図書館での調査は難航した。
このアパート、いや、かつての屋敷に関する公式な記録は驚くほど少なく、まるで誰かが意図的に歴史から抹消しようとしているかのようだった。
しかし、私たちは諦めなかった。
郷土史に詳しい司書に相談したところ、彼は古い新聞の縮刷版や個人の日記、手紙のコレクションといった、公式ではない資料を探すことを勧めてくれた。
数日後、私たちはようやく決定的な手がかりを見つけた。
それは、この土地にかつて住んでいた、ある名家の女性が残した手紙の束だった。その女性は、屋敷の主人について「才能に恵まれながらも、心に深い闇を抱えた人物」と描写していた。
手紙には、屋敷の主人が若い女性のピアニストと恋に落ちたものの、家のために別の女性と結婚させられそうになり、その女性ピアニストは屋敷から追放されてしまった、という悲劇的な物語が綴られていた。
女性ピアニストは故郷を追われ、失意のうちに亡くなったという。
「彼の罪、そして屋敷の主人の秘密…」
私は日記の言葉を反芻した。
主人の罪とは、愛する女性を裏切ってしまったことだろうか?
しかし、手紙の最後の数枚は、なぜか日付が飛んでおり、不自然に欠落していた。私たちは、何かが隠されていると感じた。
「この女性ピアニストが弾いていた曲、それが斉藤さんの頭の中にある曲と同じなんじゃないでしょうか?」
私は興奮気味に言った。
斉藤は静かに頷いた。
「そうかもしれない。あの音色は、悲しみと後悔に満ちている。まさに、彼女の気持ちを表しているようだ。」
私たちは、失われた手紙、あるいはこの物語の続きを知る手がかりを求めて、再び調査に没頭した。
そして、ついに衝撃的な事実を発見した。
屋敷の主人は、女性ピアニストを追い出した後、自責の念に駆られ、精神を病んでしまったという。
彼は毎晩のように、彼女が弾いていたピアノの曲を自分で弾き続け、狂気の果てに、屋敷のピアノの前で自ら命を絶ったそうだ。
「彼が死んだ後、屋敷はすぐに取り壊され、このアパートが建った…」
斉藤が震える声で言った。
「僕の夢に出てくる男は、屋敷の主人だったんだ。彼は、自分の罪を懺悔するために、ずっとあの曲を弾き続けていたんだ。」
そして、日記に記された「我々」とは、このアパートに住み、主人の魂の影響を受けてきた住人たちだったのだ。
彼らは皆、斉藤のピアノの音色を通じて、主人の悲しみや後悔といった感情を共有していた。
全ての謎が解けたかに見えた。
しかし、私はまだ違和感を覚えていた。
もし、主人が自らの罪を悔やんでいるだけなら、なぜ日記は「斉藤ノ観察日記ヲ書ケ」と命じたのだろうか?
単なる記憶の共有だけでなく、もっと深い目的があるはずだ。
その夜、アパートに戻った私は、再び日記を開いた。
ペンは勝手に動き出し、今度はこれまでとは違う、荒々しい筆跡で文字が書かれた。
「斉藤ハ、彼ノ魂ノ依リ代。贖罪ノタメニ、彼ノ体ヲ使ッテ、真実ヲ世界ニ伝エネバナラヌ。」
私は息をのんだ。
日記は、斉藤が屋敷の主人の魂の依り代になっており、彼を通して、何か重要な「真実」を伝えようとしているというのだ。
その真実とは何だろう?
私たちはまだ、この物語の核心に到達していなかった。
このアパート、いや、かつての屋敷に関する公式な記録は驚くほど少なく、まるで誰かが意図的に歴史から抹消しようとしているかのようだった。
しかし、私たちは諦めなかった。
郷土史に詳しい司書に相談したところ、彼は古い新聞の縮刷版や個人の日記、手紙のコレクションといった、公式ではない資料を探すことを勧めてくれた。
数日後、私たちはようやく決定的な手がかりを見つけた。
それは、この土地にかつて住んでいた、ある名家の女性が残した手紙の束だった。その女性は、屋敷の主人について「才能に恵まれながらも、心に深い闇を抱えた人物」と描写していた。
手紙には、屋敷の主人が若い女性のピアニストと恋に落ちたものの、家のために別の女性と結婚させられそうになり、その女性ピアニストは屋敷から追放されてしまった、という悲劇的な物語が綴られていた。
女性ピアニストは故郷を追われ、失意のうちに亡くなったという。
「彼の罪、そして屋敷の主人の秘密…」
私は日記の言葉を反芻した。
主人の罪とは、愛する女性を裏切ってしまったことだろうか?
しかし、手紙の最後の数枚は、なぜか日付が飛んでおり、不自然に欠落していた。私たちは、何かが隠されていると感じた。
「この女性ピアニストが弾いていた曲、それが斉藤さんの頭の中にある曲と同じなんじゃないでしょうか?」
私は興奮気味に言った。
斉藤は静かに頷いた。
「そうかもしれない。あの音色は、悲しみと後悔に満ちている。まさに、彼女の気持ちを表しているようだ。」
私たちは、失われた手紙、あるいはこの物語の続きを知る手がかりを求めて、再び調査に没頭した。
そして、ついに衝撃的な事実を発見した。
屋敷の主人は、女性ピアニストを追い出した後、自責の念に駆られ、精神を病んでしまったという。
彼は毎晩のように、彼女が弾いていたピアノの曲を自分で弾き続け、狂気の果てに、屋敷のピアノの前で自ら命を絶ったそうだ。
「彼が死んだ後、屋敷はすぐに取り壊され、このアパートが建った…」
斉藤が震える声で言った。
「僕の夢に出てくる男は、屋敷の主人だったんだ。彼は、自分の罪を懺悔するために、ずっとあの曲を弾き続けていたんだ。」
そして、日記に記された「我々」とは、このアパートに住み、主人の魂の影響を受けてきた住人たちだったのだ。
彼らは皆、斉藤のピアノの音色を通じて、主人の悲しみや後悔といった感情を共有していた。
全ての謎が解けたかに見えた。
しかし、私はまだ違和感を覚えていた。
もし、主人が自らの罪を悔やんでいるだけなら、なぜ日記は「斉藤ノ観察日記ヲ書ケ」と命じたのだろうか?
単なる記憶の共有だけでなく、もっと深い目的があるはずだ。
その夜、アパートに戻った私は、再び日記を開いた。
ペンは勝手に動き出し、今度はこれまでとは違う、荒々しい筆跡で文字が書かれた。
「斉藤ハ、彼ノ魂ノ依リ代。贖罪ノタメニ、彼ノ体ヲ使ッテ、真実ヲ世界ニ伝エネバナラヌ。」
私は息をのんだ。
日記は、斉藤が屋敷の主人の魂の依り代になっており、彼を通して、何か重要な「真実」を伝えようとしているというのだ。
その真実とは何だろう?
私たちはまだ、この物語の核心に到達していなかった。