夢の代償
[あなたの夢、買います]
薄暗い路地裏、錆びた看板にそう書かれた小さな店があった。
店主は、シモンという名の、くたびれた男。
彼の仕事は、客の夢を買い取り、それを夢を見られなくなった人々に売ることだった。
客は様々だった。
人生に絶望した老人は、若き日の輝かしい夢を売りに来た。
悪夢に悩まされる青年は、安眠のため、恐ろしい夢を売った。
シモンは、彼らが差し出す夢を小さなガラス瓶に詰め込み、代わりに現金を渡す。
ある日、一人の少女が店を訪れた。
彼女は、記憶を失った親友のために、かつて二人で見た夢を買いたいと言う。
「その夢を具現化するには、相応の代価が必要になる」
とシモンは告げる。
「代価なら、これ」
少女は、親友との大切な思い出が詰まった、古ぼけたオルゴールを差し出した。
シモンは驚きを隠せない。
夢を具現化する代価は、夢そのものではなく、夢の根源となる思い出だったからだ。
シモンは、少女の依頼を引き受けることにした。
彼は、少女のオルゴールから「親友との夢」を抽出し、ガラス瓶に詰めた。
そして、記憶を失った少女にそれを飲ませる。
親友は、夢の中で彼女との思い出を追体験し、再び生きる力を取り戻した。
しかし、代価としてオルゴールを失った少女は、親友との思い出を忘れてしまった。
親友が記憶を取り戻したことを喜ぶ一方で、彼女の胸には、ぽっかりと穴が開いたような寂しさが残った。
その様子を見たシモンは、自分の過去を思い出す。
かつて彼も、病気で余命わずかな恋人のために、彼女の夢を買い取ったことがあった。
代価は、彼自身の「彼女と過ごした幸せな記憶」。
彼女は夢を取り戻したが、彼は彼女との思い出をすべて失った。
今、彼の店は、彼の失われた夢の残滓で成り立っている。
シモンは、夢を取り戻した親友と、思い出を失った少女の姿を、かつての自分と恋人に重ね合わせた。
彼は決意する。
この悲劇を繰り返してはならないと。
彼は、かつての自分と同じように苦しむであろう少女のため、ガラス瓶を一つ取り出した。
そこには、かつてシモンが恋人から買い取った夢が詰まっていた。
そして、その中には、失われたシモン自身の記憶も残されていた。
シモンは、そのガラス瓶を少女に渡す。
「これは、かつて私が手放した夢だ。だが、この夢には、君の思い出を取り戻す鍵が隠されている」
少女は、ガラス瓶を受け取り、中身を飲む。
すると、彼女の心の中に、親友との楽しかった思い出が少しずつ蘇ってきた。
シモンは、少女の記憶が戻っていく様子を、愛おしそうに見つめていた。
彼は、もう二度と、自分の夢を売ることはないだろう。
しかし、彼は知っていた。
夢の代償は、時には失うことではない。
誰かの夢を取り戻すことによって、自分自身の夢もまた、取り戻せるのだと。
薄暗い路地裏、錆びた看板にそう書かれた小さな店があった。
店主は、シモンという名の、くたびれた男。
彼の仕事は、客の夢を買い取り、それを夢を見られなくなった人々に売ることだった。
客は様々だった。
人生に絶望した老人は、若き日の輝かしい夢を売りに来た。
悪夢に悩まされる青年は、安眠のため、恐ろしい夢を売った。
シモンは、彼らが差し出す夢を小さなガラス瓶に詰め込み、代わりに現金を渡す。
ある日、一人の少女が店を訪れた。
彼女は、記憶を失った親友のために、かつて二人で見た夢を買いたいと言う。
「その夢を具現化するには、相応の代価が必要になる」
とシモンは告げる。
「代価なら、これ」
少女は、親友との大切な思い出が詰まった、古ぼけたオルゴールを差し出した。
シモンは驚きを隠せない。
夢を具現化する代価は、夢そのものではなく、夢の根源となる思い出だったからだ。
シモンは、少女の依頼を引き受けることにした。
彼は、少女のオルゴールから「親友との夢」を抽出し、ガラス瓶に詰めた。
そして、記憶を失った少女にそれを飲ませる。
親友は、夢の中で彼女との思い出を追体験し、再び生きる力を取り戻した。
しかし、代価としてオルゴールを失った少女は、親友との思い出を忘れてしまった。
親友が記憶を取り戻したことを喜ぶ一方で、彼女の胸には、ぽっかりと穴が開いたような寂しさが残った。
その様子を見たシモンは、自分の過去を思い出す。
かつて彼も、病気で余命わずかな恋人のために、彼女の夢を買い取ったことがあった。
代価は、彼自身の「彼女と過ごした幸せな記憶」。
彼女は夢を取り戻したが、彼は彼女との思い出をすべて失った。
今、彼の店は、彼の失われた夢の残滓で成り立っている。
シモンは、夢を取り戻した親友と、思い出を失った少女の姿を、かつての自分と恋人に重ね合わせた。
彼は決意する。
この悲劇を繰り返してはならないと。
彼は、かつての自分と同じように苦しむであろう少女のため、ガラス瓶を一つ取り出した。
そこには、かつてシモンが恋人から買い取った夢が詰まっていた。
そして、その中には、失われたシモン自身の記憶も残されていた。
シモンは、そのガラス瓶を少女に渡す。
「これは、かつて私が手放した夢だ。だが、この夢には、君の思い出を取り戻す鍵が隠されている」
少女は、ガラス瓶を受け取り、中身を飲む。
すると、彼女の心の中に、親友との楽しかった思い出が少しずつ蘇ってきた。
シモンは、少女の記憶が戻っていく様子を、愛おしそうに見つめていた。
彼は、もう二度と、自分の夢を売ることはないだろう。
しかし、彼は知っていた。
夢の代償は、時には失うことではない。
誰かの夢を取り戻すことによって、自分自身の夢もまた、取り戻せるのだと。
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