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一部流血表現やその他不快になる描写があるかも知れません。それを承知の上読んでいただけると幸いです。
「ねぇ、イディシア。入学式ってどんなのだろうね」
入試が終わり合格が決まって、奇跡的に同じ寮に配属された私とイディシアは、明日の入学式の話をしていた。暖炉の炎が揺れ、パチパチと音を立てる。
「入学式かぁ。魔導学院だし、すっごく豪華なのかな」
「魔術でドパーッと祝福してくれたりして」
「そうだと、目がチカチカするんじゃない?」
そんな他愛のない話をして、私達は就寝の準備に入った。私はイディシアと話をしていて楽しいが、イディシアは目が笑っていないというか、疲れているというか。あまり良い感情が感じられず、『病気なのかな』と心配しながら眠りについた。
「皆、よく入学してくれたね。君達は三回生への飛び級をした、栄光の結晶とも言えよう。さぁ、私の[漢字]加護[/漢字][ふりがな][明朝体]ファオリア[/明朝体][/ふりがな]を受け取ってくれ」
そう校長のアヴュリィダが言い終わった時、隣に跪いていた金髪の女性がバイオリンを手に取った。そのまま弾くのかと思えば、バイオリンはアヴュリィダの手に渡された。
「それは神の調べ それは[漢字]聖[/漢字][ふりがな]ひじり[/ふりがな]の調べ 慈愛を謳い 加護を賜り 天に愛され 天を愛せよ」
知らない歌だったが、そのバイオリンの腕と歌声の実力は確かだ。そしてアヴュリィダの歌声に呼応するように、職員を含めた皆の体に薔薇の棘がついた茎のような模様が肌だけでなく服の上からも浮き上がっていた。「うぇっ…」と呻く人もいれば、「ヒッ…」と恐怖する者もいる。茎の先にはやがて薔薇が咲いたが、薔薇の色は皆それぞれで違う人もいれば、同じ人もいた。私は鮮やかな赤で、イディシアは先の見えない紫黒色だった。歌が盛り上がりに近づくほどくっきりと浮かび上がり、後の方には消えかけていた。
「ほう、今年は赤が多いか…セリティア、バイオリン」
そう言ってセリティアと呼ばれたさっきの金髪の女性にバイオリンを渡し、イディシアに視線を向けた。イディシアは気まずそうに目を逸らし、私を見つめた。その意味が分からなくてコクリと私が首を傾げると、イディシアは[漢字]遣る瀬無[/漢字][ふりがな]やるせな[/ふりがな]さそうに笑い、アヴュリィダをキッと睨みつけた。
「さ、次は組み分けだよ。私の言葉で時間をとってしまいたくはないからね」
アヴュリィダは何事もなかったかのように、跪くセリティアに指示をして階段を下り、大広間から颯爽と立ち去っていった。
「グリド寮三番ファイディは…四組ね。この通路を真っ直ぐ行って突き当たりを右よ。はい、次」
セリティアの鋭い声にビクリと体を震わせながら、私は前に出た。
「ゼィド寮七番、リズリアは三組よ。…それから、後で職員室に」
入学早々お呼び出しなんて、縁起が悪過ぎる。
「いらっしゃい、ジュリエナ」
職員室に入った瞬間、アヴュリィダに『ジュリエナ』と呼ばれた。バレた、まずいどうすればと思考が勝手に焦り始める。
「大丈夫、ジュリエナ。私もバレてる」
「あれ、お姉ちゃん…変化解除してる」
「それと、少し大事な話をしなくちゃならないの」
フィレデリアは深刻そうな、それでいて私を心の底から心配するような目で私を見つめた。すると、「私から言わせてよ」という声と共に扉を開けたのはイディシアだった。
「一気に言うね。まず私、イディシアじゃないの。【暴食の厄災】イグェーリシャ。…でも、ジュリエ…リズリアにはイディシアって呼んで欲しいな」
「えっ、厄災? 厄災ってあの? えっ、イディシアが?」
私の思考は一瞬にして焦りではなく疑問符で塗り替えらえた。こんなに身近で、同じベッドに寝たりもして、友達と思っていたイディシアが、厄災…?
「有り得ない、そんな…だってイディシアは、頭が良すぎるところもあるけど普通で、ちゃんとした十一歳の女の子で…。嘘、付いてたの?」
そう恐る恐る聞くと、イグェーリ……イディシアは下唇をギュッと噛んで下を向いた。覗き込むことは出来なかったが代わりに「ポトッ」という音でイディシアが鳴いていることに気がついた。
「リ、リズリア…やっぱり【厄災】はきらい? 私、怖い?」
イディシアは顔をあげて泣いたまま笑った痛々しい表情で此方を見る。思わず罪悪感がせり上がってきた。
「違う、そんな…私はイディシアが嫌いなんかじゃ。むしろ、好きで…」
「でも、厄災の私は嫌いでしょう? ねぇ」
違う、そんなのじゃ。私はイディシアが友達で。親友で。まだ出会ったばっかりだし通じ合えない部分もあるけど、それでも。
「私はイディシアのことが…」
「おっと、ここまでだ。これ以上職員室で注目を集める行動をするなら寮で続きをやってくれ。欠席依頼は出しておくから」
私の心の叫びはアヴュリィダによって阻止された。だが私はアヴュリィダの言葉に甘え、寮に戻ってイディシアとまた話の続きをした。
「ごめん、リズリア。騙してて」
廊下では泣くまいと我慢していたイディシアがまたしゃくりあげる様に泣き出し、オロオロとしてしまう。
「違うよ。ごめん、でも私、厄災は悪いものって、言われ続けて離れないんだ」
「知ってるよ。人々にとってやっぱり私は危険だし…でも私はその危険を絶対犯さないと契約してまで君を追いかけたんだ。…気持ち悪いよね」
「…イディシア、もしかして私のことが本当に。でも、まだ出会ったばっかりじゃ…」
混乱する私と泣きじゃくるイディシア。そんな地獄絵図の繰り広げられる、快晴の昼のお話。
入試が終わり合格が決まって、奇跡的に同じ寮に配属された私とイディシアは、明日の入学式の話をしていた。暖炉の炎が揺れ、パチパチと音を立てる。
「入学式かぁ。魔導学院だし、すっごく豪華なのかな」
「魔術でドパーッと祝福してくれたりして」
「そうだと、目がチカチカするんじゃない?」
そんな他愛のない話をして、私達は就寝の準備に入った。私はイディシアと話をしていて楽しいが、イディシアは目が笑っていないというか、疲れているというか。あまり良い感情が感じられず、『病気なのかな』と心配しながら眠りについた。
「皆、よく入学してくれたね。君達は三回生への飛び級をした、栄光の結晶とも言えよう。さぁ、私の[漢字]加護[/漢字][ふりがな][明朝体]ファオリア[/明朝体][/ふりがな]を受け取ってくれ」
そう校長のアヴュリィダが言い終わった時、隣に跪いていた金髪の女性がバイオリンを手に取った。そのまま弾くのかと思えば、バイオリンはアヴュリィダの手に渡された。
「それは神の調べ それは[漢字]聖[/漢字][ふりがな]ひじり[/ふりがな]の調べ 慈愛を謳い 加護を賜り 天に愛され 天を愛せよ」
知らない歌だったが、そのバイオリンの腕と歌声の実力は確かだ。そしてアヴュリィダの歌声に呼応するように、職員を含めた皆の体に薔薇の棘がついた茎のような模様が肌だけでなく服の上からも浮き上がっていた。「うぇっ…」と呻く人もいれば、「ヒッ…」と恐怖する者もいる。茎の先にはやがて薔薇が咲いたが、薔薇の色は皆それぞれで違う人もいれば、同じ人もいた。私は鮮やかな赤で、イディシアは先の見えない紫黒色だった。歌が盛り上がりに近づくほどくっきりと浮かび上がり、後の方には消えかけていた。
「ほう、今年は赤が多いか…セリティア、バイオリン」
そう言ってセリティアと呼ばれたさっきの金髪の女性にバイオリンを渡し、イディシアに視線を向けた。イディシアは気まずそうに目を逸らし、私を見つめた。その意味が分からなくてコクリと私が首を傾げると、イディシアは[漢字]遣る瀬無[/漢字][ふりがな]やるせな[/ふりがな]さそうに笑い、アヴュリィダをキッと睨みつけた。
「さ、次は組み分けだよ。私の言葉で時間をとってしまいたくはないからね」
アヴュリィダは何事もなかったかのように、跪くセリティアに指示をして階段を下り、大広間から颯爽と立ち去っていった。
「グリド寮三番ファイディは…四組ね。この通路を真っ直ぐ行って突き当たりを右よ。はい、次」
セリティアの鋭い声にビクリと体を震わせながら、私は前に出た。
「ゼィド寮七番、リズリアは三組よ。…それから、後で職員室に」
入学早々お呼び出しなんて、縁起が悪過ぎる。
「いらっしゃい、ジュリエナ」
職員室に入った瞬間、アヴュリィダに『ジュリエナ』と呼ばれた。バレた、まずいどうすればと思考が勝手に焦り始める。
「大丈夫、ジュリエナ。私もバレてる」
「あれ、お姉ちゃん…変化解除してる」
「それと、少し大事な話をしなくちゃならないの」
フィレデリアは深刻そうな、それでいて私を心の底から心配するような目で私を見つめた。すると、「私から言わせてよ」という声と共に扉を開けたのはイディシアだった。
「一気に言うね。まず私、イディシアじゃないの。【暴食の厄災】イグェーリシャ。…でも、ジュリエ…リズリアにはイディシアって呼んで欲しいな」
「えっ、厄災? 厄災ってあの? えっ、イディシアが?」
私の思考は一瞬にして焦りではなく疑問符で塗り替えらえた。こんなに身近で、同じベッドに寝たりもして、友達と思っていたイディシアが、厄災…?
「有り得ない、そんな…だってイディシアは、頭が良すぎるところもあるけど普通で、ちゃんとした十一歳の女の子で…。嘘、付いてたの?」
そう恐る恐る聞くと、イグェーリ……イディシアは下唇をギュッと噛んで下を向いた。覗き込むことは出来なかったが代わりに「ポトッ」という音でイディシアが鳴いていることに気がついた。
「リ、リズリア…やっぱり【厄災】はきらい? 私、怖い?」
イディシアは顔をあげて泣いたまま笑った痛々しい表情で此方を見る。思わず罪悪感がせり上がってきた。
「違う、そんな…私はイディシアが嫌いなんかじゃ。むしろ、好きで…」
「でも、厄災の私は嫌いでしょう? ねぇ」
違う、そんなのじゃ。私はイディシアが友達で。親友で。まだ出会ったばっかりだし通じ合えない部分もあるけど、それでも。
「私はイディシアのことが…」
「おっと、ここまでだ。これ以上職員室で注目を集める行動をするなら寮で続きをやってくれ。欠席依頼は出しておくから」
私の心の叫びはアヴュリィダによって阻止された。だが私はアヴュリィダの言葉に甘え、寮に戻ってイディシアとまた話の続きをした。
「ごめん、リズリア。騙してて」
廊下では泣くまいと我慢していたイディシアがまたしゃくりあげる様に泣き出し、オロオロとしてしまう。
「違うよ。ごめん、でも私、厄災は悪いものって、言われ続けて離れないんだ」
「知ってるよ。人々にとってやっぱり私は危険だし…でも私はその危険を絶対犯さないと契約してまで君を追いかけたんだ。…気持ち悪いよね」
「…イディシア、もしかして私のことが本当に。でも、まだ出会ったばっかりじゃ…」
混乱する私と泣きじゃくるイディシア。そんな地獄絵図の繰り広げられる、快晴の昼のお話。