病室の白は、昼も夜も変わらなかった。
澪はベッドの上で、ノートとペンを手にして座っている。
文字を書くのは久しぶりだった。
書くことで、頭の中に巣食うざわざわした思考を整理したかった。
最初の数行はぎこちなかった。
「今日、息ができなかった」
「ステージに立つのが怖かった」
書くたび、胸の奥の重さが少しだけ動くのがわかった。
息が少しだけ通るような気がした。
だが、書き進めるほどに、記憶が勝手に呼び覚まされる。
昔のレッスンで怒られたこと。
失敗したくないと必死になった夜。
誰も見ていないのに泣いた自分。
すべてが、一気に蘇る。
――私は、いつから怖くなったのだろう。
ページに文字を落とすごとに、澪の中の恐怖が形を変える。
声を失ったあの生放送の瞬間。
止まってしまったステージの光。
それらは現実なのか、幻なのか、わからなくなる。
ペン先が止まる。
目の前の紙は、もう真っ白ではなくなった。
文字で埋め尽くされ、まるで澪自身の思考が紙に押し出されたようだった。
「怖い……」
つぶやく。声にならない声。
でも書くことで、少しだけ、
その“怖さ”を外に出せた気がした。
カーテン越しに、隣の叶音がページをめくる音が聞こえる。
「私も書いてる。頭の中に溜めておくと壊れそうだから」
淡々とした声だが、どこか共感を含んでいた。
澪はゆっくりうなずいた。
言葉にはできないけど、確かに理解できる。
同じ箱の中で、二人の心は微かに共鳴した。
夜が深くなると、病室の静けさは逆に恐怖を増幅する。
時計の針の音。換気口から聞こえる微かな風。
自分の呼吸だけが、やけに大きく響く。
だが、紙に文字を落とす行為だけは、少しだけ心を落ち着ける。
息を吐き出すように、過去の失敗も、不安も、文字に変わっていく。
澪はページを見つめ、静かに思った。
――逃げ場はない。けど、少しずつ出口も見えてくるかもしれない。
ペンを握り直す。
文字を書くことは、まだ小さな闘いだ。
でも、その闘いが、澪を少しだけ生き延びさせてくれる気がした。
病室の白い光の中で、恐怖と共に、澪は文字を書き続けた。
頭の中の嵐を紙の上に置くことで、初めて呼吸が、少しだけ楽になったのだった。
澪はベッドの上で、ノートとペンを手にして座っている。
文字を書くのは久しぶりだった。
書くことで、頭の中に巣食うざわざわした思考を整理したかった。
最初の数行はぎこちなかった。
「今日、息ができなかった」
「ステージに立つのが怖かった」
書くたび、胸の奥の重さが少しだけ動くのがわかった。
息が少しだけ通るような気がした。
だが、書き進めるほどに、記憶が勝手に呼び覚まされる。
昔のレッスンで怒られたこと。
失敗したくないと必死になった夜。
誰も見ていないのに泣いた自分。
すべてが、一気に蘇る。
――私は、いつから怖くなったのだろう。
ページに文字を落とすごとに、澪の中の恐怖が形を変える。
声を失ったあの生放送の瞬間。
止まってしまったステージの光。
それらは現実なのか、幻なのか、わからなくなる。
ペン先が止まる。
目の前の紙は、もう真っ白ではなくなった。
文字で埋め尽くされ、まるで澪自身の思考が紙に押し出されたようだった。
「怖い……」
つぶやく。声にならない声。
でも書くことで、少しだけ、
その“怖さ”を外に出せた気がした。
カーテン越しに、隣の叶音がページをめくる音が聞こえる。
「私も書いてる。頭の中に溜めておくと壊れそうだから」
淡々とした声だが、どこか共感を含んでいた。
澪はゆっくりうなずいた。
言葉にはできないけど、確かに理解できる。
同じ箱の中で、二人の心は微かに共鳴した。
夜が深くなると、病室の静けさは逆に恐怖を増幅する。
時計の針の音。換気口から聞こえる微かな風。
自分の呼吸だけが、やけに大きく響く。
だが、紙に文字を落とす行為だけは、少しだけ心を落ち着ける。
息を吐き出すように、過去の失敗も、不安も、文字に変わっていく。
澪はページを見つめ、静かに思った。
――逃げ場はない。けど、少しずつ出口も見えてくるかもしれない。
ペンを握り直す。
文字を書くことは、まだ小さな闘いだ。
でも、その闘いが、澪を少しだけ生き延びさせてくれる気がした。
病室の白い光の中で、恐怖と共に、澪は文字を書き続けた。
頭の中の嵐を紙の上に置くことで、初めて呼吸が、少しだけ楽になったのだった。