扉の前に立つと、不思議なことに怖さはなかった。
それはまるで、ずっと前からここに来ると決まっていたみたいで。
「開いたら……どうなるの?」
結月の声に、男の子は一瞬だけ目を伏せた。
「君の“はじまり”が見える。
それと同時に――戻れなくなるかもしれない」
「……それでも、開く」
自分の声なのに、驚くほどはっきりしていた。
結月が扉に触れた瞬間、
カチリと、鍵の外れる音がした。
扉の向こうに広がっていたのは――
学校でも、家でも、物語界でもない。
真っ白な部屋。
床も壁も天井も、すべて白。
でも、まったく空っぽじゃなかった。
部屋の中央に、小さな女の子が座っている。
「……あれ、私?」
その子は、幼い結月だった。
ランドセルを背負って、本を胸にぎゅっと抱いている。
男の子が静かに言った。
「ここは“原稿室”。
君が最初に物語を好きになった場所だ」
幼い結月が、本を開く。
すると、白い部屋に色が流れ込んだ。
雨の音。
ページをめくる指の感触。
登場人物に泣いて、笑って、眠れなくなった夜。
「……私、本の中にいるときだけ、
世界がちゃんと動いてる気がした」
幼い結月が、ぽつりと言う。
その言葉に、胸が締めつけられた。
「だからね」
幼い結月が顔を上げる。
「消されたくない」
その瞬間――
ドンッ
白い部屋の壁に、黒い亀裂が走った。
「来た……白紙だ!」
男の子が叫ぶ。
亀裂の向こうから、
名前のない声が響く。
《この物語は、不要だ》
《感情は、無駄だ》
幼い結月の体が、少しずつ透けていく。
「お願い……!」
結月が手を伸ばすと、
幼い自分も、同じように手を伸ばした。
二つの指が、触れ合った瞬間。
文字が、結月の体に流れ込んだ。
胸の奥が熱くなる。
男の子が、はっとした顔でつぶやく。
「……やっぱり」
「なに?」
彼は、結月をまっすぐ見た。
「君は“書き手(ライター)”だ。
物語に、続きを与えられる存在」
白紙が、悲鳴のような音を立てて後退する。
部屋に、色が戻った。
幼い結月は、にこっと笑って言った。
「大丈夫。
これからは――一人じゃない」
そして、ゆっくりと消えていった。
それはまるで、ずっと前からここに来ると決まっていたみたいで。
「開いたら……どうなるの?」
結月の声に、男の子は一瞬だけ目を伏せた。
「君の“はじまり”が見える。
それと同時に――戻れなくなるかもしれない」
「……それでも、開く」
自分の声なのに、驚くほどはっきりしていた。
結月が扉に触れた瞬間、
カチリと、鍵の外れる音がした。
扉の向こうに広がっていたのは――
学校でも、家でも、物語界でもない。
真っ白な部屋。
床も壁も天井も、すべて白。
でも、まったく空っぽじゃなかった。
部屋の中央に、小さな女の子が座っている。
「……あれ、私?」
その子は、幼い結月だった。
ランドセルを背負って、本を胸にぎゅっと抱いている。
男の子が静かに言った。
「ここは“原稿室”。
君が最初に物語を好きになった場所だ」
幼い結月が、本を開く。
すると、白い部屋に色が流れ込んだ。
雨の音。
ページをめくる指の感触。
登場人物に泣いて、笑って、眠れなくなった夜。
「……私、本の中にいるときだけ、
世界がちゃんと動いてる気がした」
幼い結月が、ぽつりと言う。
その言葉に、胸が締めつけられた。
「だからね」
幼い結月が顔を上げる。
「消されたくない」
その瞬間――
ドンッ
白い部屋の壁に、黒い亀裂が走った。
「来た……白紙だ!」
男の子が叫ぶ。
亀裂の向こうから、
名前のない声が響く。
《この物語は、不要だ》
《感情は、無駄だ》
幼い結月の体が、少しずつ透けていく。
「お願い……!」
結月が手を伸ばすと、
幼い自分も、同じように手を伸ばした。
二つの指が、触れ合った瞬間。
文字が、結月の体に流れ込んだ。
胸の奥が熱くなる。
男の子が、はっとした顔でつぶやく。
「……やっぱり」
「なに?」
彼は、結月をまっすぐ見た。
「君は“書き手(ライター)”だ。
物語に、続きを与えられる存在」
白紙が、悲鳴のような音を立てて後退する。
部屋に、色が戻った。
幼い結月は、にこっと笑って言った。
「大丈夫。
これからは――一人じゃない」
そして、ゆっくりと消えていった。