オリバが私に覆い被さった瞬間、自分の反応が遅れたことを悟った。そして、自分が死の寸前に触れたことも。
ドロドロした重たく邪悪な空気と、闇から這い上がってきたようなの魔力の香りが全身を穿つ。
『来ないでぇ!!!!!!』
鳥肌が立って全身の力が抜ける。最後に残っていた喉元を震わせ拒否反応を形にしようとするが、恐怖で掠れた声すら出ることはなかった。
死ぬ。私の大切な人が、街が、世界が──死ぬ。
「うわあぁぁっ!!!!」
「暴れんな!!!!」
「離してぇ!アズが、みんなが死んじゃう!!!!!!」
オリバが暴れる私の体を抱えると、全力で押さえ込んでくる。普段だったら吹っ飛ばせる力なのに、筋肉が働かない。
どうしよう。どうしよう。死んじゃうよ、みんな死んじゃう。なんで反応が遅れたんだろう。なんで気づけなかったんだろう。
アズが死んじゃったら、あの少し大人びてきた顔も見られなくなる。
ミルシャの頼もしい顔も、ケイラのすました顔も、オリバの真剣な顔も、少し照れたアレンちゃんの顔も、呆れたように笑うガトスも、時折見られるキルンの優しい顔も。
相手が死んじゃったら、わからなくなる。自分が死んじゃっても、わからなくなる。
──どれくらいそうしていたかはわからない。
けれど、気がついたらその咆哮のような魔力の匂いは消え去っていて、崩壊した道場の中に取り残されていた。そして、すり傷だらけのオリバが私の肩を揺らしていた。
「目、冷めたか……、よかった…」
「……オリバ、大丈夫…?ごめん、すぐ起きる」
「あぁ、そうしたほうがいい」
いまいち状況が飲み込めない。さっきのことは夢だったんじゃないか、今も夢なんじゃないかと感じる。
でも傷だらけのオリバが痛そうなのも現実で、オリバと同じくらい私の体を刻んだ傷がじわっと痛むのも現実だ。
「凄まじい闇の魔力だ。一応バリアは張ったけどそれでもこれ」
「……バリアってどの範囲に張ったの…?」
「俺を中心にして半径1mくらいの範囲。狭いから最大出力でやった」
「オリバの防御で、これ…」
私は防御に向いていない性格だと師範に言われたことがある。人を守るために拳を振ることはできるけど、自分を大切にしないから防御ができない。その言葉の通り、私は防御力だけはこの100人ほどいる道場の中で下から31番目だった。大体ケイラと同じくらい、またはそれ以下の実力だ。
動揺すると感覚のほとんどが遮断されるのも、私の悪い癖だ。武闘家は冷静に状況を見れなきゃいけないのに、動揺が足を引っ張って動けなくなる。力が抜ける。
そして頭が活動を停止し、自分が今一番守りたいものをほとんど反射で求める。
「アズは?アズはどこ?どこ行ったの…?」
「お前の家って南側の三条通り……だったよな。魔力の発生源はあっちだから危険だ」
「わかってるけど、この道場も近所の家も風穴空いてるじゃん!これじゃ、北も南も一緒だよ」
「もう一回死にたいのかよ!」
「違う、生きるために行くの。アズには私しかいないんだよ……でも、私にもアズしかいないの」
『行かせて』と言わなくても彼には伝わったようで、オリバは深い青の目を細めて何か考えているようだった。
それを同意と取った私は崩壊してしまった道場の入り口を避け、風穴から外に出ようとする
「……俺もついていく。国外で仕事をしてる父さんはまだしも、母さんの様子を見にいかないと…」
彼はあえて思い出さないようにしていたであろう二人の存在を口に出した瞬間、止まっていた体の震えがやってきたことに気がついたようだ。それが治るようにオリバは自分の腕を掴むと、強く握りしめた。
「うん。一緒に行こう」
「まず、道が残ってるかどうかだな…まぁ道がなくてもなんとかなる──」
頭がぼんやりして全く冴えない。気がついたら今ここにいるオリバさえもいなくなってしまいそうで、微妙に震える声でテキパキと情報を整理する彼の手を掴んだ。
あったかい、人の温度だ。でもアズの手よりも大きくて、骨張っていて、震えている。
『大丈夫?』とか『怖くないよ』とか無責任はことは言えないけど、ただそこにオリバがいるということを感じたかった。それだけ。
「……行くか」
「うん、行こう」
彼は、私の手を慎重に、でも力強く握り直した。
ドロドロした重たく邪悪な空気と、闇から這い上がってきたようなの魔力の香りが全身を穿つ。
『来ないでぇ!!!!!!』
鳥肌が立って全身の力が抜ける。最後に残っていた喉元を震わせ拒否反応を形にしようとするが、恐怖で掠れた声すら出ることはなかった。
死ぬ。私の大切な人が、街が、世界が──死ぬ。
「うわあぁぁっ!!!!」
「暴れんな!!!!」
「離してぇ!アズが、みんなが死んじゃう!!!!!!」
オリバが暴れる私の体を抱えると、全力で押さえ込んでくる。普段だったら吹っ飛ばせる力なのに、筋肉が働かない。
どうしよう。どうしよう。死んじゃうよ、みんな死んじゃう。なんで反応が遅れたんだろう。なんで気づけなかったんだろう。
アズが死んじゃったら、あの少し大人びてきた顔も見られなくなる。
ミルシャの頼もしい顔も、ケイラのすました顔も、オリバの真剣な顔も、少し照れたアレンちゃんの顔も、呆れたように笑うガトスも、時折見られるキルンの優しい顔も。
相手が死んじゃったら、わからなくなる。自分が死んじゃっても、わからなくなる。
──どれくらいそうしていたかはわからない。
けれど、気がついたらその咆哮のような魔力の匂いは消え去っていて、崩壊した道場の中に取り残されていた。そして、すり傷だらけのオリバが私の肩を揺らしていた。
「目、冷めたか……、よかった…」
「……オリバ、大丈夫…?ごめん、すぐ起きる」
「あぁ、そうしたほうがいい」
いまいち状況が飲み込めない。さっきのことは夢だったんじゃないか、今も夢なんじゃないかと感じる。
でも傷だらけのオリバが痛そうなのも現実で、オリバと同じくらい私の体を刻んだ傷がじわっと痛むのも現実だ。
「凄まじい闇の魔力だ。一応バリアは張ったけどそれでもこれ」
「……バリアってどの範囲に張ったの…?」
「俺を中心にして半径1mくらいの範囲。狭いから最大出力でやった」
「オリバの防御で、これ…」
私は防御に向いていない性格だと師範に言われたことがある。人を守るために拳を振ることはできるけど、自分を大切にしないから防御ができない。その言葉の通り、私は防御力だけはこの100人ほどいる道場の中で下から31番目だった。大体ケイラと同じくらい、またはそれ以下の実力だ。
動揺すると感覚のほとんどが遮断されるのも、私の悪い癖だ。武闘家は冷静に状況を見れなきゃいけないのに、動揺が足を引っ張って動けなくなる。力が抜ける。
そして頭が活動を停止し、自分が今一番守りたいものをほとんど反射で求める。
「アズは?アズはどこ?どこ行ったの…?」
「お前の家って南側の三条通り……だったよな。魔力の発生源はあっちだから危険だ」
「わかってるけど、この道場も近所の家も風穴空いてるじゃん!これじゃ、北も南も一緒だよ」
「もう一回死にたいのかよ!」
「違う、生きるために行くの。アズには私しかいないんだよ……でも、私にもアズしかいないの」
『行かせて』と言わなくても彼には伝わったようで、オリバは深い青の目を細めて何か考えているようだった。
それを同意と取った私は崩壊してしまった道場の入り口を避け、風穴から外に出ようとする
「……俺もついていく。国外で仕事をしてる父さんはまだしも、母さんの様子を見にいかないと…」
彼はあえて思い出さないようにしていたであろう二人の存在を口に出した瞬間、止まっていた体の震えがやってきたことに気がついたようだ。それが治るようにオリバは自分の腕を掴むと、強く握りしめた。
「うん。一緒に行こう」
「まず、道が残ってるかどうかだな…まぁ道がなくてもなんとかなる──」
頭がぼんやりして全く冴えない。気がついたら今ここにいるオリバさえもいなくなってしまいそうで、微妙に震える声でテキパキと情報を整理する彼の手を掴んだ。
あったかい、人の温度だ。でもアズの手よりも大きくて、骨張っていて、震えている。
『大丈夫?』とか『怖くないよ』とか無責任はことは言えないけど、ただそこにオリバがいるということを感じたかった。それだけ。
「……行くか」
「うん、行こう」
彼は、私の手を慎重に、でも力強く握り直した。
- 1.第一章 姉妹
- 2.第一章 葬式
- 3.第一章 好みどストライク事件
- 4.第一章 武闘大会予選当日
- 5.第一章 武闘大会 本戦『決勝』
- 6.第一章 デート目撃
- 7.第一章 ガトスの好み問題
- 8.第一章 宮殿訪問
- 9.幕間 望まない気づき
- 10.番外編 ある少女の世界観賞
- 11.第二章 シャノンの色恋沙汰
- 12.第二章 ビタミンカラーの脅威
- 13.第二章 天性の人たらし
- 14.第二章 バレスト王国
- 15.第二章 ビンタ嬢と緊急停止
- 16.第二章 一期一会を超えた夕暮れ
- 17.第二章 薬売りのオリバ
- 18.第二章 防御専門家のアドバイス
- 19.幕間 才能の種類
- 20.番外編 恋バナ爆弾、投下。
- 21.第三章 死の気配
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