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ステージの下で呼吸する

#9

弱さのある光

病室で過ごした日々は、澪を変えていた。
完璧であろうと必死だった頃の自分とは、もう別人のように思えた。
復帰の日、澪はステージの後列に立った。
センターではない。目立たない場所だ。
ライトは前ほど当たらない。歓声も、かつての自分を包む圧とは違う。
手に持ったマイクが、重くない。
肩の力が自然に抜ける。
後列からでも、歌える。
それだけで、胸の奥が少し温かくなる。
リハーサルで声を出すと、まだ完璧には届かない。
音程も力も以前ほど安定していない。
でも、失敗を恐れる気持ちは以前より薄れていた。
黒瀬はそっと背中を押すように視線を送る。
「無理するな」
その言葉に、澪は微かに微笑んだ。
観客の中には、かつてのように完璧な自分を期待している人もいるだろう。
でも、全員に応える必要はない。
後列で、少し弱くても、自分らしく歌えばいい。
澪はそう思った。
音楽が流れ、歌い始める。
声はまだ震えている。
でも、呼吸は確かに、自分のものだった。
小さな光でも、届く場所はある。
センターじゃなくても、完璧じゃなくても、歌は歌だった。
ステージを見上げる目が、少しずつ温かく感じられる。
ファンの一部が、澪を見てくれているのがわかる。
「ありがとう」と、心の中でつぶやく。
完璧ではないけれど、
ここにいる自分を、受け入れられる気がした。
――弱さも、光になる。
後列のステージで、澪は初めて、安心して息を吸った。
怖さも不安も、まだ完全には消えない。
でも、立っていられる自分がいる。
それだけで、十分だった。

作者メッセージ

次で完結予定だす

2026/01/20 20:21


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