瞳に映るあなたへ
「マジェ、おはよっ」
教室に入った私を出迎えてくれたのは、幼馴染のマジェだった。
「おはよう、ユーサ」
「マジェってほんと朝早いよね!先に登校したいっていつも思ってるけど、いっつも無理でかなしい~。...って、昨日の教科書出しっぱなしじゃない、もう~!毎日毎日、なんで私に教科書出し入れさせるのよ~」
ふふ、と笑いながら、マジェは私の頭に手を伸ばした。
「急いでくれてたんだ。...だから寝癖つきっぱなしなの?僕に勝つためだったんだね」
優しい声で話しながら、私の髪を梳いてくれる。
私は意地を張って、「ち、ちちちちちがうし、急いでなんかないし...私は急がないでも早く登校することくらいできるもん」と言ったけど、本当はちがった。
「それより教科書...」
「さ、授業始まるよ。準備して」
マジェは私の隣の席に座って、微笑んでそう言った。
優しくてなんでもできるマジェだけど、上から目線なとこが玉にキズ。
「用意してって...なんで私が」
「ほら、用意できないの?よしよし、頑張って」
「...幼稚園児扱いしないでよ!私もう5年生だし!」
ふふふ、と笑うマジェが、どこか儚くて、消えてしまいそうに見えたのはどうしてだろう。
「マジェ、ここの問題教えて」
「えー?前も教えたよ、これと同じような問題」
「全く同じじゃないからわかんないの」
授業中、私はマジェに勉強を教えてもらっていた。
「ほら、ここをこうして...線を引いて...ここの角度が65°でしょう?」
「なんで?ここ三角形だよ?」
「ほら、だってここがこれと同じで...錯角が使えるよ」
「サッカクって何」
そんな会話をしているとき、後ろや前の席の子たちがいつもこちらを見てくる。からかうように、ひそひそ話したりもしている。
それを気にしていると、いつもマジェは優しく声をかけてくれる。
「きっと、みんなユーサと話している僕に嫉妬しているんだよ」
そういわれるとなんだかいい気持ちになって、照れてしまう。
口のうまいマジェが、私はちょっぴり好きだ。
お昼休みも、私はマジェといっしょ。
「マジェ、ひとくちあげる」
マジェはあまりご飯を食べない。だから、少し弱弱しい。
「え、いいよ、大丈夫。おなかいっぱいだし」
「そうやって遠慮するから、がりがりになっちゃうんだよ。ほら、食べて」
いいよ、いいよ、と、マジェは拒否し続ける。
私は、マジェを健康にしたいだけなのになー。
放課後ももちろん、マジェといっしょ。
「...ユーサ、帰らないの?今日は早く帰らないといけないんでしょ」
マジェは私にそう聞いた。
「だって、マジェが帰らないから」
「一緒に帰りたいの?」
からかうようにそう言われて、すこしむっとする。
「ユーサは先に帰って。僕は、...もう少しここにいる」
「...家に帰ったら、ママにぶたれるから?」
「うん。...怖いんだ」
マジェは右腕をさする。
「...傷、大丈夫?」
「うん...まだちょっと痛む。ご飯も最近全然食べさせてもらってないんだ」
マジェは辛そうだ。
「...明日、ごはん持ってくるから。じゃあね!辛かったら、いつでも話して」
私はそう言って、手を振って教室を後にした。
「...ありがとう」
そんな声が、かすかに聞こえた。
ユーサが去った後の教室に、マジェはいなかった。
残っているのは、ユーサの隣の席に無造作に置かれた教科書と文房具だけだった。
「...行ったか」
教師と女子生徒が、ユーサが出て行ったところを見計らって教室に入る。
「先生、ユーサさんこのままで大丈夫なんですか?」
生徒の一人が教師に問う。
「マジェ、3年前に栄養失調で死んでるっていうのに、ショックで現実逃避してから、ずっとあの調子。わざわざユーサさんの隣に、「マジェ」用の席と教科書一式を用意してあげるのも、逆に考えたら酷なんじゃないですか」
「そうですよ先生。ずっと幸せな幻見続けている状態じゃ、ユーサかわいそうです」
教師は唸って、こう言った。
「そうだな。確かに精神科に見てもらったほうがいいに決まっている」
ただ....
教師は目を細めて言った。
「マジェの幻と話してる時のユーサの顔。ありゃ...幸せが滲み出てて、邪魔したくなくなっちまうんだ。あいつ、ほんとにマジェのこと好きだったんだろ」
「マジェ」の席の教科書がぽと、と床に落ちた。
「...ほら、マジェも喜んでる」
教師は天井を見上げて言った。
「もう少しだけ、あいつの目にマジェを映してやりたいんだよ」
窓際で、風がゆっくりとカーテンを揺らした。
教室に入った私を出迎えてくれたのは、幼馴染のマジェだった。
「おはよう、ユーサ」
「マジェってほんと朝早いよね!先に登校したいっていつも思ってるけど、いっつも無理でかなしい~。...って、昨日の教科書出しっぱなしじゃない、もう~!毎日毎日、なんで私に教科書出し入れさせるのよ~」
ふふ、と笑いながら、マジェは私の頭に手を伸ばした。
「急いでくれてたんだ。...だから寝癖つきっぱなしなの?僕に勝つためだったんだね」
優しい声で話しながら、私の髪を梳いてくれる。
私は意地を張って、「ち、ちちちちちがうし、急いでなんかないし...私は急がないでも早く登校することくらいできるもん」と言ったけど、本当はちがった。
「それより教科書...」
「さ、授業始まるよ。準備して」
マジェは私の隣の席に座って、微笑んでそう言った。
優しくてなんでもできるマジェだけど、上から目線なとこが玉にキズ。
「用意してって...なんで私が」
「ほら、用意できないの?よしよし、頑張って」
「...幼稚園児扱いしないでよ!私もう5年生だし!」
ふふふ、と笑うマジェが、どこか儚くて、消えてしまいそうに見えたのはどうしてだろう。
「マジェ、ここの問題教えて」
「えー?前も教えたよ、これと同じような問題」
「全く同じじゃないからわかんないの」
授業中、私はマジェに勉強を教えてもらっていた。
「ほら、ここをこうして...線を引いて...ここの角度が65°でしょう?」
「なんで?ここ三角形だよ?」
「ほら、だってここがこれと同じで...錯角が使えるよ」
「サッカクって何」
そんな会話をしているとき、後ろや前の席の子たちがいつもこちらを見てくる。からかうように、ひそひそ話したりもしている。
それを気にしていると、いつもマジェは優しく声をかけてくれる。
「きっと、みんなユーサと話している僕に嫉妬しているんだよ」
そういわれるとなんだかいい気持ちになって、照れてしまう。
口のうまいマジェが、私はちょっぴり好きだ。
お昼休みも、私はマジェといっしょ。
「マジェ、ひとくちあげる」
マジェはあまりご飯を食べない。だから、少し弱弱しい。
「え、いいよ、大丈夫。おなかいっぱいだし」
「そうやって遠慮するから、がりがりになっちゃうんだよ。ほら、食べて」
いいよ、いいよ、と、マジェは拒否し続ける。
私は、マジェを健康にしたいだけなのになー。
放課後ももちろん、マジェといっしょ。
「...ユーサ、帰らないの?今日は早く帰らないといけないんでしょ」
マジェは私にそう聞いた。
「だって、マジェが帰らないから」
「一緒に帰りたいの?」
からかうようにそう言われて、すこしむっとする。
「ユーサは先に帰って。僕は、...もう少しここにいる」
「...家に帰ったら、ママにぶたれるから?」
「うん。...怖いんだ」
マジェは右腕をさする。
「...傷、大丈夫?」
「うん...まだちょっと痛む。ご飯も最近全然食べさせてもらってないんだ」
マジェは辛そうだ。
「...明日、ごはん持ってくるから。じゃあね!辛かったら、いつでも話して」
私はそう言って、手を振って教室を後にした。
「...ありがとう」
そんな声が、かすかに聞こえた。
ユーサが去った後の教室に、マジェはいなかった。
残っているのは、ユーサの隣の席に無造作に置かれた教科書と文房具だけだった。
「...行ったか」
教師と女子生徒が、ユーサが出て行ったところを見計らって教室に入る。
「先生、ユーサさんこのままで大丈夫なんですか?」
生徒の一人が教師に問う。
「マジェ、3年前に栄養失調で死んでるっていうのに、ショックで現実逃避してから、ずっとあの調子。わざわざユーサさんの隣に、「マジェ」用の席と教科書一式を用意してあげるのも、逆に考えたら酷なんじゃないですか」
「そうですよ先生。ずっと幸せな幻見続けている状態じゃ、ユーサかわいそうです」
教師は唸って、こう言った。
「そうだな。確かに精神科に見てもらったほうがいいに決まっている」
ただ....
教師は目を細めて言った。
「マジェの幻と話してる時のユーサの顔。ありゃ...幸せが滲み出てて、邪魔したくなくなっちまうんだ。あいつ、ほんとにマジェのこと好きだったんだろ」
「マジェ」の席の教科書がぽと、と床に落ちた。
「...ほら、マジェも喜んでる」
教師は天井を見上げて言った。
「もう少しだけ、あいつの目にマジェを映してやりたいんだよ」
窓際で、風がゆっくりとカーテンを揺らした。
クリップボードにコピーしました