には、でかでかと、よく映えるような色鮮やかさを持った『0』という数字が浮かんでいたのだ。それは、僕が…僕こそが0番だと証明する代物でもあり、心のどこかで『夢』と解釈していた自分を正面から砕くような、驚きの事実でもあったのだ。

2026/02/15 17:42

hosiko
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