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消失の帝王  〜とある女海賊の記録(ログ)〜

#23

解放の戦士、破壊の皇帝

「……有毒ワライダケか。」
私も厄介なものに手を出したな。
外の私は頑張っているようだ。けれど、それがどこまで持つかは、私にもわからない。
「まっさか……ねぇ。」
きっと、あの衆人に悪気はない。
《リズム様!!これ、私達が作ったものです》
《ぜひ、お食べください。》
《そして我らに解放を!!》
有毒ワライダケの〈解放の噂〉を聞いて
大きな悪気はなく私の食事に混ぜたのだろう。
巷では、有毒ワライダケを食べたものは解放の戦士となり、
全ての悪しき者を征伐し、
弱者に解放をもたらすと言われているらしい。
根も葉もない噂話だ。
実際、今、私は解放の戦士などではなく、破壊の皇帝となっている。
それに、……私に無断でこれを食事に混ぜた時点で、
悪気がなかったと言ったら嘘になるだろうが。
しかし、食べてしまったものはしょうがない。
「……こいつは食ったら止まんねぇんだよな……。」
一度食べたことがあるから知っている。
この中毒性と、精神と身体の分離。
一度、アイツラを亡くした直後に食ってしまって
死にかけたときもそうだった。
……あの時からだろうか。毒に異様なほどの耐性がついてしまったのは。
「ウタ、シャンクス。……ごめんな。」
弟子に、娘に、自分を殺させるって、一番させたくないことの一つなんだが。
これしか方法がないのも確かで。
というか、まず私がその前に世界を破壊しかねないのも確かで。
そんなことをさせるとか、そんなリスクを負わせるとか、
やっぱり私は、私は。
「……馬鹿だな。」
自虐的な笑いも、誰も聞いてはくれない。
誰も、慰めてはくれない。
なぁ、リゲル、私は、どうしたらいい?
なぁ。教えてくれよ。
……もし、お前が私を空から見ているのであれば。





[水平線]


ドゴッ
ルフィのパンチが、リズムの体を完璧にとらえる。
しかしリズムは、笑ったまま、その手を跳ね返す。
「なんだこいつ!?硬ぇ!!」
「お母さん、本気出してきてる!!
ルフィ、まずいよ、精神と身体が分離し始めてる!!」
「せ、せーしんとからだがぶんり〜?何言ってんだ、ウタ。」
ウタの話の内容を理解し切ることなく、
しかし、ルフィはギア4、スネイクマンを発動させる。
「よくわかんねぇけど、倒せばいい話だろ?」
「そうなんだけど……。」
「じゃあ決まりだ!!」
リズムの体にルフィが飛び込んでいこうとした、その時。
「待って!!」
ウタがルフィを止めた。
「説明させて。……みんなも聞いて!!」
ウタの声は、遠くに避難した一味や、戦闘に加わった一味の耳にも届いた。
……不思議なことに、観客にその声を聞いたものはいない。
「この世界は、現実世界じゃない。お母さんの精神の中。
このままじゃみんな、精神の中に囚われちゃう。
お母さんも、毒で死んじゃう!!」
その声は、必死で、悲痛で。彼女の目には涙が浮かんでいた。
「……ウタ。」
「お母さんは!!リズムは!!●●さんは!!
私の……。シャンクスの大切な人なの!!
だから、助けて!!もう、シャンクスから、お母さんを奪わないであげて!!」
ウタは、知っていた。
《おれ、師匠守れなかったんだよな。
こんな弟子、師匠はいらないって思ってるだろ。
でも、おれ、諦めねぇから。》
《シャンクス、きっと、私を弱い師匠だって思ってるだろうな。》
シャンクスが、どれだけ●●を探していたのかを。
●●が、どれだけシャンクスを守ろうとしていたのかを。
どれだけお互いを大切に想っていたのかを。
どれだけお互いを愛していたのかを。
知っているから、もう、失わせたくなかった。
お互いから、お互いを。
もう二度と、もう二度と。
「もう、もう……「わかった、ウタ。」
一気に顔が泣き顔を化したウタの手を、ルフィが掴む。
「お前とシャンクスの大切なやつなんだな?
大丈夫。ぜってー助けるから、安心しろっ!!」
「歌姫屋、もう泣くんじゃねぇ。
……おれは、医者だ。毒なんて、すぐ抜いてやる。」
隣からローの声もする。
「ルフィ……トラ男くん……!!」
ドンドットット、ドンドットット。
ルフィの心臓の音が上がっていく。
「アヒャ?……あひゃ……ひゃ……。」
ルフィの心臓の音に、リズムは苦しみ、地へと堕ちていく。
「その、お……と。」
「キタキタキタぁ!!!この音!!!!」
ルフィの髪や服は見る間に真っ白になり、
羽衣をつけ、空を自由に舞い始める。
ここは現実世界ではないとはいえ、ナイトランド。
浮かぶ月に、白が映える。
「ギア5!!」
「にか、さま。」
ルフィの声と、リズムの声が、シンクロした。











[水平線]

「下がれ!!」
やばい、そう感じた。
未来視じゃない。
師匠は見聞殺しを使ってるから、おれでも今、未来を見ることは不可能だ。
ただの直感。
船長と白ひげとの大喧嘩の後。
師匠は一発、二人を殴っていた。
あの二人の覇王色でただでさえ天が割れていたと言うのに。
師匠の一発が、天の裂け目を深くし、また、谷を大きくした。
《次やったら命はないと思え。》
怖かった。けれど、それ以上に、[大文字][太字]美しいと思った。[/太字][/大文字]
船長たちに物怖じしない師匠が、
船長たちを脅すように向けた冷たい目が、
……おれたちには、決して見せてくれないそんな表情が。

だって、おれたちに甘々な師匠は、おれたちを絶対怒らないから。
おれが好きなその表情は、絶対に見れない。
だから、できる限りの悪戯をした。
その中には、バギーも引くようなものもあった。
けれど、師匠は、怒らなかった。
《まだまだ、可愛いもんだろ。》
代わりにレイリーさんにでっかいたんこぶを作られた。
バギーを巻き込んだのは、悪かったって思ってる。
やっぱ、綺麗。
なんて小さな声で言ってみようとしても、
状況は変わったりしてくれない。
師匠の神避。普段剣を使わない彼女のそれは、
グラグラと狙いがずれたり、定まったり。
けれど、覇気だけは馬鹿みたいに強いから、
かすっただけでも致命傷になりそうだ。
「●●!!」
必死で避けつつ、師匠の名を呼ぶ。
師匠の目がゆらりと揺らいだが、正気に戻る気配はない。
「どうして……。」
あぁ、やっぱり[漢字]リゲル[/漢字][ふりがな]おれ[/ふりがな]のせいなのか?
なんて、思考がリゲルに染まっていくのに気付けない馬鹿なおれは、師匠の元へ手を伸ばす。
「なぁ、どうしてだよ!!」
教えてくれるはずないのに。
強く言っても、彼女を傷つけるだけなのはわかっているのに。
「……しゃん、くす?りげる?」
虚ろな瞳で自らをそっと見つめる●●の目を、おれも見つめ返す。
その声に、おれはどちらとして応えればいいのだろう。
「……おれは。」
この時、バギーだったら、なんと応えただろう?
……もし、アイツだったら。
・・・ハデアホって言って、おれはバギーだって言って、顔面マギー玉していただろう。
もしかしたら、師匠とさえ、呼ばないかもしれない。
あいつはそういうやつだ。
おれは、そんな勇気はないけれど。
もし、おれが前世の記憶を持って生まれていたのだったら、
もし、今までに思い出せていたら、こんなに悩むこともなかっただろうに。
「……誰なんだろうな、[漢字]師匠[/漢字][ふりがな]●●[/ふりがな]。」
苦しい、痛い。
どんな目を向ければいい?どんな言葉をかければいい?
どうやって、話しかければいい?どうやって立っていればいい?

そんなことさえわからねぇのか。

あざ笑う自分がいる。
けれど、おれには決められない。
もう、無理かもしれない。なんて、思ったときだった。
「[斜体][太字]散々な思い出は悲しみを穿つほど
やるせない恨みはアイツのために
置いてきたのさ[/太字][/斜体]」
師匠の歌声が、聞こえる。
ウタのヘッドホンで、聞こえないはずなのに、
どこからか。
「[太字][斜体]あんたらわかっちゃないだろ
本当に傷む孤独を[/斜体][/太字]」
苦しげに、でも笑顔で。
震えながら、少しづつ。
おれの背中を、押すように。
「[太字][斜体]もう寂しくないさ
ないさ


[太字]逆光よ[/太字][/斜体][/太字]」
その歌声は、小さかったけれど、【リズム】の狂ったような声ではなく。
純粋な【師匠】の声だった。
―もう、寂しくないのか。よかった……―
なんて、心のなかから声が聞こえる。
「……ありがとう、師匠。   (ありがとう、●●)
もう、迷わねぇよ。      (覚悟決まったよ)」 
心の声と、おれの声がシンクロする。
「「おれは、おれだ!!」」
それに合わせて師匠の口が動き出す。なんと言っているのか。
おれには聞こえなかった。
よかった……だろうか?
はたまた、世話かけさせんな、か。
もしかしたら、一言、馬鹿だけかもしれない。
けれど、それでも、
師匠の正気の姿を見れたのは、嬉しかった。
「あ゙ぁっ!!!」
師匠が鈍い叫び声を、あげる。
その後ろにいたのは。
「[漢字]魔王[/漢字][ふりがな]トットムジカ[/ふりがな]……!?」
馬鹿な、そんなはずはない。
だって、トットムジカはウタウタの実に宿る、魔王。
師匠とはいえど、呼び出すことさえ叶わないはずなのに。
どう、して。
「[太字][斜体]ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ[/斜体][/太字]」
師匠の声が、会場中に響き渡る。
これじゃあもう、ウタの作戦は無理だろう。
トットムジカによって、世界は繋げられた。
……賽は投げられてしまった。

一応アイツラを下げといて正解だった。
おれでさえ一瞬気を抜けば意識を持っていかれるほどの覇王色。
全てを見透かす見聞色。
歌に織り交ぜ放たれる、武装色を纏った弓矢。
「[太字][斜体]ᛗᛁᛖ ᚾᛖᚷ ᛟᚾ ᚷᛁᛖᚲ ᚷᛁᛖᚲ ᚾᚨᚺ ᛈᚺᚨᛋ ᛏᛖᛉᛉᛖ ᛚᚨᚺ
死をも転がす救いの讃歌
求められたる救世主[/斜体][/太字]」
そして、トットムジカそのものの強さ。
気を抜けば死ぬ。いや、気を抜かなくても死ぬ。
それに、おれ一人じゃあ、とてもじゃないけど勝ち目はない。
でも、大丈夫だとおれは思ってる。
その楽観視がいい方に傾くか、それは誰も知らない。わからない。
でもだったら、やってみなくちゃ、始まらない。
「[太字][斜体]有象無象の Big Bang 慈しみ深く
怒れ 集え 謳え 破滅の譜を[/斜体][/太字]」
ドンドットット、ドンドットット。
どこからか、そんなリズムが聞こえる。
その音に合わせて、おれは師匠に斬りかかる。
何も考えず、ただ、師匠を引きずり戻すことだけを、
魔王を打ち倒すことだけを考えて。

作者メッセージ

「」内、斜線太字が歌詞です。

逆光
作詞・作曲 Vaundy

TotMusica
作詞:cAnON. 作曲:澤野弘之


ちょっと長くなっちゃいました。
同じような展開が多いので、もうちょっと気をつけます。(^_^;)

2024/06/22 15:21

ミコト
ID:≫ 8t/IaoonNB37w
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