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一部流血表現やその他不快になる描写があるかも知れません。それを承知の上読んでいただけると幸いです。
「では皆さん、ピィレを準備して」
薬学の授業はスムーズに終わり、音楽科へと移る。ピィレというのは西国で使われるフルートとよく似た楽器で、横笛と言われる類のものだ。ただ、音域がフルートと比べると狭く自由度が低いらしい。
「今回は皆さんに『春冬の女神』を演奏してもらいます。もちろん、出来ますね?」
そう言って教師のイリーが圧をかけてくる。宮廷音楽家なので文句は言えないが、もう少し優しく指導してくれたらなと思わざるを得ない。イリ―の「3,2,1」という合図で全員がピィレを吹き始める。勿論私もだ。
「イェルナ、リズムが甘い! ハイトル、楽譜をよく見なさい。音が半音も違います!」
端の生徒から順に指導していく。私は後方の席なので、イリ―が来るまでになんとか指摘できるところを減らさなければ。……けれど、私は音楽が苦手だ。リズムもわからないし、音だって楽譜の何が何の音がなんて見ても理解できない。
「グリニア、音程が甘いです。それに、調律も1年していないでしょう」
ギクリと体が震える。確かにここ数年、調律をサボっている節がある。
「ハァ…いいですか、皆さん」
全員への厳しいお言葉…もといアドバイスをし終わったイリーが、右手を挙げて演奏を止める。
「タンギングも音程もリズムもなっていないではありませんか。長期休みに何をしていたのですか? もう少し飛び級生を見習ってください。ランティルデ嬢だけですよ? まともに吹けているのは」
そう言ってイリーは最前列に座っていたランティルデの腕を引っ張り、強制的に前に立たせた。
「ランティルデ、一人で『春冬の女神』を演奏できますか?」
「はい。最後までですか?」
「いえ、先ほどと同じ第二楽章までで良いですよ」
またイリーの「3、2、1」というカウントダウンで演奏が始まる。今度はランティルデ以外の人物の演奏がなく、雑多な音が鳴らない。春の女神の温かい音色と冬の女神の冷たい音色、二つの相反する音色を吹き分けるのはとても簡単なことではない。
時々前の席から感嘆の声が漏れている。ランティルデの演奏は、音楽に関して何の知識もない私にとっても最高峰だと分かるものだった。
「――ランティルデ、上手でした。さ、皆様も見倣ってくださいね」
「無理ですよ、先生!」
生徒からのブーイング、もといツッコミが教室を埋め尽くした。
「いいえ、やるのです! あなたたちは立派な淑女紳士になるために…」
「先生、ここは魔導学院ですよ? 音楽も、詠唱や魔術陣では扱えない魔法のために教わっていると言っても過言ではありませんから……あ、これはお母様の言葉ですよ」
ランティルデの言葉でイリーは黙らされていた。もっといけ、頑張れランティルデ!
「とにかく、ここが何処であろうと音楽は必要な知識・技能です。練習は怠らないように!」
「はぁ、イリー先生は厳しいわね…」
イェルナが心底疲れたようなため息を吐いた。確かに厳しい。今は音楽科終わりの十五分休憩なので、皆友達と話たりしている。イェルナは元々この学校にいるので友達も多いかと思ったが、中々誰かと話す気は無いようだ。
「確かに厳しいけれど、実力と知識がある分意見を蔑ろには出来ないのよね」
「分かる、分かるわグリニア! 本っ当に腹が立つ…」
それからイェルナには色々な先生の愚痴を聞かされた。薬学のアイドリオ、音楽科のイリー、担任のレッティナ、学長のアヴュリィダ……。
「でね? サイティはぶりっ子だし……」
「はいはい、分かった。あなた、揚げ足取るのが上手ね。貴族社会でも充分やっていけそうだわ。さ、次は魔術の実技よ」
私の知る先生にも知らない先生にもほぼ全てに恨みがあるらしい。際限のないイェルナの話を強引に止め、私は実技場へ向かった。
「では、ステッキの方は右、ワンドの方は左に並んでください。得意な中等魔術三つを的に向って撃ち、持ち場へ戻ってください」
私はステッキだ。身長よりやや小さい杖で、魔術陣を組み込んだり先に魔術を込めることで、詠唱や魔術陣の作成・描画をスキップ出来る。ただ持ち運びが大変だし、収納魔法を覚えなければならない。
対してワンドは持ち運びが楽なうえ、振りやすく狙いを定めやすい。ただ詠唱や魔術陣の描写が必要なので、両者ともメリットとデメリットがあるのだ。
「あら、グリニアもステッキなの?」
「はい。師匠から譲り受けたステッキで……ランティルデ様のステッキも見事ですね……」
オパールに蔦が巻き付いているようなデザインの私の木のステッキとは違い、光沢があって、上部についている宝石はダイヤモンドだろう。周りもルビーやサファイヤ等の高価な宝石で縁取られている。
「宝石の希少価値で魔力含有量が異なりますから、とても良い杖だと思いますよ」
「その分、出力の調整には苦労しました…何も考えなければ何も出ず、意識しすぎると家一つが爆発するほどのエネルギーが出てしまいますから……」
なるほど、良いとこのお嬢様にも苦労はあるんだね。
そんな話をしていると、私の順番はすぐにやってきた。
薬学の授業はスムーズに終わり、音楽科へと移る。ピィレというのは西国で使われるフルートとよく似た楽器で、横笛と言われる類のものだ。ただ、音域がフルートと比べると狭く自由度が低いらしい。
「今回は皆さんに『春冬の女神』を演奏してもらいます。もちろん、出来ますね?」
そう言って教師のイリーが圧をかけてくる。宮廷音楽家なので文句は言えないが、もう少し優しく指導してくれたらなと思わざるを得ない。イリ―の「3,2,1」という合図で全員がピィレを吹き始める。勿論私もだ。
「イェルナ、リズムが甘い! ハイトル、楽譜をよく見なさい。音が半音も違います!」
端の生徒から順に指導していく。私は後方の席なので、イリ―が来るまでになんとか指摘できるところを減らさなければ。……けれど、私は音楽が苦手だ。リズムもわからないし、音だって楽譜の何が何の音がなんて見ても理解できない。
「グリニア、音程が甘いです。それに、調律も1年していないでしょう」
ギクリと体が震える。確かにここ数年、調律をサボっている節がある。
「ハァ…いいですか、皆さん」
全員への厳しいお言葉…もといアドバイスをし終わったイリーが、右手を挙げて演奏を止める。
「タンギングも音程もリズムもなっていないではありませんか。長期休みに何をしていたのですか? もう少し飛び級生を見習ってください。ランティルデ嬢だけですよ? まともに吹けているのは」
そう言ってイリーは最前列に座っていたランティルデの腕を引っ張り、強制的に前に立たせた。
「ランティルデ、一人で『春冬の女神』を演奏できますか?」
「はい。最後までですか?」
「いえ、先ほどと同じ第二楽章までで良いですよ」
またイリーの「3、2、1」というカウントダウンで演奏が始まる。今度はランティルデ以外の人物の演奏がなく、雑多な音が鳴らない。春の女神の温かい音色と冬の女神の冷たい音色、二つの相反する音色を吹き分けるのはとても簡単なことではない。
時々前の席から感嘆の声が漏れている。ランティルデの演奏は、音楽に関して何の知識もない私にとっても最高峰だと分かるものだった。
「――ランティルデ、上手でした。さ、皆様も見倣ってくださいね」
「無理ですよ、先生!」
生徒からのブーイング、もといツッコミが教室を埋め尽くした。
「いいえ、やるのです! あなたたちは立派な淑女紳士になるために…」
「先生、ここは魔導学院ですよ? 音楽も、詠唱や魔術陣では扱えない魔法のために教わっていると言っても過言ではありませんから……あ、これはお母様の言葉ですよ」
ランティルデの言葉でイリーは黙らされていた。もっといけ、頑張れランティルデ!
「とにかく、ここが何処であろうと音楽は必要な知識・技能です。練習は怠らないように!」
「はぁ、イリー先生は厳しいわね…」
イェルナが心底疲れたようなため息を吐いた。確かに厳しい。今は音楽科終わりの十五分休憩なので、皆友達と話たりしている。イェルナは元々この学校にいるので友達も多いかと思ったが、中々誰かと話す気は無いようだ。
「確かに厳しいけれど、実力と知識がある分意見を蔑ろには出来ないのよね」
「分かる、分かるわグリニア! 本っ当に腹が立つ…」
それからイェルナには色々な先生の愚痴を聞かされた。薬学のアイドリオ、音楽科のイリー、担任のレッティナ、学長のアヴュリィダ……。
「でね? サイティはぶりっ子だし……」
「はいはい、分かった。あなた、揚げ足取るのが上手ね。貴族社会でも充分やっていけそうだわ。さ、次は魔術の実技よ」
私の知る先生にも知らない先生にもほぼ全てに恨みがあるらしい。際限のないイェルナの話を強引に止め、私は実技場へ向かった。
「では、ステッキの方は右、ワンドの方は左に並んでください。得意な中等魔術三つを的に向って撃ち、持ち場へ戻ってください」
私はステッキだ。身長よりやや小さい杖で、魔術陣を組み込んだり先に魔術を込めることで、詠唱や魔術陣の作成・描画をスキップ出来る。ただ持ち運びが大変だし、収納魔法を覚えなければならない。
対してワンドは持ち運びが楽なうえ、振りやすく狙いを定めやすい。ただ詠唱や魔術陣の描写が必要なので、両者ともメリットとデメリットがあるのだ。
「あら、グリニアもステッキなの?」
「はい。師匠から譲り受けたステッキで……ランティルデ様のステッキも見事ですね……」
オパールに蔦が巻き付いているようなデザインの私の木のステッキとは違い、光沢があって、上部についている宝石はダイヤモンドだろう。周りもルビーやサファイヤ等の高価な宝石で縁取られている。
「宝石の希少価値で魔力含有量が異なりますから、とても良い杖だと思いますよ」
「その分、出力の調整には苦労しました…何も考えなければ何も出ず、意識しすぎると家一つが爆発するほどのエネルギーが出てしまいますから……」
なるほど、良いとこのお嬢様にも苦労はあるんだね。
そんな話をしていると、私の順番はすぐにやってきた。