カチャカチャカチャ。
今ギラの耳に届くのは、単調なキーボードの音だけ。
人の声も、シュゴッドの声も、生活音も何もかも聞こえない山奥のシェルター。
その中で、ギラは宰相たちを目覚めさせようとしている。
「ねぇ、ヤンマ。ご飯食べよ。」
と言っても、ほとんどのことはヤンマがやってくれている。
だからギラがやることといえば、シュゴッドたちから宰相の情報を聞き出すことくらいだった。
「ん?あぁ、もうそんな時間かよ。」
このシェルターには、時計も窓もない。
宰相たちを目覚めさせるというのはロゼアから狙われる行為らしい。
過保護な兄姉は弟たちを少しでも安全な場所に置くため、城ではなく、シェルターでやるように提言したのだ。
まぁ、その間の仕事は二人がやってくれると言っているので何も問題はないのだが。
「いただきます!」
「い、ただきます?」
少し疑問形になりながらヤンマは手を合わせる。
それもそのはず。
ほぼ盗み物で即食べ、即飲み込むのを十年近く繰り返したヤンマには、『いただきます』という習慣などないのである。
「……うま。」
「え、、そうかな………。」
不安がるギラを横目に、ヤンマは料理へ次々と箸を伸ばす。
「うめーよ。
なんて言うの、おふくろの味って俺にもあったらこんなんなんだろなって。」
「お、お母さんの味かぁ……。でも僕も、あんまり良くわかんないや。」
僕のお母さんは僕を生んだから死んじゃったんだよなぁと、他人事のようにギラはつぶやく。
ヤンマも彼の母親については良く知らないので話をスルー。
使った脳に栄養を早く運ぶべしと口に詰め込む。
「ヤンマ。喉に詰まらせないでよ。」
「ふぁふぁっふぇふ。(訳 わかってる)」
「わかってないでしょ、絶対。」
僕も昔、お兄ちゃんに言われたっけなと、ギラは昔の記憶に思いを馳せる。
ギラが生まれたとき、兄はまだ6つとかそこらだった。
「お兄ちゃんはさ、僕のこと恨んでたのかな。」
「ん?」
「お母さんを。殺したのは僕なんだよ。……恨んでなかったのかな。」
ヤンマはごっくんと口に詰めたものを飲み込むと、ギラの方をまっすぐ見た。
「俺にはわかんねぇけど、あいつがいいならいいんじゃねぇの?
それと、簡単に自分が母親殺したとかいうんじゃねぇ。」
ギラはヤンマの言葉に何も返さず、もぐもぐとご飯を頬張り始める。
そんなギラを見て、ヤンマは笑う。
「お前らしいな、そういうの。」
「ん、そうかな。」
「お前に罪はねぇし、死因はお前を生んだからじゃねぇ可能性もあるだろ。
いつでも自分が悪いって考えんなってこと。」
ごちそうさんと手を合わせ、ヤンマはまた、パソコンに向かい始める。
ギラも、残りを口に詰め込むと、手を合わせ、食器を運ぶ。
「ヤンマってさ、お母さんとかお父さんとか、知ってるの?」
不意にそんな言葉が口をついて出る。
子供の頃から天涯孤独だった彼には、両親の記憶はあるのだろうかと。
「知らねぇ。
まず俺さ、姉ちゃんと血繋がってるかどうかすらわかんねぇの。
笑っちまうだろ?赤ん坊の頃から、生まれたときからずっといるってのに。
どっちも相手が本当の姉弟であるかすらわかんねぇ。」
カチャカチャカチャ、またキーボードの音。
それに交じるのは、ヤンマの静かな声。
「ま、気にしたことなんてねぇけど……。
たまに思うぜ。姉ちゃんが本当の姉ちゃんじゃなかったら。
姉ちゃんは、なんで俺を大切にしてくれているんだろうってな。」
「……。」
ギラは思う。だったら僕は。
すべてを忘れていた。19年前、あの時。レインボージュルリラを食べたあの時から。
ギラは【ギラ・ハスティー】の名を捨てた。
血が繋がっているなんて、思いもしなかった。
ヒメノやリタが、調べていてくれなかったら、ギラはラクレスのことを兄とは呼べなかっただろう。
「ねぇ、ヤンマ。お兄ちゃんって、どんな感じなのかな。」
「なんで俺に聞くんだよ?俺だって弟だぞ。」
ギラは最初の2年間、ラクレスを兄と思えたことはなかった。
邪智暴虐の王を兄にもつなど考えたくもなかった。
けれど、血筋は変えられない。
王になった以上、【ギラ・ハスティー】を名乗らなければならない。
だから、ヤンマの存在がどれほど暖かかったことだろう。
【タコメンチ】。その名はギラが【ハスティー】の名を隠せる唯一の名。
ヤンマがギラにつけた、唯一無二の名。
「だって僕さ、ヤンマのことずっとお兄ちゃんって思ってるから。」
「んだよ、それ。」
彼は知らないかもしれないけれど、ギラは幾度となく、彼に救われた。
一度目の出会いの時。
仲間になってくれた時。
まだギラが、何に対しても甘かった時。
決闘裁判の時。
何度も自分を犠牲にしようとした時。
王になっても、それは変わらなかった。
どんなに迷っても、彼がいるから前に進めた。
彼がいたから、【ギラ・ハスティー】になれた。
ギラには、ラクレスみたいに、優しく強く、ずっと自らを守ってくれる兄もいれば。
ヤンマのように世界のことをどんなに厳しくても教えてくれる兄もいる。
「ふふっ……初めて会ったときから、ずっとね。」
その言葉に対するヤンマの返答はなかった。
カチャカチャカチャ。宰相の復活は、もう近い。
今ギラの耳に届くのは、単調なキーボードの音だけ。
人の声も、シュゴッドの声も、生活音も何もかも聞こえない山奥のシェルター。
その中で、ギラは宰相たちを目覚めさせようとしている。
「ねぇ、ヤンマ。ご飯食べよ。」
と言っても、ほとんどのことはヤンマがやってくれている。
だからギラがやることといえば、シュゴッドたちから宰相の情報を聞き出すことくらいだった。
「ん?あぁ、もうそんな時間かよ。」
このシェルターには、時計も窓もない。
宰相たちを目覚めさせるというのはロゼアから狙われる行為らしい。
過保護な兄姉は弟たちを少しでも安全な場所に置くため、城ではなく、シェルターでやるように提言したのだ。
まぁ、その間の仕事は二人がやってくれると言っているので何も問題はないのだが。
「いただきます!」
「い、ただきます?」
少し疑問形になりながらヤンマは手を合わせる。
それもそのはず。
ほぼ盗み物で即食べ、即飲み込むのを十年近く繰り返したヤンマには、『いただきます』という習慣などないのである。
「……うま。」
「え、、そうかな………。」
不安がるギラを横目に、ヤンマは料理へ次々と箸を伸ばす。
「うめーよ。
なんて言うの、おふくろの味って俺にもあったらこんなんなんだろなって。」
「お、お母さんの味かぁ……。でも僕も、あんまり良くわかんないや。」
僕のお母さんは僕を生んだから死んじゃったんだよなぁと、他人事のようにギラはつぶやく。
ヤンマも彼の母親については良く知らないので話をスルー。
使った脳に栄養を早く運ぶべしと口に詰め込む。
「ヤンマ。喉に詰まらせないでよ。」
「ふぁふぁっふぇふ。(訳 わかってる)」
「わかってないでしょ、絶対。」
僕も昔、お兄ちゃんに言われたっけなと、ギラは昔の記憶に思いを馳せる。
ギラが生まれたとき、兄はまだ6つとかそこらだった。
「お兄ちゃんはさ、僕のこと恨んでたのかな。」
「ん?」
「お母さんを。殺したのは僕なんだよ。……恨んでなかったのかな。」
ヤンマはごっくんと口に詰めたものを飲み込むと、ギラの方をまっすぐ見た。
「俺にはわかんねぇけど、あいつがいいならいいんじゃねぇの?
それと、簡単に自分が母親殺したとかいうんじゃねぇ。」
ギラはヤンマの言葉に何も返さず、もぐもぐとご飯を頬張り始める。
そんなギラを見て、ヤンマは笑う。
「お前らしいな、そういうの。」
「ん、そうかな。」
「お前に罪はねぇし、死因はお前を生んだからじゃねぇ可能性もあるだろ。
いつでも自分が悪いって考えんなってこと。」
ごちそうさんと手を合わせ、ヤンマはまた、パソコンに向かい始める。
ギラも、残りを口に詰め込むと、手を合わせ、食器を運ぶ。
「ヤンマってさ、お母さんとかお父さんとか、知ってるの?」
不意にそんな言葉が口をついて出る。
子供の頃から天涯孤独だった彼には、両親の記憶はあるのだろうかと。
「知らねぇ。
まず俺さ、姉ちゃんと血繋がってるかどうかすらわかんねぇの。
笑っちまうだろ?赤ん坊の頃から、生まれたときからずっといるってのに。
どっちも相手が本当の姉弟であるかすらわかんねぇ。」
カチャカチャカチャ、またキーボードの音。
それに交じるのは、ヤンマの静かな声。
「ま、気にしたことなんてねぇけど……。
たまに思うぜ。姉ちゃんが本当の姉ちゃんじゃなかったら。
姉ちゃんは、なんで俺を大切にしてくれているんだろうってな。」
「……。」
ギラは思う。だったら僕は。
すべてを忘れていた。19年前、あの時。レインボージュルリラを食べたあの時から。
ギラは【ギラ・ハスティー】の名を捨てた。
血が繋がっているなんて、思いもしなかった。
ヒメノやリタが、調べていてくれなかったら、ギラはラクレスのことを兄とは呼べなかっただろう。
「ねぇ、ヤンマ。お兄ちゃんって、どんな感じなのかな。」
「なんで俺に聞くんだよ?俺だって弟だぞ。」
ギラは最初の2年間、ラクレスを兄と思えたことはなかった。
邪智暴虐の王を兄にもつなど考えたくもなかった。
けれど、血筋は変えられない。
王になった以上、【ギラ・ハスティー】を名乗らなければならない。
だから、ヤンマの存在がどれほど暖かかったことだろう。
【タコメンチ】。その名はギラが【ハスティー】の名を隠せる唯一の名。
ヤンマがギラにつけた、唯一無二の名。
「だって僕さ、ヤンマのことずっとお兄ちゃんって思ってるから。」
「んだよ、それ。」
彼は知らないかもしれないけれど、ギラは幾度となく、彼に救われた。
一度目の出会いの時。
仲間になってくれた時。
まだギラが、何に対しても甘かった時。
決闘裁判の時。
何度も自分を犠牲にしようとした時。
王になっても、それは変わらなかった。
どんなに迷っても、彼がいるから前に進めた。
彼がいたから、【ギラ・ハスティー】になれた。
ギラには、ラクレスみたいに、優しく強く、ずっと自らを守ってくれる兄もいれば。
ヤンマのように世界のことをどんなに厳しくても教えてくれる兄もいる。
「ふふっ……初めて会ったときから、ずっとね。」
その言葉に対するヤンマの返答はなかった。
カチャカチャカチャ。宰相の復活は、もう近い。
- 1.始まり
- 2.ブレスレット
- 3.ロゼアという国
- 4.ゴッドホッパーの反乱?
- 5.ラクレスの隠し事?
- 6.悲劇の始まり
- 7.行方知れず
- 8.ンコソパ国王の過去 【前編】
- 9.ンコソパ国王の過去 【後編】
- 10.マフィアを動かせ
- 11.ハッキング
- 12.マフィアとシエボル?
- 13.ロゼアへの道
- 14.宝石の国
- 15.戦慄のシエボル
- 16.力を以って
- 17.宰相様と国王サマ
- 18.邪智暴虐の
- 19.シスコン総長と呑気な女宰相
- 20.お姉ちゃん
- 21.二人のお兄ちゃん
- 22.スズメのご飯はチキュー1 byアオハ
- 23.スズメとアオハ【前編】
- 24.スズメとアオハ 【中編】
- 25.スズメとアオハ 【後編】
- 26.選ぶ結末、選ぶ未来
- 27.子守唄
- 28.眠る宰相、明けのカラス
- 29.宰相の異変
- 30.終わりの始まり、
- 31.目覚まし時計
- 32.生きる意味ってなんですか
- 33.戦闘民族(?)
- 34.太古の守護神
- 35.王と王妃
- 36.フィナーレ開幕
- 37.宰相の遺産
- 38.ラポネ・リバナラクという男
- 39.宰相たちの墓場【前編】
- 40.宰相たちの墓場【中編】
- 41.宰相たちの墓場【中編その2】
- 42.宰相の墓場 【後編】
- 43.冷却、そして覚悟
- 44.物語の終わりへ結末へ。
- 45.アオハとシエボル【前編】
- 46.アオハとシエボル【中編】
- 47.落下、そして墜落