星降るバス停
夕暮れ時、街外れの古いバス停にはいつも決まって一人の青年がいた。
彼の名はコウ。
いつもぼんやりと空を見上げているか、年季の入ったノートに何かを書き込んでいるかのどちらかだった。
「今日も来てるね、あの人」
隣のベンチに座っていた女子高生のミクが、友人のユイにこっそり耳打ちする。
ユイは興味なさそうにスマホをいじっていたが、コウが空に向けて手を伸ばす仕草を見て、少しだけ視線を向けた。
「変な人。星でも掴もうとしてるのかな?」
コウは彼らの視線に気づくことなく、夢中で空を見ていた。
彼が見ていたのは、まだ薄明るい空に現れ始めた、最初の小さな星たちだった。
コウがこのバス停に来るようになったのは、一週間前のこと。
いつものように最終バスを待っていると、突然空からポトリと星が降ってきたのだ。
それは本物の星ではなく、ガラス細工のように透き通った、小さなビー玉ほどの輝く塊だった。
コウは慌ててそれを拾い上げ、不思議に思いながらもポケットにしまった。
次の日も、その次の日も、同じ時刻に同じ場所で星が降ってきた。
コウは毎日それを集め、ノートに降ってきた時間や空の様子を記録するようになった。
誰にもこの不思議な現象を話せなかったが、毎日一つずつ増えていく星の欠片が、彼の日常を少しだけ特別なものに変えていった。
今夜も、約束の時間。
コウは集中して空を見つめる。
「……来た」
スッ、と音もなく、一つの光が彼の開いた手のひらに落ちてきた。
温かくもなく、冷たくもなく、ただじんわりと輝いている。
その時、ミクがベンチから立ち上がった。
「そろそろバス来ちゃう。行こっか」
バスが近づいてくる。
コウは急いでノートと星をポケットにしまう。
だが、その拍子に、ポケットから一つの星がコロリと落ちて、バス停の排水溝の隙間に入り込んでしまった。
「あ…!」
コウは慌てて覗き込むが、もう手は届かない。
今日手に入れたばかりの、一番新しい星だった。
ミクがその様子に気づいた。
「何落としたの?」
「いや、ちょっと…」
コウはごまかそうとしたが、ミクは彼が大事にしていたノートを見てしまった。
「星の記録…?」
コウは観念して、ミクとユイにこれまでの出来事を話した。
最初は信じなかった二人だったが、コウがポケットから取り出した、他の降ってきた星たちを見せると、そのあまりの美しさに息をのんだ。
「これ、本物…?」
ユイが震える声で尋ねる。
「すごい…」
コウは力なく笑う。
「でも、一つ落としちゃったんだ。排水溝に…」
バスが止まり、乗客たちが乗り込んでいく。
ミクはためらうことなく、小さな身体をかがめて排水溝を覗き込んだ。
「待って!私が取ってみる!」
ユイも手伝い、二人で隙間に腕を伸ばす。
少し汚れながらも、ミクの指先がようやく星の欠片に触れた。
「取れた!」
ミクの手のひらで、星は静かに輝いていた。
「ありがとう!」
コウは心から感謝した。
バスは出発の時間だ。
「ほら、急がないと置いてかれるよ!」
ユイがコウの手を引っ張る。
三人でバスに乗り込み、それぞれの席に座る。
バスが走り出すと、車窓の外には満天の星空が広がっていた。
コウはポケットの中の星の欠片を握りしめ、いつもの一人きりの帰り道が、少しだけ賑やかになったことに気づいた。
「明日も、ここで会える?」
ミクが隣から尋ねてきた。
コウは満面の笑みで頷いた。
「うん!」
次の日から、バス停はもうコウだけの秘密の場所ではなくなった。
三人は毎日集まって空を見上げ、降ってくる小さな星々を一緒に集めるようになった。
街外れのバス停は、いつしか彼らにとって、世界で一番星に近い、特別な場所になっていった。
彼の名はコウ。
いつもぼんやりと空を見上げているか、年季の入ったノートに何かを書き込んでいるかのどちらかだった。
「今日も来てるね、あの人」
隣のベンチに座っていた女子高生のミクが、友人のユイにこっそり耳打ちする。
ユイは興味なさそうにスマホをいじっていたが、コウが空に向けて手を伸ばす仕草を見て、少しだけ視線を向けた。
「変な人。星でも掴もうとしてるのかな?」
コウは彼らの視線に気づくことなく、夢中で空を見ていた。
彼が見ていたのは、まだ薄明るい空に現れ始めた、最初の小さな星たちだった。
コウがこのバス停に来るようになったのは、一週間前のこと。
いつものように最終バスを待っていると、突然空からポトリと星が降ってきたのだ。
それは本物の星ではなく、ガラス細工のように透き通った、小さなビー玉ほどの輝く塊だった。
コウは慌ててそれを拾い上げ、不思議に思いながらもポケットにしまった。
次の日も、その次の日も、同じ時刻に同じ場所で星が降ってきた。
コウは毎日それを集め、ノートに降ってきた時間や空の様子を記録するようになった。
誰にもこの不思議な現象を話せなかったが、毎日一つずつ増えていく星の欠片が、彼の日常を少しだけ特別なものに変えていった。
今夜も、約束の時間。
コウは集中して空を見つめる。
「……来た」
スッ、と音もなく、一つの光が彼の開いた手のひらに落ちてきた。
温かくもなく、冷たくもなく、ただじんわりと輝いている。
その時、ミクがベンチから立ち上がった。
「そろそろバス来ちゃう。行こっか」
バスが近づいてくる。
コウは急いでノートと星をポケットにしまう。
だが、その拍子に、ポケットから一つの星がコロリと落ちて、バス停の排水溝の隙間に入り込んでしまった。
「あ…!」
コウは慌てて覗き込むが、もう手は届かない。
今日手に入れたばかりの、一番新しい星だった。
ミクがその様子に気づいた。
「何落としたの?」
「いや、ちょっと…」
コウはごまかそうとしたが、ミクは彼が大事にしていたノートを見てしまった。
「星の記録…?」
コウは観念して、ミクとユイにこれまでの出来事を話した。
最初は信じなかった二人だったが、コウがポケットから取り出した、他の降ってきた星たちを見せると、そのあまりの美しさに息をのんだ。
「これ、本物…?」
ユイが震える声で尋ねる。
「すごい…」
コウは力なく笑う。
「でも、一つ落としちゃったんだ。排水溝に…」
バスが止まり、乗客たちが乗り込んでいく。
ミクはためらうことなく、小さな身体をかがめて排水溝を覗き込んだ。
「待って!私が取ってみる!」
ユイも手伝い、二人で隙間に腕を伸ばす。
少し汚れながらも、ミクの指先がようやく星の欠片に触れた。
「取れた!」
ミクの手のひらで、星は静かに輝いていた。
「ありがとう!」
コウは心から感謝した。
バスは出発の時間だ。
「ほら、急がないと置いてかれるよ!」
ユイがコウの手を引っ張る。
三人でバスに乗り込み、それぞれの席に座る。
バスが走り出すと、車窓の外には満天の星空が広がっていた。
コウはポケットの中の星の欠片を握りしめ、いつもの一人きりの帰り道が、少しだけ賑やかになったことに気づいた。
「明日も、ここで会える?」
ミクが隣から尋ねてきた。
コウは満面の笑みで頷いた。
「うん!」
次の日から、バス停はもうコウだけの秘密の場所ではなくなった。
三人は毎日集まって空を見上げ、降ってくる小さな星々を一緒に集めるようになった。
街外れのバス停は、いつしか彼らにとって、世界で一番星に近い、特別な場所になっていった。
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