アイドルそっくりだからって、センターになっちゃった……!?
[大文字]「お前、あいつにそっくりだからステージに立て!」[/大文字]
そう言われたのは、大きなライブ会場のド真ん中だった。
客席で?
違う、違う。
スポットライトを浴びながら、
ステージの真ん中で、
目の前の、どこかで見たことがあるイケメンが言ったの。
「ワタシが……?なんで???」
でも、イケメンはワタシを助けてなんてくれなかった。
「今からレッスンする。ひとつでも覚えろ。三時間後には、ライブがはじまるぞ」
何を言っているか、ぜんぜんわかんない。
ワタシ、悪い夢でもみてるのかな?
ほんの少し前まで、トモダチと買い物してただけなのに――。
[水平線]
今日の朝から、思い出してみる。
トモダチと、ちょっと遠くのショッピングセンターまででかけたんだ。
映画を見て、カフェでフラペチーノを飲んだ後、そろそろ帰ろうとしてたんだ。
「ね、ちょっとトイレ行きたい」
友達が言って、じゃあワタシもって行ったんだよね。
それから、ワタシが先に出たっぽくて、トイレの前で待ってた。
「お前、こんなとこにいたのかよ」
「え……?」
だれ?
びっくりしちゃった。
急に声かけらたのもだけど。
きれいな顔の男のひとだから。
「みんな待ってる。来い」
「な、なんですか……!」
腕を引っ張られて、ワタシは店の外に出ちゃった。
「乗って。はやく」
車に乗せられて、ドアを閉められて。
車はすごいスピードで走る。
「なんですか?ゆーかいですよ!?」
「うるさい、お前ずっといなくなって。みんな迷惑かけてんだぞ」
怖くて、びっくりして、男の人から叱られるなんてないから、涙が出てきた。
「……ごめん。ホント。ぜんぜんいないから、ずっと探してた。大きな声出してごめん」
頭をなでて、ワタシが泣き止むまでずっと、優しかった。
[水平線]
「ついたぞ」
と言われて車から降りた。
「……どこですか、ここ」
「忘れたのか?ま、いいや。ついてきて」
今度は優しく手を引く。
車は、ワタシたちが降りたら、どこかに行っちゃった。
重いトビラを開けて、その先は長い通路。
「おつかれさまです」
通りすがる大人が言う。
「おつかれさまです」
男の人も言う。
「お前もあいさつするんだよ。失礼だろ」
っていわれたから、マネをする。
「お、おつかれさまです……」
「おつかれさま。……ってみゆちゃん、体調だいじょうぶなの?」
「え、みゆ……?ワタシ――」
人違いですって言おうとしたら、
「あ、すみません!まだ調子悪いみたいで」
と男の人がかばった。
それで、どんどん歩いていって、ドアを開けた。
「ここ、座って」
男の人がいって、私はイスに座った。
「あんた、桜川みゆだよな?」
「あの、ワタシ、人違いです……」
申し訳なくて、小さな声で答えた。
「はあ……マジかよ。あんた、名前は?」
「ワタシは本田まゆみ、です」
「マジで?記憶喪失とか、事故にあったとかもナシ?」
「ナシです。ぜんぜん。……ごめんなさい。普通の中学生です……」
「オレ、勘違いして誘拐したってこと?」
「……です」
男の人は、大きなため息をついて、地面に座り込んだ。
「ワタシ、帰ってもいいですか?」
だって人違いだし、誘拐されちゃったし。
トモダチだって、待ってるし。
でも、男の人は、ワタシを見上げてニコッと笑った。
「あんた、ちょっと来て」
「え……」
また腕を引かれて、歩く。
どんどん歩く先に、暗い道があって、その先はまぶしかった。
「どこですか、ここ」
「ここ?知らないの?アイドルになったら、ここに立ちたいって夢の場所」
まぶしいのは、天井から何個もライトが照らすから。
ステージの真ん中にいるって気が付いたのは、男の人が手を離した時。
「あっちを見ろ」
指を差した先をみたら、観客席があった。
ぜんぜん人はいないけど、どこまでも広くて、ステージの上からどこまでも見えるの。
「お前はセンターだ。桜川みゆになるんだ」
「急すぎる……」
答えはくれなかった。
「お前、あいつにそっくりだからステージに立て!」
「今からレッスンする。ひとつでも覚えろ。三時間後には、ライブがはじまるぞ」
「あなた、誰なの?」
「俺?俺はミチヒロ」
「ミチヒロって、テレビで聞いたことある……」
「この間、海外公演やってきたからな」
ママが言ってた。
ミチヒロのファンだって。
それで、すごいダンサーだって。
「ここ、立って」
「はい……」
「鏡の中の俺の動き、真似して」
「わ、わかった……」
左右にステップして、右手と左手を動かして……ああ、ちょっと早すぎる…………バタッ
「何してんだよ」
「そんなこと言っても、ダンスなんて初めてで」
「センスあるよ。大丈夫」
と言って、またレッスンを続ける。
わかんないけど、体は動けたし、うまくできたら褒めてくれるし。
「ちょっと休憩する。なんか飲む?おごるよ」
って、好きなジュース買ってくれた。
「あ……あの、もうママが心配するから……」
壁の時計はもう5時になってた。
「ああ、そっか。じゃ、送る」
って言った。
やっと帰れるの?
ホッとしたら、急に力が抜けちゃった。
「おい、大丈夫か?」
ミチヒロが手を伸ばした時――。
[水平線]
「えっ、みゆ!?」
女の子の声がした。
「帰ってきたの?……みんな!ちょっときて」
もう一人の声がした。
レッスン室のドアが開いて、4人の女の子が来た。
「えっ、あの……」
「ちょっと、どこいってたの。心配したんだからね」
「まって!私も話したい~」
わーわー話しかけられて、困る。
するとミチヒロさんが、女の子たちを止めた。
「話があるから、集合!」
「……はーい」
みんながミチヒロさんのまわりに集まった。
「この子は、代理だ。みゆじゃない」
「えーーー!?」
「静かに。ここからは俺たちのシークレットだ。みゆはまだ見つかってない。こいつ、似てるだろ?」
みんながコクコクうなずく。
「ダンス教えて、ライブ当日、とりあえず立ってもらう。それしかない」
ロングヘアの女の子が、前に出た。
「みゆじゃないのに、いいんですか?」
「とりあえず、だ。みゆは探してる」
ショートカットのつり目の子が、ワタシをみながら言った。
「ダンスできるの?」
「センスはある。けど、今までのパフォーマンスは難しい。フォーメーションを変える」
「でも、ライブで失敗しない?」
「お前たちがカバーしろ。今までだってやってきただろ」
「……」
つり目の子は、ワタシをにらんだ。
「失敗したらゆるさないんだから。みゆを返して」
「……みゆがいないのは、この子のせいじゃない。とりあえず、今日はもう終わり。明日また同じ時間に集合な!」
解散!といったら、女の子たちはどこかに行ってしまった。
[水平線]
おうちに帰ってくる。
ママは心配してて、家の前で待ってた。
「どこにいってたの。心配してたのよ」
「ごめんなさい」
「もう!……って、ミチヒロさん!?」
「こんばんは。お嬢さんを勝手に連れ出してしまい、すみません」
「えっ、何があったの?」
びっくりして目をパチパチさせたママは、とりあえずといってミチヒロさんも家に入れた。
「――ということがあって、本田まゆみさんの力を借りたいんです」
「そんなことがあったんですね。まゆみはどうするの?」
「ワタシ……!?え、と、」
ミチヒロさんはワタシに頭を下げて、
「ライブまででいいから、力を貸してくれ」
って言う。
「ママは反対しないの?」
って聞いたら、ママは
「わたしは、せっかくだからいいんじゃないかなって。ミチヒロさんのファンだし」
って、味方でもない。
「う、うう……」
しばらく悩んで、ワタシは二人に言った。
「わかりました!ワタシ、やります。がんばります!」
大人ふたりとで、ニッコニコして笑って。
ミチヒロさんは契約書を出して、ママはすぐにサインしちゃった。
どうしよう。
アイドルの代理になっちゃった……!?
[水平線]
レッスンは、ミチヒロさんから教えてもらっていた。
「わたしたちも一緒にやりた~い!」
って飛び込んできたのは、ことり。
みゆと一番なかよしなんだって。
「みゆにみえるように、メイクしてあげる」
ロングヘアのリツが、メイクをしてくれた。
「あんたが下手だったら、ぜんぶだめになるんだから」
怒ってるみたいに聞こえるけど、ヒナはけっこういいひと。
「だーいじょうぶ!なんとかなる」
ってゆったり話すのはノドカ。みんなをまとめてくれるお姉ちゃんみたい。
「ごめんね、ちゃんとやるから」
ワタシがいうと、
「ワタシじゃなくて、みゆは~っていうんだよ」
「み、みゆ、ちゃんとやるから」
「そーそー」
そんな感じで、なんとなく仲良くなれたみたい。
「休憩したら、リハするぞ」
ミチヒロさんがいった。
つまり、ステージで練習するってこと。
ちょっとドキッとする。
できるかな、だいじょうぶかな。
みんなをみたら、「だいじょうぶ!」ってニコニコ笑ってる。
リハーサルのために、ステージに行く。
衣装とメイクもして。
衣装はみゆのだけど、サイズもぴったりだった。
「――じゃあ、音流すぞ」
合図があって、曲が始まる。
最初はみんな横一列で、順番にソロダンスをするんだ。
ワタシは最後。
みんなのダンスを横目で見ながら、心臓はバクバクしてる。
(ワタシの番だ――)
ジャンプしてから、くるんと回転する。
ステップを踏んで……みゆが得意なやつ。
最後にジャンプして、決めポーズ……あっ。
足首が変な風に曲がっって、転ぶ。
「大丈夫!?」
みんながやってくる。音が止まる。
「だ、だいじょう――痛っ」
立てないくらい痛い。
「そっちに行く」
ステージの下にいたミチヒロさんがきて、ワタシの足首を見た。
「ねんざしてるな。病院に行くぞ」
「えっ、あの――」
抱きかかえられる。
みんなが「きゃー!」っていう。
ちょっとはずかしい。
「暴れるなよ。首、つかまってろ」
ミチヒロさんの首に、両腕をまわす。ぎゅって抱きつく。
ミチヒロさんが歩くと、ドキドキがとまらない。
心臓がうるさいくらい。
車の後ろの席に座らされる。
運転するのはミチヒロさん。
病院についたら、また抱っこされて、受付のとこのイスに座る。
「よかったら、使ってください」
って看護師さんが車いすを出してくれなかったら、ずっとお姫様抱っこだったかも……。
お医者さんは、ワタシの足をみて、
「ねんざですね。治療します」
って湿布と包帯をしてくれて、一応の薬もくれた。
「ごめん、無理させたかも」
ミチヒロさんが言った。
「ワタシ……じゃなくて!みゆ、できると思ったもん。だいじょうぶ」
「ごめん。立てないし、ダンスできないから、ちょっと考えよう」
「ライブまで治らないの?」
「たぶん」
リハに戻ってから、ワタシはイスに座ることになっちゃった。
せっかくダンス教えてくれたのに、ごめん。
みんなに謝った。
みんなは、責めたりしなくて、
「前にけがしたときも、こうしてたし、ファンのみんなもわかってくれるよ」
「みゆがいるってだけで、きっとだいじょうぶ」
それで、ライブ当日までは安静にしつつ、座って歌うことになった。
[水平線]
ライブ当日。
衣装を着て、メイクをして、本番まで待つ。
みんなはお弁当食べたり、SNS更新したり。
「みゆも更新する?」
ワタシは首を振った。
「本物じゃないって言われたら、困るから」
リツがワタシの顔をのぞきこんだ。
「みゆだって思うメイクしてるから大丈夫」
ことりがワタシにぎゅっと抱きついた。
「わたしと並んで撮らない?だいじょうぶでしょ」
ヒナが反対側に抱きついた。
「ヒナだって……!」
ノドカがスマホを持ってきた。
「だったら、みんなでやろうよ。みゆちゃん真ん中んして、みんなで座って」
「は~い!」
サビの部分を手だけで踊る。
あんまり動かないから、これは平気。
動画を何回か撮り直して。
「じゃあ、あげるね~」
動画のアップが終わった瞬間、ノドカのスマホが何度も鳴る。
「わ、早い。みんな待ってたんだ」
「ほんとだ。メンション来てる」
「みゆも、ほら見て」
ことりがスマホをみせてくれた。
「みんな、かわいいいいいいいい」
「マジすこ」
「みゆちゃんありがと」
「ちょ、そこ入らせて」
次々に出てくるコメント。
「すごい、みんなみてる」
感動して言ったら。
「今度はわたしたちの番だよ。がんばろうね!」
ことりが言った。
「みゆはスマホ壊れたことになってるから。わたしたちで返事するね?」
ノドカが言う。
「お願いします……」
ライブまであと少し。
[水平線]
「じゃあ、そろそろバックステージ行くぞ」
ミチヒロさんが呼ぶ。
「みゆ、こっち」
で、ミチヒロさんが運ぼうとする。
「いや、大丈夫で――」
断ろうとしたけど、やっぱりお姫様抱っこされる。
それで、カーテンがまだ開いてないステージの真ん中のイスに座る。
「――ご来場のみなさまに、ご案内いたします」
ノドカの声だ。
「本日はわたしたちの公演に来てくださいって、ありがとうございます」
「公演にさきだちまして、お願いがあります」
「公演中は所定の時間以外の撮影と録画は禁止しています。わたしたちがいいよっていうまで、スマホは電源を切るか、マナーモードにしてください」
みんなで順番に、ナレーションをしている。
「じゃあ、みゆ、合図をしてね!」
え、ええっ。
びっくりしてたら、ことりがマイクを持ってきた。
「3,2,1って言って」
「わかった。――さん、にー、いちっ」
「「「「スタート!」」」」
四人の声と同時に、カーテンが開く。
カーテンの向こうから、わーわーと声がする。
その中でも「みゆちゃーん」って呼ぶ声が、たくさん聞えた。
ワタシは、せいいっぱい歌った。
[水平線]
「ライブ、大成功だったね」
「だよね。みゆも見てたかな?」
「みてたよ。LINE返ってきたし」
みゆの返事は、スタンプ一つだった。
「ごめん、だって」
楽屋で着替え終わったら、ミチヒロさんがやってきた。
「みゆ、みつかった」
「ほんと?」
「ちょっと嫌になってたんだって。明日会う」
そっか、いたんだ。
ちょっと胸が苦しい。
「じゃあ、この子はどうするの?」
「それは、保留。とりあえず帰ろう」
ミチヒロさんの車で、ワタシは帰った。
ママは待っててくれた。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、娘もすてきな思い出になったと思います」
「で、すみませんが、明日も迎えに来ていいですか?」
「ええ、いいですよ」
ママ、軽っ。
次の日。
本物のみゆは、事務所にやってきた。
「あなたが代理の?」
可愛い声。
ワタシと同じなんて思えない。
「はい。そーです」
「ありがとう。みゆの代わりをしてくれて。ライブ、たのしかった?」
「……はい。ぜんぜん、できてなかったかもだけど。たのしかったです」
「そっか。……ミチヒロさん、みゆ、お願いあるんだけど」
「なに?」
「この子、これからもみゆの代理にしてもいい?」
にっこり笑う。アイドルスマイル。
「え……それって」
「みゆ、持病があって治療があるから。たまにいなくなるかもだし」
「詳しく聞かせてくれる?」
ミチヒロさんが言って、詳しい話を聞いた。
緊張でどこかに行きたくなるんだって。よくわかんないけど。
それで、たまにワタシがいたらいいなあって……。
「それは、今日は決められない。本田さんの保護者の許可がないと」
「ちぇー。わかったー」
それで、とりあえず話はもちこし。
「でもさ、内緒でアイドルやれたら楽しいと思わない?」
ってみゆに誘われたけど。
「期間限定だったからできただけで、むずかしーよ」
って言っちゃった。
結局、ミチヒロさんはママに言わなくて。
ワタシのとこに、ミチヒロさんはもう来なくなって。
みんなどうしてるんだろうって思ったら、
今年、紅白に出るってきいて、びっくりしちゃった。
みゆが、紅白のインタビューで言ったんだ。
「みゆが困ってた時に助けてくれた女の子に、また会いたいです」
って。
まさか、紅白に来てってことじゃないよね……?
そう言われたのは、大きなライブ会場のド真ん中だった。
客席で?
違う、違う。
スポットライトを浴びながら、
ステージの真ん中で、
目の前の、どこかで見たことがあるイケメンが言ったの。
「ワタシが……?なんで???」
でも、イケメンはワタシを助けてなんてくれなかった。
「今からレッスンする。ひとつでも覚えろ。三時間後には、ライブがはじまるぞ」
何を言っているか、ぜんぜんわかんない。
ワタシ、悪い夢でもみてるのかな?
ほんの少し前まで、トモダチと買い物してただけなのに――。
[水平線]
今日の朝から、思い出してみる。
トモダチと、ちょっと遠くのショッピングセンターまででかけたんだ。
映画を見て、カフェでフラペチーノを飲んだ後、そろそろ帰ろうとしてたんだ。
「ね、ちょっとトイレ行きたい」
友達が言って、じゃあワタシもって行ったんだよね。
それから、ワタシが先に出たっぽくて、トイレの前で待ってた。
「お前、こんなとこにいたのかよ」
「え……?」
だれ?
びっくりしちゃった。
急に声かけらたのもだけど。
きれいな顔の男のひとだから。
「みんな待ってる。来い」
「な、なんですか……!」
腕を引っ張られて、ワタシは店の外に出ちゃった。
「乗って。はやく」
車に乗せられて、ドアを閉められて。
車はすごいスピードで走る。
「なんですか?ゆーかいですよ!?」
「うるさい、お前ずっといなくなって。みんな迷惑かけてんだぞ」
怖くて、びっくりして、男の人から叱られるなんてないから、涙が出てきた。
「……ごめん。ホント。ぜんぜんいないから、ずっと探してた。大きな声出してごめん」
頭をなでて、ワタシが泣き止むまでずっと、優しかった。
[水平線]
「ついたぞ」
と言われて車から降りた。
「……どこですか、ここ」
「忘れたのか?ま、いいや。ついてきて」
今度は優しく手を引く。
車は、ワタシたちが降りたら、どこかに行っちゃった。
重いトビラを開けて、その先は長い通路。
「おつかれさまです」
通りすがる大人が言う。
「おつかれさまです」
男の人も言う。
「お前もあいさつするんだよ。失礼だろ」
っていわれたから、マネをする。
「お、おつかれさまです……」
「おつかれさま。……ってみゆちゃん、体調だいじょうぶなの?」
「え、みゆ……?ワタシ――」
人違いですって言おうとしたら、
「あ、すみません!まだ調子悪いみたいで」
と男の人がかばった。
それで、どんどん歩いていって、ドアを開けた。
「ここ、座って」
男の人がいって、私はイスに座った。
「あんた、桜川みゆだよな?」
「あの、ワタシ、人違いです……」
申し訳なくて、小さな声で答えた。
「はあ……マジかよ。あんた、名前は?」
「ワタシは本田まゆみ、です」
「マジで?記憶喪失とか、事故にあったとかもナシ?」
「ナシです。ぜんぜん。……ごめんなさい。普通の中学生です……」
「オレ、勘違いして誘拐したってこと?」
「……です」
男の人は、大きなため息をついて、地面に座り込んだ。
「ワタシ、帰ってもいいですか?」
だって人違いだし、誘拐されちゃったし。
トモダチだって、待ってるし。
でも、男の人は、ワタシを見上げてニコッと笑った。
「あんた、ちょっと来て」
「え……」
また腕を引かれて、歩く。
どんどん歩く先に、暗い道があって、その先はまぶしかった。
「どこですか、ここ」
「ここ?知らないの?アイドルになったら、ここに立ちたいって夢の場所」
まぶしいのは、天井から何個もライトが照らすから。
ステージの真ん中にいるって気が付いたのは、男の人が手を離した時。
「あっちを見ろ」
指を差した先をみたら、観客席があった。
ぜんぜん人はいないけど、どこまでも広くて、ステージの上からどこまでも見えるの。
「お前はセンターだ。桜川みゆになるんだ」
「急すぎる……」
答えはくれなかった。
「お前、あいつにそっくりだからステージに立て!」
「今からレッスンする。ひとつでも覚えろ。三時間後には、ライブがはじまるぞ」
「あなた、誰なの?」
「俺?俺はミチヒロ」
「ミチヒロって、テレビで聞いたことある……」
「この間、海外公演やってきたからな」
ママが言ってた。
ミチヒロのファンだって。
それで、すごいダンサーだって。
「ここ、立って」
「はい……」
「鏡の中の俺の動き、真似して」
「わ、わかった……」
左右にステップして、右手と左手を動かして……ああ、ちょっと早すぎる…………バタッ
「何してんだよ」
「そんなこと言っても、ダンスなんて初めてで」
「センスあるよ。大丈夫」
と言って、またレッスンを続ける。
わかんないけど、体は動けたし、うまくできたら褒めてくれるし。
「ちょっと休憩する。なんか飲む?おごるよ」
って、好きなジュース買ってくれた。
「あ……あの、もうママが心配するから……」
壁の時計はもう5時になってた。
「ああ、そっか。じゃ、送る」
って言った。
やっと帰れるの?
ホッとしたら、急に力が抜けちゃった。
「おい、大丈夫か?」
ミチヒロが手を伸ばした時――。
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「えっ、みゆ!?」
女の子の声がした。
「帰ってきたの?……みんな!ちょっときて」
もう一人の声がした。
レッスン室のドアが開いて、4人の女の子が来た。
「えっ、あの……」
「ちょっと、どこいってたの。心配したんだからね」
「まって!私も話したい~」
わーわー話しかけられて、困る。
するとミチヒロさんが、女の子たちを止めた。
「話があるから、集合!」
「……はーい」
みんながミチヒロさんのまわりに集まった。
「この子は、代理だ。みゆじゃない」
「えーーー!?」
「静かに。ここからは俺たちのシークレットだ。みゆはまだ見つかってない。こいつ、似てるだろ?」
みんながコクコクうなずく。
「ダンス教えて、ライブ当日、とりあえず立ってもらう。それしかない」
ロングヘアの女の子が、前に出た。
「みゆじゃないのに、いいんですか?」
「とりあえず、だ。みゆは探してる」
ショートカットのつり目の子が、ワタシをみながら言った。
「ダンスできるの?」
「センスはある。けど、今までのパフォーマンスは難しい。フォーメーションを変える」
「でも、ライブで失敗しない?」
「お前たちがカバーしろ。今までだってやってきただろ」
「……」
つり目の子は、ワタシをにらんだ。
「失敗したらゆるさないんだから。みゆを返して」
「……みゆがいないのは、この子のせいじゃない。とりあえず、今日はもう終わり。明日また同じ時間に集合な!」
解散!といったら、女の子たちはどこかに行ってしまった。
[水平線]
おうちに帰ってくる。
ママは心配してて、家の前で待ってた。
「どこにいってたの。心配してたのよ」
「ごめんなさい」
「もう!……って、ミチヒロさん!?」
「こんばんは。お嬢さんを勝手に連れ出してしまい、すみません」
「えっ、何があったの?」
びっくりして目をパチパチさせたママは、とりあえずといってミチヒロさんも家に入れた。
「――ということがあって、本田まゆみさんの力を借りたいんです」
「そんなことがあったんですね。まゆみはどうするの?」
「ワタシ……!?え、と、」
ミチヒロさんはワタシに頭を下げて、
「ライブまででいいから、力を貸してくれ」
って言う。
「ママは反対しないの?」
って聞いたら、ママは
「わたしは、せっかくだからいいんじゃないかなって。ミチヒロさんのファンだし」
って、味方でもない。
「う、うう……」
しばらく悩んで、ワタシは二人に言った。
「わかりました!ワタシ、やります。がんばります!」
大人ふたりとで、ニッコニコして笑って。
ミチヒロさんは契約書を出して、ママはすぐにサインしちゃった。
どうしよう。
アイドルの代理になっちゃった……!?
[水平線]
レッスンは、ミチヒロさんから教えてもらっていた。
「わたしたちも一緒にやりた~い!」
って飛び込んできたのは、ことり。
みゆと一番なかよしなんだって。
「みゆにみえるように、メイクしてあげる」
ロングヘアのリツが、メイクをしてくれた。
「あんたが下手だったら、ぜんぶだめになるんだから」
怒ってるみたいに聞こえるけど、ヒナはけっこういいひと。
「だーいじょうぶ!なんとかなる」
ってゆったり話すのはノドカ。みんなをまとめてくれるお姉ちゃんみたい。
「ごめんね、ちゃんとやるから」
ワタシがいうと、
「ワタシじゃなくて、みゆは~っていうんだよ」
「み、みゆ、ちゃんとやるから」
「そーそー」
そんな感じで、なんとなく仲良くなれたみたい。
「休憩したら、リハするぞ」
ミチヒロさんがいった。
つまり、ステージで練習するってこと。
ちょっとドキッとする。
できるかな、だいじょうぶかな。
みんなをみたら、「だいじょうぶ!」ってニコニコ笑ってる。
リハーサルのために、ステージに行く。
衣装とメイクもして。
衣装はみゆのだけど、サイズもぴったりだった。
「――じゃあ、音流すぞ」
合図があって、曲が始まる。
最初はみんな横一列で、順番にソロダンスをするんだ。
ワタシは最後。
みんなのダンスを横目で見ながら、心臓はバクバクしてる。
(ワタシの番だ――)
ジャンプしてから、くるんと回転する。
ステップを踏んで……みゆが得意なやつ。
最後にジャンプして、決めポーズ……あっ。
足首が変な風に曲がっって、転ぶ。
「大丈夫!?」
みんながやってくる。音が止まる。
「だ、だいじょう――痛っ」
立てないくらい痛い。
「そっちに行く」
ステージの下にいたミチヒロさんがきて、ワタシの足首を見た。
「ねんざしてるな。病院に行くぞ」
「えっ、あの――」
抱きかかえられる。
みんなが「きゃー!」っていう。
ちょっとはずかしい。
「暴れるなよ。首、つかまってろ」
ミチヒロさんの首に、両腕をまわす。ぎゅって抱きつく。
ミチヒロさんが歩くと、ドキドキがとまらない。
心臓がうるさいくらい。
車の後ろの席に座らされる。
運転するのはミチヒロさん。
病院についたら、また抱っこされて、受付のとこのイスに座る。
「よかったら、使ってください」
って看護師さんが車いすを出してくれなかったら、ずっとお姫様抱っこだったかも……。
お医者さんは、ワタシの足をみて、
「ねんざですね。治療します」
って湿布と包帯をしてくれて、一応の薬もくれた。
「ごめん、無理させたかも」
ミチヒロさんが言った。
「ワタシ……じゃなくて!みゆ、できると思ったもん。だいじょうぶ」
「ごめん。立てないし、ダンスできないから、ちょっと考えよう」
「ライブまで治らないの?」
「たぶん」
リハに戻ってから、ワタシはイスに座ることになっちゃった。
せっかくダンス教えてくれたのに、ごめん。
みんなに謝った。
みんなは、責めたりしなくて、
「前にけがしたときも、こうしてたし、ファンのみんなもわかってくれるよ」
「みゆがいるってだけで、きっとだいじょうぶ」
それで、ライブ当日までは安静にしつつ、座って歌うことになった。
[水平線]
ライブ当日。
衣装を着て、メイクをして、本番まで待つ。
みんなはお弁当食べたり、SNS更新したり。
「みゆも更新する?」
ワタシは首を振った。
「本物じゃないって言われたら、困るから」
リツがワタシの顔をのぞきこんだ。
「みゆだって思うメイクしてるから大丈夫」
ことりがワタシにぎゅっと抱きついた。
「わたしと並んで撮らない?だいじょうぶでしょ」
ヒナが反対側に抱きついた。
「ヒナだって……!」
ノドカがスマホを持ってきた。
「だったら、みんなでやろうよ。みゆちゃん真ん中んして、みんなで座って」
「は~い!」
サビの部分を手だけで踊る。
あんまり動かないから、これは平気。
動画を何回か撮り直して。
「じゃあ、あげるね~」
動画のアップが終わった瞬間、ノドカのスマホが何度も鳴る。
「わ、早い。みんな待ってたんだ」
「ほんとだ。メンション来てる」
「みゆも、ほら見て」
ことりがスマホをみせてくれた。
「みんな、かわいいいいいいいい」
「マジすこ」
「みゆちゃんありがと」
「ちょ、そこ入らせて」
次々に出てくるコメント。
「すごい、みんなみてる」
感動して言ったら。
「今度はわたしたちの番だよ。がんばろうね!」
ことりが言った。
「みゆはスマホ壊れたことになってるから。わたしたちで返事するね?」
ノドカが言う。
「お願いします……」
ライブまであと少し。
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「じゃあ、そろそろバックステージ行くぞ」
ミチヒロさんが呼ぶ。
「みゆ、こっち」
で、ミチヒロさんが運ぼうとする。
「いや、大丈夫で――」
断ろうとしたけど、やっぱりお姫様抱っこされる。
それで、カーテンがまだ開いてないステージの真ん中のイスに座る。
「――ご来場のみなさまに、ご案内いたします」
ノドカの声だ。
「本日はわたしたちの公演に来てくださいって、ありがとうございます」
「公演にさきだちまして、お願いがあります」
「公演中は所定の時間以外の撮影と録画は禁止しています。わたしたちがいいよっていうまで、スマホは電源を切るか、マナーモードにしてください」
みんなで順番に、ナレーションをしている。
「じゃあ、みゆ、合図をしてね!」
え、ええっ。
びっくりしてたら、ことりがマイクを持ってきた。
「3,2,1って言って」
「わかった。――さん、にー、いちっ」
「「「「スタート!」」」」
四人の声と同時に、カーテンが開く。
カーテンの向こうから、わーわーと声がする。
その中でも「みゆちゃーん」って呼ぶ声が、たくさん聞えた。
ワタシは、せいいっぱい歌った。
[水平線]
「ライブ、大成功だったね」
「だよね。みゆも見てたかな?」
「みてたよ。LINE返ってきたし」
みゆの返事は、スタンプ一つだった。
「ごめん、だって」
楽屋で着替え終わったら、ミチヒロさんがやってきた。
「みゆ、みつかった」
「ほんと?」
「ちょっと嫌になってたんだって。明日会う」
そっか、いたんだ。
ちょっと胸が苦しい。
「じゃあ、この子はどうするの?」
「それは、保留。とりあえず帰ろう」
ミチヒロさんの車で、ワタシは帰った。
ママは待っててくれた。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、娘もすてきな思い出になったと思います」
「で、すみませんが、明日も迎えに来ていいですか?」
「ええ、いいですよ」
ママ、軽っ。
次の日。
本物のみゆは、事務所にやってきた。
「あなたが代理の?」
可愛い声。
ワタシと同じなんて思えない。
「はい。そーです」
「ありがとう。みゆの代わりをしてくれて。ライブ、たのしかった?」
「……はい。ぜんぜん、できてなかったかもだけど。たのしかったです」
「そっか。……ミチヒロさん、みゆ、お願いあるんだけど」
「なに?」
「この子、これからもみゆの代理にしてもいい?」
にっこり笑う。アイドルスマイル。
「え……それって」
「みゆ、持病があって治療があるから。たまにいなくなるかもだし」
「詳しく聞かせてくれる?」
ミチヒロさんが言って、詳しい話を聞いた。
緊張でどこかに行きたくなるんだって。よくわかんないけど。
それで、たまにワタシがいたらいいなあって……。
「それは、今日は決められない。本田さんの保護者の許可がないと」
「ちぇー。わかったー」
それで、とりあえず話はもちこし。
「でもさ、内緒でアイドルやれたら楽しいと思わない?」
ってみゆに誘われたけど。
「期間限定だったからできただけで、むずかしーよ」
って言っちゃった。
結局、ミチヒロさんはママに言わなくて。
ワタシのとこに、ミチヒロさんはもう来なくなって。
みんなどうしてるんだろうって思ったら、
今年、紅白に出るってきいて、びっくりしちゃった。
みゆが、紅白のインタビューで言ったんだ。
「みゆが困ってた時に助けてくれた女の子に、また会いたいです」
って。
まさか、紅白に来てってことじゃないよね……?
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