「スズメっ!!おかわりっ!」
「承知仕りましてよ!」
アオハは白米をかきこんだ後、スズメにお茶碗を渡す。
ここはコーカサスカブト城の食堂。
スズメの用意した食事を、皆で頬張っているのである。
「アオハ、喉につまらせるぞ、よく噛んで食べなさい。」
「ヤンマにさっさと情報渡したいんだよ。」
「それでも!」
「いいだろ!!私の勝手だろ!!」
ぎゃいのぎゃいのすぐに喧嘩が始まるが、スズメは慣れているかのようにアオハのお茶碗をテーブルに置き笑う。
「あらら、変わっておられませんこと。」
「むぅ……。あ、スズメ、サンキュー!」
アオハはすぐにお茶碗を取るとまたかきこみ始める。
だーかーらー!!とラクレスが怒り始めるがもう気にしていない。
「ごちそうさんっ!!私いつものとこいるから!
ラクレス、スズメ、留守頼む!!」
「あ、ちょ!!」「御武運を。」
はぁぁぁ、と深い溜め息が食堂中に響き渡ったのと同時に、アオハが食堂を出るガチャンという音が耳に届いた。
「全く、良くも悪くも姉弟揃ってそっくりなんだからな……。」
「アオハ様のそういうところが好きなんでしょうに。」
「なっ……。あいつのどこが!!」
スズメの言葉に、わかりやすく慌てるラクレス。
スズメはふふふと笑うと小さな子供に言い聞かせるように優しく言った。
「私にはわかっておりますよ。」
「す、スズメ、お前こそアオハのそういうところが好きなんだろう!?」
「当たり前でございましてよ。アオハ様がいなければ、
私は愛しいラクレス様を手にかけていたやもしれませぬゆえ。」
焦るラクレスと堂々とするスズメ。
その二人を、王たちは、気まずく眺めていた。
[水平線]
スズメとアオハの出会いは12年前ほどのことである。
「スズメにございます。」
ラクレスの妃候補としてやってきたその女性は、ラクレスを深く嫌っていた。
その顔は穏やかであろうと、目には殺気が込められている。
「ふつつかものですが、何卒よろしくお願い致します。」
「よ、よろしく、スズメ。」
一方のラクレスと言えば。妃候補という女性を目の前にして混乱していた。
ラクレスは意外とおとなしい女性への耐性がないのである。
だからなのか、ただ鈍いだけなのか。
彼はスズメの発する殺気に気づけずにいた。
「ラクレス。スズメって女には気をつけろよ。」
「はぁ!?どういうことだ、アオハ。」
部屋に戻ったあと、アオハはいの一番にそう言った。
ラクレスの反応に、やっぱり気づいていなかったかと言わんばかりに頭を抱えると、ラクレスに向かってデコピンをした。
「この世界じゃ甘ったるいこと言ってられねぇんだよ。
王は命を狙われるのが[漢字]運命[/漢字][ふりがな]さだめ[/ふりがな]。
スズメって女もお前の命を狙ってる。気づけ、それぐらい。」
「え、え!?彼女が!?」
嘘だろ、というラクレスにアオハは頷くと、まっすぐに彼を見た。
「ま、命狙われたくないんなら大人しくしてるんだな。
それとも、人質に感情移入したか?」
「ひとっ……彼女は!!「違わねぇだろーが。」
ラクレスの言葉を、アオハは一蹴する。
何も答えられずに沈黙してしまったラクレスの肩に、アオハは手を乗せる。
「ま、そいつを気に入ったなら、死ぬこと覚悟で向かうんだな。
単純じゃねーぞ、あの女は。どんだけ裏があることか。」
「……わかった。」
ラクレスはアオハの手を払いのけると、キッと前を向いた。
それは、邪知暴虐の王になると決意したときの表情と同じであった。
「スズメさんのことは、私が守る。命をかけて、彼女と向き合う。
そして……。叶うならば……。彼女を家族のもとに無傷で帰してやりたい。」
「りょーかい、国王陛下。ま、そう簡単に死なせないよ?私、これでもお前の宰相。」
ニッとアオハは笑うと、ソファに倒れ込み、すぅすぅと寝息を立て始めた。
「はや!?」
それから数日後。コーカサスカブト城で舞踏会が開かれた。
ある意味スズメのお披露目会である。
シュゴッダム、イシャバーナなど名だたる王族、貴族の参列する大きなものである。
スズメはもう会場にいるということで、ラクレスも準備しているのであるが。
「ローブはやめろ!!舞踏会だぞ!!」
「えー、、、動きづらいじゃん!!」
「そういう理由じゃなくて!!」
アオハがドレスを着たくないと駄々をこねていたのである。
もともと[漢字]喧嘩屋[/漢字][ふりがな]用心棒[/ふりがな]のアオハにとって
服というのは動きやすさ重視であり、
スカートなんぞ【走れない】・【まともに外でれない】・【蹴りづらい】の
3コンボを決める最も好きではない服に数えられるのである。
「だったら、ラクレスみたいのがいい。」
「……わかった、ちょっと待ってろ。」
ラクレスはクローゼットの奥深くに入り込むと、
出したのは大きくなったら着るだろうとラクレスがギラにつくった洋服。
もう使わないだろうと奥深くに眠らせておいたのだが。
「これでどうだ?」
「おー!!めっちゃかっこいい!」
「そんな?」
シルクの生地に青い柄。
それはアオハの髪にかかる青いメッシュにあって、とてもきれいだった。
しかし、宰相は顔を見せられない。深くベールをかぶると、アオハはベール越しでもわかるように笑った。
「ありがと、ラクレス!!」
「早く行くぞ、遅れる。」
「わかってるよ。」
手を取って走り出す二人。
ラクレスは、アオハの小さな手に、ギラを重ねていた。
「あら、ラクレス様。今夜は誰とお踊りにならせられるのですか?」
「ラクレス様、今夜は私と______。」
「ラクレス様。いかがですか。」
「いえ、今晩は相手がおりますゆえに。」
ラクレスが登場した瞬間、女性たちは皆ラクレスの方へなだれ込む。
さすがは国王。人気すぎて目が回りそうであった。
「大変ね。」
「ヒメノ。」
声をかけてきた少女は、ヒメノ・ラン。
イシャバーナの女王である。
「王だから仕方ない。……お前こそ大丈夫なのか。」
「慣れてるわ。で、私は私のもの。誰にも渡す気はないの。今はね。」
「お前らしいな。」
ヒメノとラクレスは幼いときから知り合いだった。
お互いあまり話はしないが、尊敬はしていた。
「では、ごきげんよう。」
「あぁ。」
気が済んだのか、ヒメノはラクレスのそばを離れ、料理の方へ向かっていった。
何だったんだ……と周りを見ると、周りの視線は自らを離れ、一点に向かっていた。
黒色のドレスに身を包んだスズメが、いた。
見慣れぬ女性がいることにみな気づいたのだろう。ざわざわとざわめき立っている。
「[小文字]あの人、何者‥‥?[/小文字]」
「[小文字]ラクレス様のお妃候補だとか。[/小文字]」
「[小文字]トウフの出身……田舎者よ。[/小文字]」
「[小文字]兄は前王を殺したらしいぞ。[/小文字]」
彼女を悪く言う者すら見られる。
彼女は唇を噛みながら、今にも泣いてしまいそうだ。
ラクレスが声を上げようとした、その時。
[大文字]「スズメ様ぁ!!」[/大文字]
アオハが声を張り上げた。
しかし、その声は普段のアオハとは違う。
深く、低い。まるで男性のような。声だった。
「え……。」
スズメは小さい声で驚きをあらわにする。
ラクレスとボシマール以外誰も知らない筈の名前をなぜ知っているのかと。
「心配しましたぞ。ささ、参りましょう。
慣れぬお土地、疲れもたまりましたでしょう。
今宵はゆっくりお休みあそばされよ。」
「……。」
それでもスズメの顔は浮かばない。
自分の殻に閉じこもってしまったようだった。
「カグラギ様もおいでになられておりますよ。
話したいと仰せでございます。」
「兄上が!?」
カグラギ、という言葉にスズメはすごい勢いで反応する。
アオハはどこまで計算していたのだろう。ラクレスはそう思った。
「はい。」
「申し訳ありませぬ、ラクレス様。
踊りはまた今度といたしてくださいませ。」
スズメはそう言うと、慣れぬヒールでタッタッタと出口へと駆けていった。
アオハはラクレスの方を向くと高々と腕を上げた。
勇ましかった。かっこよかった。
そんな彼女に、ラクレスはどうしようもなく駆け寄っていた。
「いかがいたしました?ラクレス様。」
普段のアオハじゃない、アオハ。
それがどうしようもなく、変だった。
「敬語いらない。命令、いつものアオハに戻れ。」
アオハはキョトンとすると、すぐに声を上げて笑った。
「うん、わかった。」
しかしすぐにまたラクレスの回りには女性がたかり始める。
踊る相手はいないでしょう、私とどうですか。
そう言いに来るのである。
根っこは優しいラクレスのこと。うまく断りきれない。
そんなラクレスを見かねて、アオハが膝をついた。
「ラクレス様。[漢字]私[/漢字][ふりがな]わたくし[/ふりがな]の顔はここにおられる御方には勝てませぬが。
あなたへの思いは誰にも負けることはございません。」
なに、こいつ。と女性たちがまた悪口を言い始めそうになった、その時。
「なんとでもお云いくださいませ。
出自に関して言われるのは慣れておりますれば。」
そう。アオハのメンタルは鋼鉄並み。
スラムの出身でありあーだのこーだの言われるのは慣れっこなのである。
「ラクレス様。そろそろご決断くださいませ。
私はあなた様の従者でございますが、よければ今宵私と踊りませんか。」
まるで台本でも作ったかのような言葉。
敬語なしと言ったのにすぐに敬語を出せる臨機応変さ。
ここでヤンキーアオハが出てきたらそれこそ非難殺到だろう。
さすがとしか言いようがない。
「……従者であれど、関係ない。立て。私と踊ろう。」
アオハの手を取り、ラクレスはそのまま踊りだす。
流れる音楽に身を任せて。アオハもいつの間にか学んでいたらしく、ラクレスについていく。
その美しい踊りに、皆見惚れていた。
「[小文字]やっぱり、お前は最悪だな。[/小文字]」
「[小文字]お前こそ。[/小文字]」
その踊りはシュゴッダムの伝説にすらなったと言う。
スズメは兄、カグラギと話したあと、上機嫌で自分の部屋へと向かっていった。
少し貴族の女性にディスられた気がするが、そんなことは忘れてしまった。
元来精神が図太い性格なのである。
「……!!」
「あぁ、スズメ様。」
歩いていくと、階段の前にあの小さな子どもが待ち構えていた。
子供であるのに低く、深い声をしているあの子供が。
「楽しめましたか?お兄様とのお話は。」
スズメは内心では警戒心を解くことなく、笑顔で頷いた。
「はい、ご手配感謝いたします。」
子供の顔はベールで覆われ見えない。
それがまたスズメの警戒心を強めた。
「あの貴婦人は私よりご注意いたしましたのでご安心を。
今回のことを根に持って、我が主を傷つけるなど、お考えになられませぬよう。」
静かに、けれども強く、子供は言った。
思考を読まれている。そう思ったスズメはまた作り笑顔を貼った。
「御冗談を。私がラクレス様を傷つけるなどありましょうか。」
「いえ、ほんの例え話にございます。
しかし………本当に我が主を傷つけたいのであれば、
私を通してからにしてくださいませ。
[太字]スズメ・ディボウスキ様。[/太字]」
そう言うと、子供はどこかへと姿を消した。
スズメは最後の言葉に、毒針のような恐ろしさを感じてしまった。
「承知仕りましてよ!」
アオハは白米をかきこんだ後、スズメにお茶碗を渡す。
ここはコーカサスカブト城の食堂。
スズメの用意した食事を、皆で頬張っているのである。
「アオハ、喉につまらせるぞ、よく噛んで食べなさい。」
「ヤンマにさっさと情報渡したいんだよ。」
「それでも!」
「いいだろ!!私の勝手だろ!!」
ぎゃいのぎゃいのすぐに喧嘩が始まるが、スズメは慣れているかのようにアオハのお茶碗をテーブルに置き笑う。
「あらら、変わっておられませんこと。」
「むぅ……。あ、スズメ、サンキュー!」
アオハはすぐにお茶碗を取るとまたかきこみ始める。
だーかーらー!!とラクレスが怒り始めるがもう気にしていない。
「ごちそうさんっ!!私いつものとこいるから!
ラクレス、スズメ、留守頼む!!」
「あ、ちょ!!」「御武運を。」
はぁぁぁ、と深い溜め息が食堂中に響き渡ったのと同時に、アオハが食堂を出るガチャンという音が耳に届いた。
「全く、良くも悪くも姉弟揃ってそっくりなんだからな……。」
「アオハ様のそういうところが好きなんでしょうに。」
「なっ……。あいつのどこが!!」
スズメの言葉に、わかりやすく慌てるラクレス。
スズメはふふふと笑うと小さな子供に言い聞かせるように優しく言った。
「私にはわかっておりますよ。」
「す、スズメ、お前こそアオハのそういうところが好きなんだろう!?」
「当たり前でございましてよ。アオハ様がいなければ、
私は愛しいラクレス様を手にかけていたやもしれませぬゆえ。」
焦るラクレスと堂々とするスズメ。
その二人を、王たちは、気まずく眺めていた。
[水平線]
スズメとアオハの出会いは12年前ほどのことである。
「スズメにございます。」
ラクレスの妃候補としてやってきたその女性は、ラクレスを深く嫌っていた。
その顔は穏やかであろうと、目には殺気が込められている。
「ふつつかものですが、何卒よろしくお願い致します。」
「よ、よろしく、スズメ。」
一方のラクレスと言えば。妃候補という女性を目の前にして混乱していた。
ラクレスは意外とおとなしい女性への耐性がないのである。
だからなのか、ただ鈍いだけなのか。
彼はスズメの発する殺気に気づけずにいた。
「ラクレス。スズメって女には気をつけろよ。」
「はぁ!?どういうことだ、アオハ。」
部屋に戻ったあと、アオハはいの一番にそう言った。
ラクレスの反応に、やっぱり気づいていなかったかと言わんばかりに頭を抱えると、ラクレスに向かってデコピンをした。
「この世界じゃ甘ったるいこと言ってられねぇんだよ。
王は命を狙われるのが[漢字]運命[/漢字][ふりがな]さだめ[/ふりがな]。
スズメって女もお前の命を狙ってる。気づけ、それぐらい。」
「え、え!?彼女が!?」
嘘だろ、というラクレスにアオハは頷くと、まっすぐに彼を見た。
「ま、命狙われたくないんなら大人しくしてるんだな。
それとも、人質に感情移入したか?」
「ひとっ……彼女は!!「違わねぇだろーが。」
ラクレスの言葉を、アオハは一蹴する。
何も答えられずに沈黙してしまったラクレスの肩に、アオハは手を乗せる。
「ま、そいつを気に入ったなら、死ぬこと覚悟で向かうんだな。
単純じゃねーぞ、あの女は。どんだけ裏があることか。」
「……わかった。」
ラクレスはアオハの手を払いのけると、キッと前を向いた。
それは、邪知暴虐の王になると決意したときの表情と同じであった。
「スズメさんのことは、私が守る。命をかけて、彼女と向き合う。
そして……。叶うならば……。彼女を家族のもとに無傷で帰してやりたい。」
「りょーかい、国王陛下。ま、そう簡単に死なせないよ?私、これでもお前の宰相。」
ニッとアオハは笑うと、ソファに倒れ込み、すぅすぅと寝息を立て始めた。
「はや!?」
それから数日後。コーカサスカブト城で舞踏会が開かれた。
ある意味スズメのお披露目会である。
シュゴッダム、イシャバーナなど名だたる王族、貴族の参列する大きなものである。
スズメはもう会場にいるということで、ラクレスも準備しているのであるが。
「ローブはやめろ!!舞踏会だぞ!!」
「えー、、、動きづらいじゃん!!」
「そういう理由じゃなくて!!」
アオハがドレスを着たくないと駄々をこねていたのである。
もともと[漢字]喧嘩屋[/漢字][ふりがな]用心棒[/ふりがな]のアオハにとって
服というのは動きやすさ重視であり、
スカートなんぞ【走れない】・【まともに外でれない】・【蹴りづらい】の
3コンボを決める最も好きではない服に数えられるのである。
「だったら、ラクレスみたいのがいい。」
「……わかった、ちょっと待ってろ。」
ラクレスはクローゼットの奥深くに入り込むと、
出したのは大きくなったら着るだろうとラクレスがギラにつくった洋服。
もう使わないだろうと奥深くに眠らせておいたのだが。
「これでどうだ?」
「おー!!めっちゃかっこいい!」
「そんな?」
シルクの生地に青い柄。
それはアオハの髪にかかる青いメッシュにあって、とてもきれいだった。
しかし、宰相は顔を見せられない。深くベールをかぶると、アオハはベール越しでもわかるように笑った。
「ありがと、ラクレス!!」
「早く行くぞ、遅れる。」
「わかってるよ。」
手を取って走り出す二人。
ラクレスは、アオハの小さな手に、ギラを重ねていた。
「あら、ラクレス様。今夜は誰とお踊りにならせられるのですか?」
「ラクレス様、今夜は私と______。」
「ラクレス様。いかがですか。」
「いえ、今晩は相手がおりますゆえに。」
ラクレスが登場した瞬間、女性たちは皆ラクレスの方へなだれ込む。
さすがは国王。人気すぎて目が回りそうであった。
「大変ね。」
「ヒメノ。」
声をかけてきた少女は、ヒメノ・ラン。
イシャバーナの女王である。
「王だから仕方ない。……お前こそ大丈夫なのか。」
「慣れてるわ。で、私は私のもの。誰にも渡す気はないの。今はね。」
「お前らしいな。」
ヒメノとラクレスは幼いときから知り合いだった。
お互いあまり話はしないが、尊敬はしていた。
「では、ごきげんよう。」
「あぁ。」
気が済んだのか、ヒメノはラクレスのそばを離れ、料理の方へ向かっていった。
何だったんだ……と周りを見ると、周りの視線は自らを離れ、一点に向かっていた。
黒色のドレスに身を包んだスズメが、いた。
見慣れぬ女性がいることにみな気づいたのだろう。ざわざわとざわめき立っている。
「[小文字]あの人、何者‥‥?[/小文字]」
「[小文字]ラクレス様のお妃候補だとか。[/小文字]」
「[小文字]トウフの出身……田舎者よ。[/小文字]」
「[小文字]兄は前王を殺したらしいぞ。[/小文字]」
彼女を悪く言う者すら見られる。
彼女は唇を噛みながら、今にも泣いてしまいそうだ。
ラクレスが声を上げようとした、その時。
[大文字]「スズメ様ぁ!!」[/大文字]
アオハが声を張り上げた。
しかし、その声は普段のアオハとは違う。
深く、低い。まるで男性のような。声だった。
「え……。」
スズメは小さい声で驚きをあらわにする。
ラクレスとボシマール以外誰も知らない筈の名前をなぜ知っているのかと。
「心配しましたぞ。ささ、参りましょう。
慣れぬお土地、疲れもたまりましたでしょう。
今宵はゆっくりお休みあそばされよ。」
「……。」
それでもスズメの顔は浮かばない。
自分の殻に閉じこもってしまったようだった。
「カグラギ様もおいでになられておりますよ。
話したいと仰せでございます。」
「兄上が!?」
カグラギ、という言葉にスズメはすごい勢いで反応する。
アオハはどこまで計算していたのだろう。ラクレスはそう思った。
「はい。」
「申し訳ありませぬ、ラクレス様。
踊りはまた今度といたしてくださいませ。」
スズメはそう言うと、慣れぬヒールでタッタッタと出口へと駆けていった。
アオハはラクレスの方を向くと高々と腕を上げた。
勇ましかった。かっこよかった。
そんな彼女に、ラクレスはどうしようもなく駆け寄っていた。
「いかがいたしました?ラクレス様。」
普段のアオハじゃない、アオハ。
それがどうしようもなく、変だった。
「敬語いらない。命令、いつものアオハに戻れ。」
アオハはキョトンとすると、すぐに声を上げて笑った。
「うん、わかった。」
しかしすぐにまたラクレスの回りには女性がたかり始める。
踊る相手はいないでしょう、私とどうですか。
そう言いに来るのである。
根っこは優しいラクレスのこと。うまく断りきれない。
そんなラクレスを見かねて、アオハが膝をついた。
「ラクレス様。[漢字]私[/漢字][ふりがな]わたくし[/ふりがな]の顔はここにおられる御方には勝てませぬが。
あなたへの思いは誰にも負けることはございません。」
なに、こいつ。と女性たちがまた悪口を言い始めそうになった、その時。
「なんとでもお云いくださいませ。
出自に関して言われるのは慣れておりますれば。」
そう。アオハのメンタルは鋼鉄並み。
スラムの出身でありあーだのこーだの言われるのは慣れっこなのである。
「ラクレス様。そろそろご決断くださいませ。
私はあなた様の従者でございますが、よければ今宵私と踊りませんか。」
まるで台本でも作ったかのような言葉。
敬語なしと言ったのにすぐに敬語を出せる臨機応変さ。
ここでヤンキーアオハが出てきたらそれこそ非難殺到だろう。
さすがとしか言いようがない。
「……従者であれど、関係ない。立て。私と踊ろう。」
アオハの手を取り、ラクレスはそのまま踊りだす。
流れる音楽に身を任せて。アオハもいつの間にか学んでいたらしく、ラクレスについていく。
その美しい踊りに、皆見惚れていた。
「[小文字]やっぱり、お前は最悪だな。[/小文字]」
「[小文字]お前こそ。[/小文字]」
その踊りはシュゴッダムの伝説にすらなったと言う。
スズメは兄、カグラギと話したあと、上機嫌で自分の部屋へと向かっていった。
少し貴族の女性にディスられた気がするが、そんなことは忘れてしまった。
元来精神が図太い性格なのである。
「……!!」
「あぁ、スズメ様。」
歩いていくと、階段の前にあの小さな子どもが待ち構えていた。
子供であるのに低く、深い声をしているあの子供が。
「楽しめましたか?お兄様とのお話は。」
スズメは内心では警戒心を解くことなく、笑顔で頷いた。
「はい、ご手配感謝いたします。」
子供の顔はベールで覆われ見えない。
それがまたスズメの警戒心を強めた。
「あの貴婦人は私よりご注意いたしましたのでご安心を。
今回のことを根に持って、我が主を傷つけるなど、お考えになられませぬよう。」
静かに、けれども強く、子供は言った。
思考を読まれている。そう思ったスズメはまた作り笑顔を貼った。
「御冗談を。私がラクレス様を傷つけるなどありましょうか。」
「いえ、ほんの例え話にございます。
しかし………本当に我が主を傷つけたいのであれば、
私を通してからにしてくださいませ。
[太字]スズメ・ディボウスキ様。[/太字]」
そう言うと、子供はどこかへと姿を消した。
スズメは最後の言葉に、毒針のような恐ろしさを感じてしまった。
- 1.始まり
- 2.ブレスレット
- 3.ロゼアという国
- 4.ゴッドホッパーの反乱?
- 5.ラクレスの隠し事?
- 6.悲劇の始まり
- 7.行方知れず
- 8.ンコソパ国王の過去 【前編】
- 9.ンコソパ国王の過去 【後編】
- 10.マフィアを動かせ
- 11.ハッキング
- 12.マフィアとシエボル?
- 13.ロゼアへの道
- 14.宝石の国
- 15.戦慄のシエボル
- 16.力を以って
- 17.宰相様と国王サマ
- 18.邪智暴虐の
- 19.シスコン総長と呑気な女宰相
- 20.お姉ちゃん
- 21.二人のお兄ちゃん
- 22.スズメのご飯はチキュー1 byアオハ
- 23.スズメとアオハ【前編】
- 24.スズメとアオハ 【中編】
- 25.スズメとアオハ 【後編】
- 26.選ぶ結末、選ぶ未来
- 27.子守唄
- 28.眠る宰相、明けのカラス
- 29.宰相の異変
- 30.終わりの始まり、
- 31.目覚まし時計
- 32.生きる意味ってなんですか
- 33.戦闘民族(?)
- 34.太古の守護神
- 35.王と王妃
- 36.フィナーレ開幕
- 37.宰相の遺産
- 38.ラポネ・リバナラクという男
- 39.宰相たちの墓場【前編】
- 40.宰相たちの墓場【中編】
- 41.宰相たちの墓場【中編その2】
- 42.宰相の墓場 【後編】
- 43.冷却、そして覚悟
- 44.物語の終わりへ結末へ。
- 45.アオハとシエボル【前編】
- 46.アオハとシエボル【中編】
- 47.落下、そして墜落