落ちているはずなのに、風は冷たくなかった。
結月の体は、ふわりと羽みたいに軽くなって、気づけば――
「……ここ、どこ?」
足の下には石畳。
見上げると、夜空いっぱいに文字が流れていた。
ひらがな、カタカナ、漢字、知らない形の文字まで。
それらが星のように輝き、空をゆっくり回っている。
「空が……本だ」
「正解」
後ろから声がした。
振り返ると、さっきの男の子が立っている。
「ここは《物語界(ストーリア)》
すべての本の“続き”が集まる場所だよ」
「続き……?」
結月がつぶやくと、近くの地面から一冊の本が生えてきた。
木の芽みたいに、にょきっと。
男の子はそれを拾い上げ、ぱらりと開く。
「物語は、読み終わった瞬間に終わるんじゃない。
“もし、あのとき違う選択をしていたら”
その続きを、ここが全部引き受ける」
結月の胸が、ざわっとした。
「じゃあ……ここには、終わったはずの物語が?」
「うん。
それに――まだ書かれていない物語もね」
その瞬間。
ズズズ……。
遠くで、地面がひび割れる音がした。
空の文字が、いっせいに揺れる。
「なに、今の……?」
男の子の表情が変わった。
さっきまでの軽い笑顔が消えている。
「……まずいな」
「え?」
「“白紙(はくし)”が近づいてる」
結月の手首を、男の子がぎゅっとつかむ。
「白紙?」
「物語を、消す存在だよ。
名前も、感情も、選択も――全部、まっさらにする」
ひび割れた地面の奥から、白い霧が流れ出してきた。
触れた本は、文字が消えて、ただの真っ白な紙になる。
「逃げるよ、結月」
「どこへ⁉」
男の子は、耳にかけていた金色のしおりを外した。
「君の物語が始まる場所へ」
しおりが光り、空に投げられる。
そこに、一つの扉が現れた。
――その扉には。
結月の名前が、はっきりと書かれていた。
結月の体は、ふわりと羽みたいに軽くなって、気づけば――
「……ここ、どこ?」
足の下には石畳。
見上げると、夜空いっぱいに文字が流れていた。
ひらがな、カタカナ、漢字、知らない形の文字まで。
それらが星のように輝き、空をゆっくり回っている。
「空が……本だ」
「正解」
後ろから声がした。
振り返ると、さっきの男の子が立っている。
「ここは《物語界(ストーリア)》
すべての本の“続き”が集まる場所だよ」
「続き……?」
結月がつぶやくと、近くの地面から一冊の本が生えてきた。
木の芽みたいに、にょきっと。
男の子はそれを拾い上げ、ぱらりと開く。
「物語は、読み終わった瞬間に終わるんじゃない。
“もし、あのとき違う選択をしていたら”
その続きを、ここが全部引き受ける」
結月の胸が、ざわっとした。
「じゃあ……ここには、終わったはずの物語が?」
「うん。
それに――まだ書かれていない物語もね」
その瞬間。
ズズズ……。
遠くで、地面がひび割れる音がした。
空の文字が、いっせいに揺れる。
「なに、今の……?」
男の子の表情が変わった。
さっきまでの軽い笑顔が消えている。
「……まずいな」
「え?」
「“白紙(はくし)”が近づいてる」
結月の手首を、男の子がぎゅっとつかむ。
「白紙?」
「物語を、消す存在だよ。
名前も、感情も、選択も――全部、まっさらにする」
ひび割れた地面の奥から、白い霧が流れ出してきた。
触れた本は、文字が消えて、ただの真っ白な紙になる。
「逃げるよ、結月」
「どこへ⁉」
男の子は、耳にかけていた金色のしおりを外した。
「君の物語が始まる場所へ」
しおりが光り、空に投げられる。
そこに、一つの扉が現れた。
――その扉には。
結月の名前が、はっきりと書かれていた。