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ステージの下で呼吸する

#4

代わりはいない

スタジオの空気が、音を失ったように感じた。
天城澪の声が、わずかに裏返った瞬間だった。
「……もう一回、いけます」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。
喉の奥はひりつくように痛んでいるのに、表情だけは崩さない。
崩してはいけない。ここで止まったら、全部が終わる。
音楽が最初から流される。
数拍待って、息を吸う。
――浅い。
胸に空気が入ってこない感覚に、背中が冷たくなる。
それでも歌った。
いや、[下線]「歌っているふり」[/下線]をした。
ディレクターが視線を伏せる。
メンバーの一人が不安そうに澪を見る。
それらすべてが、視界の端で歪んでいた。
リハーサル後、黒瀬が澪を呼び止めた。
[明朝体]「今日はここまでにしよう。病院、行くぞ」[/明朝体]
その言葉に、澪は首を振った。
反射だった。考える前に体が拒否した。
「大丈夫です。明日本番ですよね」
黒瀬は黙ったまま、数秒間澪を見つめた。
その沈黙が、妙に重かった。
後日、事務所の会議室で告げられた言葉は、予想よりもずっと簡単だった。
[明朝体]「今は外せない時期だ。代わりはいない」[/明朝体]
誰かが悪いわけじゃない。
そう言いたげな口調だった。
だからこそ、澪は何も言えなかった。
代わりはいない。
その言葉が、頭の中で何度も反響する。
[小文字]――じゃあ、壊れても立てってこと?[/小文字]
その問いは、口に出せなかった。
出した瞬間、自分が“[下線]不要[/下線]”になる気がしたから。
夜、帰宅しても喉の違和感は消えなかった。
水を飲んでも、横になっても、胸の奥が落ち着かない。
呼吸の仕方を、忘れてしまったみたいだった。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
涙は出ない。
代わりに、空っぽな感覚だけが広がっていく。
[小文字]――私は、何のために歌ってるんだろう。[/小文字]
その答えを探す余裕は、もう残っていなかった。
澪は目を閉じ、明日のステージを思い浮かべる。
倒れてもいい。
声が出なくなってもいい。
そうやって自分を追い込まなければ、
「天城澪」という存在を、保てない気がした。

作者メッセージ

遅くなりましたごめんなさいっ!

2026/01/04 20:12


ID:≫ 2.3TjLljmmLjA
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