彼女の笑顔
僕には、好きな人がいる。
佐伯凛。彼女の笑ったところは見たことがない。いつも冷静で、正直、何を考えているのかわからない。けれど、凛とした佇まいがきれいな人だ。
僕はただ、彼女を見ているだけでいい。そう思っていた。
放課後、学校近くの公園を通ると、彼女が空を見上げていた。今日は午前授業だったので、少し暑かった。
影にも入らず、ベンチに座る彼女がきれいだと感じた。
「…佐伯さん。」
思わず声をかけてしまった。しまった。この後何を話すかを考えていない。
慌てていると、佐伯さんはゆっくりとこちらを向いた。
「島木君…」
落ち着いた、透き通った声だ。
「何してるのか、気になった?」
その顔は相変わらず無表情で、感情が読み取れない。
「何をしているのか気になったから、声をかけたんだよ。」
「そっか。」
短く返され、そのあとの言葉が出てこない。何も話せずにいると、佐伯さんが「はははっ」といった。さっきよりも明るい声だったので、笑ったと思った。佐伯さんの顔を見る。だが、顔が全く笑っていなかった。
「ごめんね。私、笑えないから。」
悲しげな顔で言った佐伯さんが、どこか遠く感じる。
「…そんなことないでしょ。」
結構真剣に答えたはずなのだが、佐伯さんはさらに悲しげな顔をした。
「今日はね、優貴君の命日なの。」
「え…。」
自分でも、びっくりするくらい、間抜けな声が出た。優貴君なんて名前は聞いたことがなかった。佐伯さんは、一人っ子だと聞いたことがあるし、兄弟ではないはずだ。
「優貴君はね、私の好きな人なの…。」
心臓がうるさいくらい鳴っていた。佐伯さんには好きな人がいるのだ。
ショックで、言葉が出ない。
「三年前、事故で死んじゃった。私が笑えなくなったのも、これがきっかけ。」
何も答えずに、ただただ、佐伯さんの話に耳を傾けていた。聞きたくないと思うのに、足が、口が動かない。
「私は今、この人生で楽しいと思えることがなくなっちゃった。優貴君は、私の生きる希望だったのかもね…。面白いな、とか、楽しいなと思えることはあるよ。けどね…。笑えないの。顔に、出ないの。」
とても悲しげに語る佐伯さんがより遠く感じられてしまった。
佐伯さんには忘れられない、大切な人がいる。もうこの世にはいないけれど、とても、大事に想っている。
勝ち目が見つからなかった。たった今、僕は失恋したのだ。何も話せずにいる僕は、なんて臆病なんだろう。青く澄んだきれいな空が少し憎い。
「島木君?」
声をかけられても、すぐに返事ができなかった。
「いや、ごめん。そうなんだね…。」
ショックで、とてもそっけない返事をしてしまった。申し訳ない気持ちがこみあげる。
「なんでだろうね。島木君はとても話しやすいや。初めてこんなに人に話した気がする…なんだかすっきりしたよ。」
「それなら、よかった。」
少し褒められた気がして、僕は、少しぎこちない笑顔を向ける。佐伯さんは少し、目を見開いた。
「島木君、ありがと!」
その時、佐伯さんは、笑った。
佐伯凛。彼女の笑ったところは見たことがない。いつも冷静で、正直、何を考えているのかわからない。けれど、凛とした佇まいがきれいな人だ。
僕はただ、彼女を見ているだけでいい。そう思っていた。
放課後、学校近くの公園を通ると、彼女が空を見上げていた。今日は午前授業だったので、少し暑かった。
影にも入らず、ベンチに座る彼女がきれいだと感じた。
「…佐伯さん。」
思わず声をかけてしまった。しまった。この後何を話すかを考えていない。
慌てていると、佐伯さんはゆっくりとこちらを向いた。
「島木君…」
落ち着いた、透き通った声だ。
「何してるのか、気になった?」
その顔は相変わらず無表情で、感情が読み取れない。
「何をしているのか気になったから、声をかけたんだよ。」
「そっか。」
短く返され、そのあとの言葉が出てこない。何も話せずにいると、佐伯さんが「はははっ」といった。さっきよりも明るい声だったので、笑ったと思った。佐伯さんの顔を見る。だが、顔が全く笑っていなかった。
「ごめんね。私、笑えないから。」
悲しげな顔で言った佐伯さんが、どこか遠く感じる。
「…そんなことないでしょ。」
結構真剣に答えたはずなのだが、佐伯さんはさらに悲しげな顔をした。
「今日はね、優貴君の命日なの。」
「え…。」
自分でも、びっくりするくらい、間抜けな声が出た。優貴君なんて名前は聞いたことがなかった。佐伯さんは、一人っ子だと聞いたことがあるし、兄弟ではないはずだ。
「優貴君はね、私の好きな人なの…。」
心臓がうるさいくらい鳴っていた。佐伯さんには好きな人がいるのだ。
ショックで、言葉が出ない。
「三年前、事故で死んじゃった。私が笑えなくなったのも、これがきっかけ。」
何も答えずに、ただただ、佐伯さんの話に耳を傾けていた。聞きたくないと思うのに、足が、口が動かない。
「私は今、この人生で楽しいと思えることがなくなっちゃった。優貴君は、私の生きる希望だったのかもね…。面白いな、とか、楽しいなと思えることはあるよ。けどね…。笑えないの。顔に、出ないの。」
とても悲しげに語る佐伯さんがより遠く感じられてしまった。
佐伯さんには忘れられない、大切な人がいる。もうこの世にはいないけれど、とても、大事に想っている。
勝ち目が見つからなかった。たった今、僕は失恋したのだ。何も話せずにいる僕は、なんて臆病なんだろう。青く澄んだきれいな空が少し憎い。
「島木君?」
声をかけられても、すぐに返事ができなかった。
「いや、ごめん。そうなんだね…。」
ショックで、とてもそっけない返事をしてしまった。申し訳ない気持ちがこみあげる。
「なんでだろうね。島木君はとても話しやすいや。初めてこんなに人に話した気がする…なんだかすっきりしたよ。」
「それなら、よかった。」
少し褒められた気がして、僕は、少しぎこちない笑顔を向ける。佐伯さんは少し、目を見開いた。
「島木君、ありがと!」
その時、佐伯さんは、笑った。
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