僕と未来からのママン
ハルトにとって、母のミライは完璧な存在だった。
毎朝、焼きたてのパンと目玉焼きが完璧な配置で並ぶ食卓。
ピカピカに磨かれたリビング。
学校から帰れば、いつも「おかえり」と笑顔で迎えてくれる。
ご近所でも「理想の奥様」として評判だった。
ただ、時々、変なことを口走る癖があった。
「ハルト、今日の給食は合成プロテイン・ナゲットだったの? 私たちの時代では一般的な栄養源よ」
「お母さん、それ前にスーパーで買った冷凍食品だよ」
ハルトは慣れたもので、笑って流す。
母はいつも「あら、そうだったかしら」と首を傾げるだけ。
そんな些細な「天然」な部分も、ハルトは母の魅力だと思っていた。
その平穏な日常が崩れたのは、ある放課後のことだった。
公園のブランコに揺られていると、黒いスーツにサングラスをかけた、いかにも怪しい男が声をかけてきた。
「君がハルト君だね。私はクロノスという。君の母親、ミライ・エイジは、未来から逃亡した重要指名手配犯だ」
ハルトは鼻で笑った。
「映画の見過ぎじゃないの?」
クロノスは黙って、腕時計型の小型装置を取り出した。
装置から放たれた青白い光が、空中にホログラム映像を映し出す。
そこには、見慣れた母親の、しかしどこか冷たい表情の写真。
「時間犯罪者」という文字が、ハルトの目には冗談とは思えないほどリアルに浮かんでいた。
帰宅したハルトは、リビングで笑顔でエプロンをたたむ母に、クロノスから聞いた話をぶつけた。
「お母さん、未来人なの?」
ミライの手が止まった。
いつもの優しい笑顔が消え、初めて見る真剣な表情でハルトを見つめ返した。
長い沈黙の後、彼女はゆっくりと頷いた。
「ええ、そうなの。ごめんなさい、ハルト。ずっと隠していて」
ミライは真実を語り始めた。
彼女の故郷は、環境破壊が進み、管理社会となった遥か未来。
自由も感情も制限された世界に絶望し、唯一希望の持てる「現代」へタイムトラベルしてきたのだと。
そして、ハルトをそのディストピアから遠ざけ、健全な環境で育てるために、ごく普通の母親として生きてきたのだと。
ハルトの生活は一変した。
ミライは身を隠すために、未来の技術を駆使し始めた。
家事用ロボット(見た目はごく普通の最新型掃除機だが、人工知能が搭載されており、ハルトの宿題まで手伝おうとする)や、一時的に物体を透明化する装置。
ハルトは驚きと混乱の毎日を送った。
クロノスの追跡は執拗だった。
彼はあの手この手でミライを捕まえようとするが、現代の技術や文化に疎いため、どこか間抜けな失敗を繰り返した。
例えば、タイムトラベル技術を使ったGPSでミライを追跡しようとしたが、現代の地図データと同期できず、迷子になって交番で保護されたり。
追われる身となったことで、ハルトとミライはより一層強い絆で結ばれていった。ハルトは、完璧な母親を演じる裏で、どれだけ孤独で不安だったかを理解した。
「お母さん、もう大丈夫だよ。僕が守るから」
ミライはハルトを抱きしめ、初めて心からの涙を流した。
ある週末、ミライの居場所がクロノスに特定された。
近所の公園で、未来の技術を使った激しい攻防戦が繰り広げられる。
ミライはハルトを逃がそうとするが、クロノスが放った捕獲ネットがハルトに迫る。
「ハルト!」
その時、ハルトは叫んだ。
「お母さんは悪くない!」
彼はミライの未来のガジェットを手に取り、必死でクロノスに立ち向かった。
ハルトの必死な姿を見たクロノスは、未来世界では忘れられていた「家族愛」や「人間らしさ」といった感情に触れ、心が揺さぶられた。
彼はふと動きを止め、装置の電源を落とした。
「……今回は、見逃します。ですが、未来の記録は消えませんよ」
クロノスはそう言い残し、タイムマシンで未来へと消えていった。
彼の心の中には、未来の管理社会への大きな疑問が芽生えていた。
ミライは未来へ戻ることを選択しなかった。
ハルトと共に現代で生きていく決意をしたのだ。
彼女は未来の技術を全て封印し、本当にごく普通の母親として、ハルトの成長を見守り続ける。
ハルトの日常は再び平和に戻った。
相変わらず、時々「合成食料」なんて口走るけれど、ハルトはもう笑って流さない。
「お母さん、今日の夕飯、僕が手伝うよ」
彼の心の中には、未来人の母親とのスリル満点の冒険と、世界で一番強い絆が、永遠に残るのだった。
毎朝、焼きたてのパンと目玉焼きが完璧な配置で並ぶ食卓。
ピカピカに磨かれたリビング。
学校から帰れば、いつも「おかえり」と笑顔で迎えてくれる。
ご近所でも「理想の奥様」として評判だった。
ただ、時々、変なことを口走る癖があった。
「ハルト、今日の給食は合成プロテイン・ナゲットだったの? 私たちの時代では一般的な栄養源よ」
「お母さん、それ前にスーパーで買った冷凍食品だよ」
ハルトは慣れたもので、笑って流す。
母はいつも「あら、そうだったかしら」と首を傾げるだけ。
そんな些細な「天然」な部分も、ハルトは母の魅力だと思っていた。
その平穏な日常が崩れたのは、ある放課後のことだった。
公園のブランコに揺られていると、黒いスーツにサングラスをかけた、いかにも怪しい男が声をかけてきた。
「君がハルト君だね。私はクロノスという。君の母親、ミライ・エイジは、未来から逃亡した重要指名手配犯だ」
ハルトは鼻で笑った。
「映画の見過ぎじゃないの?」
クロノスは黙って、腕時計型の小型装置を取り出した。
装置から放たれた青白い光が、空中にホログラム映像を映し出す。
そこには、見慣れた母親の、しかしどこか冷たい表情の写真。
「時間犯罪者」という文字が、ハルトの目には冗談とは思えないほどリアルに浮かんでいた。
帰宅したハルトは、リビングで笑顔でエプロンをたたむ母に、クロノスから聞いた話をぶつけた。
「お母さん、未来人なの?」
ミライの手が止まった。
いつもの優しい笑顔が消え、初めて見る真剣な表情でハルトを見つめ返した。
長い沈黙の後、彼女はゆっくりと頷いた。
「ええ、そうなの。ごめんなさい、ハルト。ずっと隠していて」
ミライは真実を語り始めた。
彼女の故郷は、環境破壊が進み、管理社会となった遥か未来。
自由も感情も制限された世界に絶望し、唯一希望の持てる「現代」へタイムトラベルしてきたのだと。
そして、ハルトをそのディストピアから遠ざけ、健全な環境で育てるために、ごく普通の母親として生きてきたのだと。
ハルトの生活は一変した。
ミライは身を隠すために、未来の技術を駆使し始めた。
家事用ロボット(見た目はごく普通の最新型掃除機だが、人工知能が搭載されており、ハルトの宿題まで手伝おうとする)や、一時的に物体を透明化する装置。
ハルトは驚きと混乱の毎日を送った。
クロノスの追跡は執拗だった。
彼はあの手この手でミライを捕まえようとするが、現代の技術や文化に疎いため、どこか間抜けな失敗を繰り返した。
例えば、タイムトラベル技術を使ったGPSでミライを追跡しようとしたが、現代の地図データと同期できず、迷子になって交番で保護されたり。
追われる身となったことで、ハルトとミライはより一層強い絆で結ばれていった。ハルトは、完璧な母親を演じる裏で、どれだけ孤独で不安だったかを理解した。
「お母さん、もう大丈夫だよ。僕が守るから」
ミライはハルトを抱きしめ、初めて心からの涙を流した。
ある週末、ミライの居場所がクロノスに特定された。
近所の公園で、未来の技術を使った激しい攻防戦が繰り広げられる。
ミライはハルトを逃がそうとするが、クロノスが放った捕獲ネットがハルトに迫る。
「ハルト!」
その時、ハルトは叫んだ。
「お母さんは悪くない!」
彼はミライの未来のガジェットを手に取り、必死でクロノスに立ち向かった。
ハルトの必死な姿を見たクロノスは、未来世界では忘れられていた「家族愛」や「人間らしさ」といった感情に触れ、心が揺さぶられた。
彼はふと動きを止め、装置の電源を落とした。
「……今回は、見逃します。ですが、未来の記録は消えませんよ」
クロノスはそう言い残し、タイムマシンで未来へと消えていった。
彼の心の中には、未来の管理社会への大きな疑問が芽生えていた。
ミライは未来へ戻ることを選択しなかった。
ハルトと共に現代で生きていく決意をしたのだ。
彼女は未来の技術を全て封印し、本当にごく普通の母親として、ハルトの成長を見守り続ける。
ハルトの日常は再び平和に戻った。
相変わらず、時々「合成食料」なんて口走るけれど、ハルトはもう笑って流さない。
「お母さん、今日の夕飯、僕が手伝うよ」
彼の心の中には、未来人の母親とのスリル満点の冒険と、世界で一番強い絆が、永遠に残るのだった。
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