ここは僕のいるべき場所じゃない。それは、僕がいつも考えていること。
小さい頃からそうだった。良いことも、悪いことも、幸せも、不幸も与えられず、ただ力なく生きているだけ。一言でいえば「つまらない人間」というカテゴリに放り投げられたようなもの。そんな僕のことは誰も見向きもしないから、僕も皆を見なくなった。
けれど、たまに思う。何かを大切に想って、それを守るために懸命に生きる人には、この景色がどんなふうに見えているんだろうって。
* * *
[漢字]欠伸[/漢字][ふりがな]あくび[/ふりがな]をしながら、僕は大学の敷地内から出た。別に眠いわけじゃない。けれど瞼が勝手に閉じてしまう。きっとそれは、このつまらない自分と、つまらない世界から目を逸らしたいだけなんだと思う。そう勝手に自己分析を進める自分を[漢字]貶[/漢字][ふりがな]けな[/ふりがな]して、僕は歩みを進める。
僕の名前は[漢字]石上[/漢字][ふりがな]いそのかみ[/ふりがな] [漢字]宅嗣[/漢字][ふりがな]やかづく[/ふりがな]。両親からは「有名な偉人のように、素晴らしい功績を残してほしい」と期待されて付けられた名前だ。別に知ったことではないが、何も功績などを飾れない僕は、親不孝者なんだろうなと思う。
小腹がすいたので、近くのカフェテリアに寄った。すぐ近くの椅子に腰かけると、「よぉ」と声をかけられる。振り返って見ると、喫煙所にてキセルをふかす美青年がそこにいた。
「なんだ。琥珀か」
「なんだとはなんだ。宅嗣」
そう言って口元を笑みにゆがめるのは、[漢字]屠龍 琥珀[/漢字][ふりがな]とりゅう こはく[/ふりがな]。彼は、僕の数少ない友人である。整った顔立ち、低くもよく通る声。切れ長の目はアイスグレーのサングラスに隠され、さらりと白銀の髪が頬を撫でる。男である僕さえもため息が出るような彼の美しさは、筆舌に尽くしがたい。
「琥珀も昼食を摂りに来たの?」
「まぁな。俺の昼飯はヤニだ」
琥珀はキセルを傾け、口からフ―ッと白い煙を出して笑った。それがいちいちサマになるから、困ったものだ。
「吸いすぎないようにしてね」
「俺がそんな忠告を聞くとでも思うのか?」
「……」
僕は首を振ってカフェテリアを後にした。不思議と、琥珀と話す日は食欲が霧散する。僕はそれをいい意味にとらえている。
今日は午前中のみの講義にしていたため、このあとは何もすることがなかった。だから僕は、何も考えずいつもと逆方向の電車に乗り込んだ。たまには冒険してみようとでも思ったのだろうか。
かたい座席に座り込み、窓から景色を除き込む。しかし見えたのは、生気のない僕自身の顔だった。
虚ろに彷徨う瞳。半開きになった口元。…それは全部、僕だ。
僕はすぐさま視線を逸らし、数分後に停車する電車から出ようと座席を立つ。僕らしい、つまらなくて短い冒険だった。そして席を立つと、よたよたと歩くおばあちゃんが素早く腰を下ろした。よく見ればそれは高齢者優先の座席である。何で気が付かなかったんだろう。心の中で謝る。
すると目が合って、おばあちゃんの口からごろりとした声が出てきた。
「お主、[太字]呪われている[/太字]ぞ」
え、と内心驚く。たかだか席を譲らなかっただけで、悪しざまに「呪われてる」なんて、酷すぎるのではないか。さらに、もっと緊張感を帯びた声で、おばあちゃんは言う。
「近いうちに、[太字]神さまのお導き[/太字]にあう」
それだけ言うと、おばあちゃんは停車した電車から降りて行ってしまった。おばあちゃんが退のいた座席は、すぐに別のおじさんが座ってしまった。僕は何も言えなくなってしまって、足早に電車から飛び出した。
一体、何だったんだ…?
あとから分かったけれど、冒険には「前兆」が必ずあるらしい。確かに、僕の冒険は、間違いなくこの時から始まっていたんだ。
小さい頃からそうだった。良いことも、悪いことも、幸せも、不幸も与えられず、ただ力なく生きているだけ。一言でいえば「つまらない人間」というカテゴリに放り投げられたようなもの。そんな僕のことは誰も見向きもしないから、僕も皆を見なくなった。
けれど、たまに思う。何かを大切に想って、それを守るために懸命に生きる人には、この景色がどんなふうに見えているんだろうって。
* * *
[漢字]欠伸[/漢字][ふりがな]あくび[/ふりがな]をしながら、僕は大学の敷地内から出た。別に眠いわけじゃない。けれど瞼が勝手に閉じてしまう。きっとそれは、このつまらない自分と、つまらない世界から目を逸らしたいだけなんだと思う。そう勝手に自己分析を進める自分を[漢字]貶[/漢字][ふりがな]けな[/ふりがな]して、僕は歩みを進める。
僕の名前は[漢字]石上[/漢字][ふりがな]いそのかみ[/ふりがな] [漢字]宅嗣[/漢字][ふりがな]やかづく[/ふりがな]。両親からは「有名な偉人のように、素晴らしい功績を残してほしい」と期待されて付けられた名前だ。別に知ったことではないが、何も功績などを飾れない僕は、親不孝者なんだろうなと思う。
小腹がすいたので、近くのカフェテリアに寄った。すぐ近くの椅子に腰かけると、「よぉ」と声をかけられる。振り返って見ると、喫煙所にてキセルをふかす美青年がそこにいた。
「なんだ。琥珀か」
「なんだとはなんだ。宅嗣」
そう言って口元を笑みにゆがめるのは、[漢字]屠龍 琥珀[/漢字][ふりがな]とりゅう こはく[/ふりがな]。彼は、僕の数少ない友人である。整った顔立ち、低くもよく通る声。切れ長の目はアイスグレーのサングラスに隠され、さらりと白銀の髪が頬を撫でる。男である僕さえもため息が出るような彼の美しさは、筆舌に尽くしがたい。
「琥珀も昼食を摂りに来たの?」
「まぁな。俺の昼飯はヤニだ」
琥珀はキセルを傾け、口からフ―ッと白い煙を出して笑った。それがいちいちサマになるから、困ったものだ。
「吸いすぎないようにしてね」
「俺がそんな忠告を聞くとでも思うのか?」
「……」
僕は首を振ってカフェテリアを後にした。不思議と、琥珀と話す日は食欲が霧散する。僕はそれをいい意味にとらえている。
今日は午前中のみの講義にしていたため、このあとは何もすることがなかった。だから僕は、何も考えずいつもと逆方向の電車に乗り込んだ。たまには冒険してみようとでも思ったのだろうか。
かたい座席に座り込み、窓から景色を除き込む。しかし見えたのは、生気のない僕自身の顔だった。
虚ろに彷徨う瞳。半開きになった口元。…それは全部、僕だ。
僕はすぐさま視線を逸らし、数分後に停車する電車から出ようと座席を立つ。僕らしい、つまらなくて短い冒険だった。そして席を立つと、よたよたと歩くおばあちゃんが素早く腰を下ろした。よく見ればそれは高齢者優先の座席である。何で気が付かなかったんだろう。心の中で謝る。
すると目が合って、おばあちゃんの口からごろりとした声が出てきた。
「お主、[太字]呪われている[/太字]ぞ」
え、と内心驚く。たかだか席を譲らなかっただけで、悪しざまに「呪われてる」なんて、酷すぎるのではないか。さらに、もっと緊張感を帯びた声で、おばあちゃんは言う。
「近いうちに、[太字]神さまのお導き[/太字]にあう」
それだけ言うと、おばあちゃんは停車した電車から降りて行ってしまった。おばあちゃんが退のいた座席は、すぐに別のおじさんが座ってしまった。僕は何も言えなくなってしまって、足早に電車から飛び出した。
一体、何だったんだ…?
あとから分かったけれど、冒険には「前兆」が必ずあるらしい。確かに、僕の冒険は、間違いなくこの時から始まっていたんだ。