秘密という名の「アイ」と「蜜」
深夜二時のコインランドリー。
回るドラムの音だけが響く空間で、私と彼は隣り合わせに座っていた。
「ねえ、知ってる? 『秘密(himitsu)』って言葉の中には、アイが二つも隠れてるんだよ」
私が不意に口にすると、隣で缶コーヒーを飲んでいた誠司(せいじ)は、「何それ」と低く笑った。
その横顔を見るたび、胸の奥がチリりと焼ける。
彼には、もうすぐ結婚する恋人がいる。
そして私は、その恋人の一番の親友だ。
「一つ目の『i』は、きっと『愛』。でも、もう一つの『i』は……なんだろうね」
私が視線を落とすと、誠司がゆっくりと缶を置いた。
「……たぶん、『私(I)』だろ。自分勝手な、自分だけの感情」
彼の言葉が、核心を突いて心に刺さる。
私たちは一線を越えていない。
けれど、こうして夜中に呼び出し合い、誰にも言えない言葉を交換していること自体、すでに甘い裏切りだった。
「私たちは、最低だね」
「ああ、最低だな」
言葉とは裏腹に、誠司の手が私の指先に触れる。
それは、花から溢れ出す濃密な「蜜」に触れるような、危うい感触だった。
隠せば隠すほど、その思いは純粋な「愛(アイ)」から遠ざかり、独占欲という名のドロリとした「蜜」に変質していく。
誰にも見られないこの空間で、彼から漂う洗剤の香りと、コーヒーの苦い匂いが混ざり合う。
この時間は、私にとっての世界のすべてで、そして同時に、決して明日へは持ち越せない毒だった。
「……ねえ、もう一つの『i』の名前、教えてあげようか」
私が耳元で囁くと、誠司が微かに息を呑んだ。
「それは『imu(忌む)』だよ。忌まわしくて、でも手放せない……汚れたアイ」
誠司は何も言わず、私の手を強く握り返した。
その強さが、彼も同じ「蜜」の毒に冒されていることを物語っていた。
洗濯機の終了を告げるブザーが、無機質に鳴り響く。
私たちは魔法が解けたように手を離し、それぞれの「正しい日常」へと戻る準備を始める。
秘密という名の「アイ」を二つ抱えて。
明日もまた、親友の前で、この甘い蜜の味を飲み込んで笑うのだ。
回るドラムの音だけが響く空間で、私と彼は隣り合わせに座っていた。
「ねえ、知ってる? 『秘密(himitsu)』って言葉の中には、アイが二つも隠れてるんだよ」
私が不意に口にすると、隣で缶コーヒーを飲んでいた誠司(せいじ)は、「何それ」と低く笑った。
その横顔を見るたび、胸の奥がチリりと焼ける。
彼には、もうすぐ結婚する恋人がいる。
そして私は、その恋人の一番の親友だ。
「一つ目の『i』は、きっと『愛』。でも、もう一つの『i』は……なんだろうね」
私が視線を落とすと、誠司がゆっくりと缶を置いた。
「……たぶん、『私(I)』だろ。自分勝手な、自分だけの感情」
彼の言葉が、核心を突いて心に刺さる。
私たちは一線を越えていない。
けれど、こうして夜中に呼び出し合い、誰にも言えない言葉を交換していること自体、すでに甘い裏切りだった。
「私たちは、最低だね」
「ああ、最低だな」
言葉とは裏腹に、誠司の手が私の指先に触れる。
それは、花から溢れ出す濃密な「蜜」に触れるような、危うい感触だった。
隠せば隠すほど、その思いは純粋な「愛(アイ)」から遠ざかり、独占欲という名のドロリとした「蜜」に変質していく。
誰にも見られないこの空間で、彼から漂う洗剤の香りと、コーヒーの苦い匂いが混ざり合う。
この時間は、私にとっての世界のすべてで、そして同時に、決して明日へは持ち越せない毒だった。
「……ねえ、もう一つの『i』の名前、教えてあげようか」
私が耳元で囁くと、誠司が微かに息を呑んだ。
「それは『imu(忌む)』だよ。忌まわしくて、でも手放せない……汚れたアイ」
誠司は何も言わず、私の手を強く握り返した。
その強さが、彼も同じ「蜜」の毒に冒されていることを物語っていた。
洗濯機の終了を告げるブザーが、無機質に鳴り響く。
私たちは魔法が解けたように手を離し、それぞれの「正しい日常」へと戻る準備を始める。
秘密という名の「アイ」を二つ抱えて。
明日もまた、親友の前で、この甘い蜜の味を飲み込んで笑うのだ。
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