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化物界隈

#1

1話 MON STAR

「泥棒ぉぉぉ!!」

叫び声と共に目の前の居酒屋から男が出てくる。
どうやら食い逃げのようだ。

男はスーツ姿で逃げて行く。
誰もが知らんぷりをかます中、
僕の足は思わず動いていた。―――




男を追いかける。
同い年ぐらいだから追いつけるだろうと思ったが、
男は異様に速く、走るフォームがとても綺麗だ。
食い逃げ犯のする走りじゃない。
よっぽどの常習犯だな。

「待てぇぇ!!」

叫び声に男が気付く。
食い逃げなんかしたくてもできないぐらい顔立ちが良かった。

「おぉ。」

微かに男の驚きの声が聞こえた。
男の顔は笑っていた。

男は速度を緩めることなく、体力のない僕から徐々に離れていく。
でも僕も諦めない。
ここでこいつを捕まえれば警察から賞状も貰えるし、周りの見る目も変わるし。
新聞に載るかもしれない。
実は重大な罪を犯している指名手配犯で、
お詫び金がたっぷり,,,,
そんな期待を胸に足に力を入れた。




「はぁ〜、はぁ〜、」

どれくらい走ったのだろう。
男は散々走った挙げ句、近くに見えた廃墟ビルに自ら入り、
屋上まで逃げ回った。

「はぁ、はぁ、」

パチパチ♪

「はぁ,,,?」

「ここまで追ってくるとは、素晴らしいですね。まさか名も知らない一般人に見られていたとは。」

男は悠々とした口振りだ。

「君、名は何というのですか?ここまで来れた褒美として、聞いてあげましょう。」

何だこいつは。

「俺は、[漢字]凛人[/漢字][ふりがな]りひと[/ふりがな]。[漢字]多可馬[/漢字][ふりがな]たかば[/ふりがな]凛人だ。」

某名探偵のような自信を込めて強く名乗ると、
男がケラケラ笑った。

「わざわざ本名を名乗ってくれるとは(笑),,,あなた、才能がありますね。」

「才能?」

「ああ。『化物界隈』としての才能が。」

「化物界隈?」

こいつは何を言っているんだ?

「あんだけ走ったのにまだ酔ってるのか。まぁ、警察呼ぶからな。そこ動くなよ。」

「フッ。偉そうに。まだ僕が名乗ってないでしょう。僕の名前は『星男』。いい名でしょう?まぁこれは通称ですが。」

プルルル♪

「え、本当に呼ぶの?」

「呼ぶよ。食い逃げだろ。」

「食い逃げというか,,,もしかしてあなた僕をご存じでない!?」

「ない。」

「!?!?,,,僕ですよ!?星男です!この界隈を最前線で引率していると言っても過言ではない。」

この界隈とは、『化物界隈』のことだろうが、
『化物界隈』って何だ?
酔ってるんじゃないのか?

「どこかで見て、忘れてるんじゃない??ほら、この顔よく見てよ。なんか見覚えあるでしょ。ほら。」

「何だそれ。」

「この僕を,,,知らない,,,っ!?,,,やはりあなたには才能がある。」

「あ、もしもし警察ですか?――」



「――はい。そうです。そこの屋上です。すぐ来てください。」

通話を切る。
男は素直にその場で待っていた。が、
なぜか服を脱いでいた。
欲にも素直なようだ。

「そんなことしたって疑いが深まるだけですよ。」

「下半身は出さないから安心してください。それよりこの腹筋を見ても僕が逮捕されると思いますか?」

男は綺麗なシックスパックを持っていた。
堂々と見せてくれるけど、
残念ながら僕にそんな趣味はない。

「マッチョにマトモな人はいない。」

「マトモなやつは強くなれない。僕のような化物になって始めて強くなれる。」

「欲には弱いんだな。」

「あなたは強そうですね。」

「俺は弱いよ。」

「いや、あなたは強い。」

真っ直ぐと言われ、戸惑う。

「裸になったんだし、酔覚ましてくださいよ。」

「知らないなら教えてあげましょう。僕は化物界隈最前線に立つ、[漢字]星男[/漢字][ふりがな]ほしおとこ[/ふりがな]。またの名をキラキランナーと言います。以後、お見知り置きを。」

上裸で高らかに言う男に感情を消していると、
サイレンが聞こえてきた。

「乙かれ様でした。」

俺が目一杯悪意を込めて言うが、
男は依然とゆらりとした態度は変えない。

少し待っていると、
警察が屋上への階段のドアを開ける音が響いた。

「食い逃げの容疑で,,,,あれ?」

早々宣言しようとした警察の言葉が途切れ、
瞳の様子が変わるのを俺は見逃さなかった。

「あの星男さんじゃないですか!!!」

その目がぱっと輝いたかと思うと、
警察は男の元に駆けていく。

「そうだ。僕があの星男だ。すごいだろう。」

男はドヤ顔で腹のシックスパックを張る。

「なんて綺麗なお肌なんだ!!」

来て数秒間で消えたらしい顔はもう欠片もなく、
警察はアイドルのファンのようにはしゃいでいる。
賄賂か何かと疑ったが、多分違う。
警察はただ純粋に惹かれている。

気味が悪くなり、足早にその場を去る。
去り際、男が何か言っているのが聞こえた。

「凛人ぉぉ!!最後に教えてやる!!お前はまだ自分が何者なのか分かっちゃいないだろう!!!」

何を言ってるんだ。あいつは。

「お前も化物だ!!!僕らと同じっ!!!」

パトカーのサイレンがまた鳴り響く。

「お前は心当たりがないだろうが、俺は見抜いたっ!!!」

段々サイレンの数が増え、音も大きくなっていく。

「お前は―――の化物だぁぁ!!!」






ビルから出ると、
近くの道にパトカーが数台止まっていた。
警察が数十人集まっていて、
夜だからか通行人はいなかった。
二人の男が俺に気づき近寄ってくる。

「君が通報してくれたのか。」

無機質でよく通る声。
刑事のような格好をした30後半の見た目の男で、
それより若そうなスーツ着の男が後ろにいる。
部下だろうか。

「はい。そうです。」

「そうか。ありがとう。」

刑事男のまた無機質な声。
どこか耳に心地良い感じがする。
顔にも感情が無い。
よく見ると髭を生やしている。

男二人は歩きだす。
30代の刑事なんて珍しいな。
何処か不思議なオーラを味わい立ち尽くしていると、
部下男の言葉が届いた。

「一人、先に駆け込んだそうですが、見事にやられてるでしょうね。」

「そうか。」

男二人はビルに入っていった。

帰ろう。ここはどこだろう。
ふと我に返り思う。

「ご自宅までお送りしましょうか?」

見かねた警察が一人駆け寄ってきてくれた。




パトカーに揺られ、
スマホを開くとたくさんの通知が来ていた。

『食い逃げ犯を追っかけてた。』

そうラインを入れ閉じる。
厄介な彼女だけれど、
暴力はしないし美人だ。
何よりも俺にゾッコンだ。
そうじゃなくたって別にいいけど、
そうだったから、今は毎日が幸せだ。

そういえばあの食い逃げ犯は俺に最後なんて言ったんだろう。
なんとかの化物って。

化物界隈、星男。

今度ネットで調べてみようか。
全部あいつのでっち上げだったら面白い。
本当に酔ってたってことだ。
あいつの場合、酒じゃなく自分にだろう。

考えを巡らせていると段々眠気がくる。
こんな遅くまで社会に貢献したんだし、
寝てもいいよな。

俺は意識を手放した。






【 化 物 界 隈 】


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2025/03/12 19:53

cabos
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