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私は笑いたい

 今日は、優貴君の命日だ。優貴君に恋したあの夏が、もう三年前だということがいまだに信じられない。
 私が笑えなくなったのもそのころだ。私の生きる希望ともいえたその人は、事故であっけなく死んでしまった。
 辛くて、泣いてばかりいた私は、いつの間にか笑えなくなっていた。
 学校が終わり、優貴君との思い出があるこの公園で、ぼんやりと、青く澄んだ空を見つめていた。
 名前を呼ばれたのはその時だった。
 「…佐伯さん。」
 島木君だ。顔を見なくてもわかる。おとなしそうに見えるけれど、実はとても表情が豊かな人だ。
 私はゆっくりと島木君を見る。やはり島木君だ。変なところを見られてしまった。
 「島木君…。」
 名前を読んでみたけれど、何も話すことが思い浮かばない。少し、沈黙が続いた。
 「何してるのか、気になった?」
 絞りだした言葉はこれだった。島木君は戸惑ったような表情を見せた。
 困らせてしまった。けれども、島木君はきちんと返してくれた。
 「何してるのか気になったから、声をかけたんだよ。」
 島木君は真剣だった。私は少したじろいでしまう。
「そっか。」
 そんなことしか返せない、自分が憎かった。島木君はもっと困っただろう。無表情で、笑えない、こんな私に声をかけてくれたのに。島木君を困らせてばかりだ。
 そして、私から驚くべき言葉が出てしまった。
 「今日は、優貴君の命日なの。」
 しまった、と思った。こんなこと、言うはずはなかった。もっと困らせる言葉だった。
 私がまだ、死んだ優貴君のことを想い続けているだなんて、何を言われるのかが怖かった。けれども、私の口は止まらなかった。
 優貴君が好きだということ、笑えなくなってしまったきっかけ、優貴君が生きる希望だったということでさえも、すべて、打ち明けてしまっていた。
 そして、分かった。私がこのことを誰かに聞いてほしかったということだ。
 ずっと、自分の中でため込んでいた、悲しい気持ちを、誰かに打ち明けたかったのだ。
 とても、すっきりした、いい気分になった。
 何も答えない島木君。
こんな話を聞かされて、戸惑うに決まっている。いい気分に、島木君への申し訳なさがこみあげる。
 「島木君?」
 声をかけてみたけれど、動かない島木君。
 はっとしたように顔をあげ、「そうなんだね…。」といった。困らせていることは明らかだった。
 けれども、私の口は勝手に動く。
 「なんでだろうね。島木君はとても話しやすいや。初めてこんなに人に話した気がする…なんだかすっきりしたよ。」
 本心だった。こんな私にも、話しかけてくれる島木君。
 「それなら、よかった。」と言った島木君は笑った。少しぎこちないが、晴れやかな笑顔だった。
 私もあんな風に笑いたい。島木君のおかげで、私はそう思えた。
 ああ。きっと、私の笑うきっかけになるのは、この人だ。そう、私の直感が言っている。
 「島木君、ありがと!」
 私は、三年の時を超えて、心から笑うことができた。

作者メッセージ

「彼女の笑顔」の佐伯凛目線の話です!
感想をどんどん送ってくれると嬉しいです!
アドバイスもお願いします!

2026/02/22 12:30

雪野さち
ID:≫ 2iHBHQtGWUOII
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