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望み

 鳥籠の中の鳥だった。
 逃げ出そうとは思わない。でも、鳥籠の外には欲しいものがある。
 結局、憧れている世界には絶対に行けない。すぐそこに見えているのに届かない。
 ただ、鳥と違うのは、自分を閉じ込めている鳥籠を作ったのは、他ならぬ自分だったということだった。


 木漏れ日に照らされた公園の隅のベンチ。人が来ることはない。私はそこに座り込んでいる。
 誰かが練習しているのだろうか。どこからかチェロのゆったりとした心地よい重低音が流れる。
 しかしこの心が満たされることはない。

 あなたも、よくチェロを弾いていたよね。

 後悔が、未練が、欲が、嫉妬が、劣等感が、ドロドロと混ざり合う。
 なんであの時言わなかったんだ?言ってしまえば今頃はきっと……あの子なんかに取られたりしなかっただろう。いや。取られるも何もなかっただろう?始めから無理だったんだよ。私なんかが上手くいく未来なんてなかったんだ。何もしてない私なんかが。脈アリかもなんて高をくくって。馬鹿なんだよ。ああ、あの子になりたい。
 ぐちゃぐちゃに乱された心は、全てを飲み込んでいく。
 芝生の上で遊び回る親子。東屋から聞こえる子供たちの笑い声。一心不乱に走る若者。開放的な空間にはしゃいだイヌが吠える声。鑑賞魚のように鮮やかな色をまとって歩く女性。
 見えるもの、聞こえるもの、何もかもがあなたにつながる。
 あなたはいつも楽しそうだった。何を言っても無邪気に笑ってくれて。
 あなたはいつも一生懸命だった。あなたには不可能なことなんてないみたいで。
 あなたは今日、はしゃいでいた。あなたの隣にいたあの子は、さっきの女性みたいに色鮮やかな服を着ていた。見てしまった。言われなくてもわかる。

 あなたとあの子は、恋人なんだね。

 気づかなかった。知らなかった。知りたくなかった。
 ずっとあなたの隣にいたかった。
 ドロリとした感情が、また心をむしばむ。本当はわかっている。私を縛ったのは自分自身だ。何かに囚われていた。くだらない何かから逃げ出してしまえば良かった。
 すぐそばにいたのに。届かなかった。

 空が茜色に染まり出す。人がまばらになった公園。家に帰る人々が足早に通りすぎる。
 私はまだ動けない。
 私は、私は一体どうすれば良かったの?いつ、どこで、何を間違ったの?誰か教えてよ。
 その答えに辿り着くことはない。
 何度も何度も打ち砕かれて、その度にバラバラな欠片を拾い集める。
 今までだってそうだった。何度も何度も。集めた残骸を固め直して、なんとかここまでやってきた。
 でも、もう苦しい。
 もう、何も残っていない。どこかに飛んでいってしまったのかもしれない。
 今の私が望むこと。それは……。


 あなたに会いたい。
 「あの子の恋人」なんかじゃないあなたに。

作者メッセージ

初投稿です。
「このままずっと一緒にいられると思っていたのに、ある時突然別の人にそのポジションを奪われてしまった」というイメージで書きました。
感想や小説を書くコツなどを、コメントで教えていただけると嬉しいです!

2025/01/11 10:49

Luca
ID:≫ 4erY/enC8NJ/M
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