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消失の帝王  〜とある女海賊の記録(ログ)〜

#15

負け惜しみ?

何だここは。
気づけばそこにいた。一見先程のライブ会場と変わらないが、一瞬のうちに夜が昼間に変わっている。
「おい、起きろ、麦わら屋!」
隣でのほほんと寝ている同盟相手を揺さぶる。
ゴムの体が、グニョンと曲がり、衝撃を吸収するために、こいつは起きない。
「おーきーろっつってんだろ!!」
ガンッ。
強めの武装色で殴ってやれば、ようやく大きなたんこぶをさすりながら、アイツは起きる。
「いって〜!何すんだ、トラ男!!」
「お前が起きねぇのが悪い。」
ぶつくさ文句を言いながら、不満げな顔でこちらを見つめる同盟相手のことが、おれは大嫌いだ。
いっつも面倒事に巻き込まれるから特に。
今日もそうだ。ベポが行きたいって言うから、おれは付き合うだけだったのに、引っ張られて、振りまわされて、いつの間にかここだ。
一発殴らないとおれの気がすまない。
「ここ、どこだ?」
アイツも不自然さを感じたのか、おれに問う。
「わかったら苦労してねぇよ。」
「なんか、変な感じする。」
あぁ。そうだ。
変な感じ。それが、この状況を表すたった一つの言葉。
覇気が、能力が、どこか封じられているような。
どこかおれたちが拘束されているような。
不自由さ。
そして、どこからか聞こえてくる、ドードトットというドラムの音。
その音がまた、おれたちから自由を奪っていく。
「トラ男、うご、けるか?」
「……無理そうだな。」
先程より、体がうまく動かない。手錠で拘束されているような感覚を、おれは覚える。
「何なんだ……?何が起こってやがる……?」
どんどん、おれの体がなにかに捕まっていく。
動かない。動かない。
何が起きてる?何があった?ここは………?
「よーし!!三曲目、いっくぞー!!!」
おれたちの眼の前で少女が音楽を奏でだす。
カンカンという独特なリズムが、会場を駆け巡っていく。
「[斜体]私の歌が みんなを 守り つなぐ
みんなの声が 私の源
世界の声 聞こえるかい?
恐怖の声 聞き逃してない?
怒りの声 聞かないふりしてない?
そんなみんなの罪は 私が全部許してあげる![/斜体]」
そのリズムと、歌で、おれたちの締付けがどんどん強くなっていく。
「っ……。」
他のやつは無事らしいから、おれたちだけに効く能力だろうか?
もう、おれは動けない。手指の一本さえ、おれには動かせない。
まるで底なし沼にはまったかのように、足も動かせない。
「[斜体]なんてね?

Oh……。[/斜体]

ありがと〜!!」
「RE・I・SM!!RE・I・SM!!」
少女の名が、呼ばれる。ドンドンドン。ドンドンドン。
規則的で明るいそのリズムで、人々が笑顔になっていく。
そして、その少女がおれたちに気づいた。
「おー、起きたか!」
「……何をする、つもりだ。」
動けない苦し紛れに、おれは言う。
「ん?お前らは私の大切な人だからな〜。ここにずっとおいておく!」
その口の笑顔とは裏腹に、目は笑っていない。
その目に、おれは恐怖さえも覚えた。
「いやだ、おれには仲間がいるんだ!」
アイツがそう言うが、リズムが聞いてくれるはずもない。
その上、目はどんどん暗くなっていく。
「そーかー。ヘリオス、仲間ができたのか〜。

私聞いてないけどな……。」
よーし、と、リズムは腕まくりをすると、おれたちを締め付ける力をもっと強くした。
「うあ゙っ……。」「がっ……。」
「もう離さないからね?私とここで一緒に踊ろう、ルナ。ヘリオス。」
優しく、慈悲深く、けれど恐怖で支配するその目。
まだ、ドフラミンゴのほうが、マシだと思った自分が信じられなかった。
化け物のようだった、アイツよりずっと、こいつのほうが人間離れしてるなんて。
「ほらほらこっちおいで。ステージはもう準備できてるよ?」
おれたちの手を掴んでリズムはステージへ向かう。
おれたちは抵抗できず、そのまま目の前にあったステージへと上がっていく。
「みんな〜!一緒に盛り上げてくれる私の家族!ルナとヘリオスだよ〜!!」
少女が明るい声でそう告げる。
観客はわぁぁっと声を上げ、歓迎の意思を示す。
……これでも、おれたちは億超えの賞金首のはずだ。
海賊なんだ。人は恐がるはずなんだ。
なのに、この歓迎のされようは……。
やっぱり、何かがおかしい。
ポロロン。
そっと足を動かせば、綺麗な音がなる。
ポロロン、ポロロン。
おもしれー!!という呑気な同盟相手の声。
馬鹿か、と返そうとしたその時。
ガシャン。
突然後ろから、その音とはまた別の音がする。
気がつけば、おれたちは、音符をかたどった牢獄の中に囚われていた。
「むぎっ……」
無事だろうかと隣の、同盟相手の方を見る。
………彼は、水槽のようなものの中で、足掻いていた。
あの麦わら屋が。あの馬鹿力が。足掻いても出られないほどの、なにか。
「逃げようとしたらどうなるか、あなたならわかるでしょう、ルナ?」
なんてね。
そう、いたずらっぽく出したその舌が、おれには悪魔のように見えた。
彼女に逆らってはいけない。
おれの心の中のストッパーが、そう告げているような気がした。





[水平線]



わぁぁっという会場の騒がしさが私の耳を貫く。
まだ午後ライブまでは時間があるはずなのにな。
不思議に思って、控室を出る。
『[斜体]楽しい 楽しい この[漢字]妖精の世界[/漢字][ふりがな]アールヴヘイム[/ふりがな]へ
ほら ほら だれも 私の前では善者
悪者なんていない 権力者もない
世界はすべて みんなのものだもんね?[/斜体]』
歌が、聞こえる。
聞いたことのない歌。見たことのない会場。
そして、見慣れない席のソファの上でうつらうつらしている……ルフィ。
ステージの上に立っているのは……。
「……お母さん?」
●●、リズム。私にとっては、お母さんだ。
「……どうして?」
午後ライブまで、まだ1時間ぐらいあるのに。
お母さんがライブを早く始めるなんて……。
〈また明日でいいじゃんか〜。〉
ありえない。
ふわりと、体が軽くなったような不思議な感覚に陥る。
やばい、これは、[漢字]私[/漢字][ふりがな]ウタウタ[/ふりがな]の能力。
この音楽を、聞いちゃいけない。
私が眠ってしまったら、私がお母さんのウタワールドに入ってしまったら、
[打消し]ないとは思いたいけど[/打消し]私の体が、お母さんに乗っ取られてしまったら。
世界が、終わってしまう。
ルフィも、シャンクスも、ファンのみんなも……お母さんの世界に入れられて。
世界が崩壊してしまう。
《お母さんには、なにか考えがあるはずだよ!》
《でも、これは絶対おかしいよ!》
私の中で、【私】たちが喧嘩をしている。
が、実際そんな悠長なことをやっている暇はない。
「[斜体]ら〜らら〜ららら〜。
私は 今日も あなたのことを愛し・て・る[/斜体]」
お母さんの子守唄(三番)を、お母さんの歌に負けないように大熱唱する。
そして、その歌が聞こえないところまで、走る。
〈困ったら、とりあえず逃げとけばいい。逃げて悪いことは少ないからな。〉
お母さんの教えを忠実に守って。
〈怖い歌だって、遠くに行けば聞こえなくなる。
だから、お前の力で攻撃するなら、お前がこの能力を使いこなしたいなら、音のことをちゃんと知らなくちゃいけない。〉
音の性質をよく考えて。
走る、逃げる、歌う……叫ぶ。
「眠れや 眠れ 我が愛子よ!
眠れや 眠れ 我が愛弟子よ
眠れや 眠れ 我が仲間!
眠れや 眠れ 良い夢を!!」
はぁ、はぁと息切れをさせて、私はそっと、塞いでいた耳を離す。
音は、もう聞こえない。
ずいぶん会場から離れた場所に来てしまった、と思った。
10年ほどここにいた私でも、まだ知らない南の海辺。
後ろを見れば、切り立った崖がそびえ立っている。
「すごい……。」
ところどころ、青い宝石のような石が埋め込まれており、その蒼が、海賊旗を描いていた。
ドクロと太陽、月。そして、星々。
「ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やぁ……。」
数えてみれば、11個。
夜空を見上げれば、
星たちが、私を見つめているように見えた。
「ら……ら……ら……。」
小声で、歌を歌う。
それは、シャンクスに初めて教えてもらった歌。
お母さんが、最初に教えてくれた、歌。

おかあさん……どうしちゃったんだろう?
私じゃぁ、お母さんを助けられない。
私は弱い。
私には、お母さんを攻撃できる勇気がない。
誰なら、お母さんを助けてくれるだろう?
海軍の人?
……あの人達はお母さんを敵対視してる。
助けてくれるわけがない。
ルフィ?
……ウタワールドに閉じ込められてる。
現実世界じゃなきゃ、お母さんを引き上げるのは、無理だ。
誰なら、誰なら、誰……。
「シャンクス……!!」
優しくて、陽気で、面白い。
子供っぽいけど、[漢字]いざという[/漢字][ふりがな]こういう[/ふりがな]時には頼りになる人。
私のお父さん。
「シャンクスーーーーー!!!!!」
海に向かって、叫ぶ。
聞こえているかはわからない。この近くにはいないかもしれない。
ここに来れるかどうかも、わからない。
けれど、叫ばずにはいられなかった。
「みんなぁーーーーーー!!!……っ」
そこまで言って、言葉が詰まる。
助けを求めていいんだろうか?こんな私が……?
あんなことをした私が?
〈困ったら、逃げとけばいい。
逃げて悪いことは少ないからな。
でも、逃げても無理だったら、助けを求めろ。
誰でもいいわけじゃないぞ?ちゃんと信頼できる人。その人に、助けてって言えよ。〉
お母さんの言葉が脳裏に蘇る。
あのときのお母さんの目は、とても冗談に見えなかったことを、私は覚えている。
言うよって約束したことも、ちゃんと。
「[小文字]たすけっ……て。[/小文字]」
小さい声。
ザザァンという波の音に、かき消されるほどに。
とてもじゃないけど、聞こえるわけない。
「[小文字]シャンクス……[/小文字]」
溢れる涙。
情けない自分への怒りと、お母さんを救えない恐怖が、混ざった涙。
暗い空には、月が一つ。
海の向こうでぼんやりと光る月光に、私は飲み込まれそうになった。
キラリ。
その少し後、月光や星光りとは別の、小さな光の点が現れる。
びゅぉぉっ……。風が、私の横を通り過ぎる。
なんで?ここは、[漢字]風の帯[/漢字][ふりがな]カームベルト[/ふりがな]の真ん中なのに。
無風地帯だから、船なんて、来れるはずないのに。わかってたのに。
あの船は、あの色は、あれは……。
「レッド、フォース………!!」


「あ、見ろ!!あれはウタだ!!」
「本当だ!!大きくなって……。」
聞こえる。聞こえる。
懐かしい声。
私の大切な人たちが、船の甲板から、姿を現す。
「ウターーー!!」
ひときわ大きな、男の人の声。
その男は、船を飛び降り、一瞬のうちに私の目の前に着地する。
それは。
「シャンクス!!」

シャンクスだった。
「……えと、その、あの……。」
気まずそうに、シャンクスは口を開く。
まだ、【あのこと】を気にしているのだろうか?
海賊なのに、やったことを気にしてるのか?
呆れて私は、シャンクスのその太い右腕を掴む。
「ほら、シャンクス、こっち!」
「へ?」
「謝罪なら後で聞くから、お母さん止めるの手伝って!
このままじゃみんな閉じ込められちゃう!」
何を言っているんだと言うかのようなその顔に、一発デコピンを食らわせてから、彼を引っ張り、向こうへ向かう。
「いや、まだ話が……。」
「まだ気にしてるの?もしかして……私がお母さんを取った、負け惜しみ?」
いつもルフィに言ってやるような、いたずらっぽい笑みで、私はシャンクスを見る。
シャンクスは、キョトンとすると、首を横に振って、ため息を付いた。
「おーし!!野郎ども!!師匠を止めるぞ!!!」
「「「「「はぁ!?」」」」」
みんなの声が、海辺に響き渡る。
話してないのか。でも、シャンクスらしくて安心するな。
きっとこれなら、お母さんだって、教えてくれるはず。
何があったのか、なんでこんな事してるのか。
きっと、教えてくれるはず。

2024/06/09 10:50

ミコト
ID:≫ 8t/IaoonNB37w
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