雨と歌う。
雨が好き。
*
「きりーつ、礼」
日直の合図のあと、やる気のない「さようならー」の声。
「うわっ、待って雨降ってない?最悪なんだけど」
「まじか、傘持ってないわ……」
クラスメイト達の声が聞こえてきて、窓を見ると雨が降っていた。
「……私も折りたたみ傘忘れちゃった」
「えっ、雨音も?」
「うん」
やっちゃったなあとか思いつつ、どうしようかと考える。
小雨なら小走りで走って帰ればいいけど、少し強めの雨だ。しかもこんな日に限って部活は休み。
雨は好きだけど、 こういうときはちょっとだけ困る。
「あっ、私傘持ってきてるから、狭いけど一緒に帰らない?」
「え、入れてくれるの!?まじ神ー、ありがと!」
「雨音は……違う方向だもんね。ごめん」
「ううん、全然謝ることじゃないけど……」
2人と別れて、仕方ないからコンビニに寄ってビニール傘を買うことにした。
昇降口を出ると、案の定騒がしい。親に迎えを頼む生徒もいるみたいで、スマホの持ち込みが禁止のこの学校に設置されたなけなしの公衆電話は長蛇の列になっている。
無事コンビニに着いたけど、ビニール傘は残り1つとなっていた。この後に傘を買いに来た人ごめんなさいなんて思った。
小腹が空いたので、簡単なお菓子を探すと、お気に入りのチョコ菓子があった。でもそれも最後の1つで、これ以上最後の1つを奪ったらなんかバチが当たりそうだなって思ったから、やめる。
店員さんのありがとうございましたーの声に小さくお辞儀をしてから、ビニール傘を開いた。
*
雨の日は嫌いじゃないし、むしろ好き。
明確な理由とかはないし、うまく説明もできないんだけど。でも好き。
確かに暗いし寒いけど。でも、雨の日だからこその美しさだって、あると思うのだ。
青、紫、桃色、白。
色とりどりに咲く紫陽花の花びらに落ちる雫を見て、そんなことを思う。
紫陽花は特別好きな花ってわけでもないけど、雨が降る度に、紫陽花に見惚れる。薄暗い街の中で、鮮やかに雨を彩る花は、いつもよりずっと輝いて見える。
そしてほんのちょっぴりの幸せを感じる。幸せなんて、こんな日常の片隅に、限りなくあるものなんだと思った。
雨は神様の涙なんて、よく言う。
だから雨は、暗いイメージがどうしてもあるのかもしれない。
でも結婚式で降る雨には、新郎新婦が一生涯に流す涙を、神様が代わりに流してくれているんだ、っていう言い伝えがあるって聞いたことがある。
じゃあ今も、神様が私達の代わりに泣いてくれているのかもしれない。結婚式以外でも、神様は私達のことを見ていると思うから。
昔から、無口ではありながらわりと能天気で、滅多に落ち込んだり泣いたりすることもない私。雨の音と書いて雨音という名前を持った私。
私が雨を好きなのも、ずっと神様が私のために涙を流してくれたからなのかな。
当てもないし、きっと作り話だって、分かってるけど。
でも、そうやって考えると、今降っている雨も特別なものに見えてくる。
だから。
「……ありがとう」
なんでもないこの日常に。
傘をさして、少し弾んだ足取りで帰路につく今日に。
感謝の言葉を、呟いてみた。
*
家に近づいてくると、車通りも少なくなる。より静かな雨の音が聞こえてきて、手に時々落ちる雫さえ心地良い。
「……――♪」
気づいたら、歌を歌っていた。
人だって滅多に通らないけど、歌っているところを人に見られたら恥ずかしいじゃ済まない。わかってはいるんだけど。
でも、なぜか歌い出したい気分だった。
ビニール傘に落ちる雨の音と、歌う。雨と歌う。
ああ、私、生きてる。
胸を締め付けるほどの幸せに、そんなことさえ感じた。
*
「おかえりー、雨強かったでしょ、大丈夫だった?」
「ただいま。うん、でも……」
帰り道で考えた色んなことを話そうかと思ったけどやめた。私の心の大事な宝箱に、私だけの特別な幸せな日として、閉まっておきたかったから。
「……なんか、嬉しそうだね?なんかあった?」
「……うん。ちょっとね」
私は、雨が好きだ。
*
「きりーつ、礼」
日直の合図のあと、やる気のない「さようならー」の声。
「うわっ、待って雨降ってない?最悪なんだけど」
「まじか、傘持ってないわ……」
クラスメイト達の声が聞こえてきて、窓を見ると雨が降っていた。
「……私も折りたたみ傘忘れちゃった」
「えっ、雨音も?」
「うん」
やっちゃったなあとか思いつつ、どうしようかと考える。
小雨なら小走りで走って帰ればいいけど、少し強めの雨だ。しかもこんな日に限って部活は休み。
雨は好きだけど、 こういうときはちょっとだけ困る。
「あっ、私傘持ってきてるから、狭いけど一緒に帰らない?」
「え、入れてくれるの!?まじ神ー、ありがと!」
「雨音は……違う方向だもんね。ごめん」
「ううん、全然謝ることじゃないけど……」
2人と別れて、仕方ないからコンビニに寄ってビニール傘を買うことにした。
昇降口を出ると、案の定騒がしい。親に迎えを頼む生徒もいるみたいで、スマホの持ち込みが禁止のこの学校に設置されたなけなしの公衆電話は長蛇の列になっている。
無事コンビニに着いたけど、ビニール傘は残り1つとなっていた。この後に傘を買いに来た人ごめんなさいなんて思った。
小腹が空いたので、簡単なお菓子を探すと、お気に入りのチョコ菓子があった。でもそれも最後の1つで、これ以上最後の1つを奪ったらなんかバチが当たりそうだなって思ったから、やめる。
店員さんのありがとうございましたーの声に小さくお辞儀をしてから、ビニール傘を開いた。
*
雨の日は嫌いじゃないし、むしろ好き。
明確な理由とかはないし、うまく説明もできないんだけど。でも好き。
確かに暗いし寒いけど。でも、雨の日だからこその美しさだって、あると思うのだ。
青、紫、桃色、白。
色とりどりに咲く紫陽花の花びらに落ちる雫を見て、そんなことを思う。
紫陽花は特別好きな花ってわけでもないけど、雨が降る度に、紫陽花に見惚れる。薄暗い街の中で、鮮やかに雨を彩る花は、いつもよりずっと輝いて見える。
そしてほんのちょっぴりの幸せを感じる。幸せなんて、こんな日常の片隅に、限りなくあるものなんだと思った。
雨は神様の涙なんて、よく言う。
だから雨は、暗いイメージがどうしてもあるのかもしれない。
でも結婚式で降る雨には、新郎新婦が一生涯に流す涙を、神様が代わりに流してくれているんだ、っていう言い伝えがあるって聞いたことがある。
じゃあ今も、神様が私達の代わりに泣いてくれているのかもしれない。結婚式以外でも、神様は私達のことを見ていると思うから。
昔から、無口ではありながらわりと能天気で、滅多に落ち込んだり泣いたりすることもない私。雨の音と書いて雨音という名前を持った私。
私が雨を好きなのも、ずっと神様が私のために涙を流してくれたからなのかな。
当てもないし、きっと作り話だって、分かってるけど。
でも、そうやって考えると、今降っている雨も特別なものに見えてくる。
だから。
「……ありがとう」
なんでもないこの日常に。
傘をさして、少し弾んだ足取りで帰路につく今日に。
感謝の言葉を、呟いてみた。
*
家に近づいてくると、車通りも少なくなる。より静かな雨の音が聞こえてきて、手に時々落ちる雫さえ心地良い。
「……――♪」
気づいたら、歌を歌っていた。
人だって滅多に通らないけど、歌っているところを人に見られたら恥ずかしいじゃ済まない。わかってはいるんだけど。
でも、なぜか歌い出したい気分だった。
ビニール傘に落ちる雨の音と、歌う。雨と歌う。
ああ、私、生きてる。
胸を締め付けるほどの幸せに、そんなことさえ感じた。
*
「おかえりー、雨強かったでしょ、大丈夫だった?」
「ただいま。うん、でも……」
帰り道で考えた色んなことを話そうかと思ったけどやめた。私の心の大事な宝箱に、私だけの特別な幸せな日として、閉まっておきたかったから。
「……なんか、嬉しそうだね?なんかあった?」
「……うん。ちょっとね」
私は、雨が好きだ。
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