思春期
──違う。
突然浮かび上がってきたその言葉に、はっと息を呑んだ。
突拍子もなく出てきたはずのその思いは、ずっと心の奥に居座っていたようにそこに馴染んでいる。そのことがどうにも心地よいとは思えず、私は膝を抱え込んでいた両腕を水面の上へ出した。
妙な居心地の悪さを感じていた心に蓋をするように両手で自分の顔を覆う。浴槽内の湯が顔あたりを滑り落ちていく。
口と鼻を自分の両手と暖かい湯が塞いで行き、微妙な苦しさがうっすら喉元に滲む。
滲んだ苦しさは、心の奥で小さく悲鳴をあげた違和感の感覚にとてもよく似ていた。
何が違うのか、どうして急にそんなことを思ったのか。そんなことは何一つ言わずに、何者かが私の核心に触れ『違う』というむず痒い足跡を残していった。
息を吐いて目を瞑る。“見えない時”の色が私の視覚を包んでいく。
──何が違うの?
今度の言葉は違和感なく、水のようにするっと体の中に入ってきた。
何が違うのかはわからない。でも確実に『違う』。
先生の言葉、クラスメイトの言葉、親の言葉。一つ一つの言葉が乖離して、つながらない。
全ての言葉が、私の意思とは少しだけ違う。
でもどこが違うのかはわからなくて、もう一度ぼんやりとしたモヤが心の中に広がる。それは変な具合に重たく、まどろっこしく、抑えていないと暴れ出してしまいそうだった。
最近はこうなることが多い。何もないのにモヤモヤして、どうしようもないくらいイライラする。
そんな現象のことを、大概大人は“シシュンキ”という。私が、そういう年齢だから。
だから私は“シシュンキ”が嫌いだ。私の意思を殺し、心をずんと重たくする“シシュンキ”が、本当に嫌いだ。
“シシュンキ”が私を子供に縛り付け、大人を強要する。
大人でいたいわけじゃない。子供でいたいわけじゃない。
私は大嫌いな子供でいることから離れつつ、大嫌いな大人へも程遠い。
顔を覆っていた手をおろし、湯に戻す。水面が暖かく、やわらかく揺れた。
枠にはまりたくない。だが、水のように柔軟で、湯のように暖かい枠が欲しい。
いつの間にか心の奥にあった足跡は消えていて、今度はドス黒いモヤが襲ってくる。
モヤを全部解放してしまえたら、楽だろうな。
矛盾だらけの自分の心が、わからない。
やっぱり私は、水のようで沼のような“シシュンキ”から抜けられない。
突然浮かび上がってきたその言葉に、はっと息を呑んだ。
突拍子もなく出てきたはずのその思いは、ずっと心の奥に居座っていたようにそこに馴染んでいる。そのことがどうにも心地よいとは思えず、私は膝を抱え込んでいた両腕を水面の上へ出した。
妙な居心地の悪さを感じていた心に蓋をするように両手で自分の顔を覆う。浴槽内の湯が顔あたりを滑り落ちていく。
口と鼻を自分の両手と暖かい湯が塞いで行き、微妙な苦しさがうっすら喉元に滲む。
滲んだ苦しさは、心の奥で小さく悲鳴をあげた違和感の感覚にとてもよく似ていた。
何が違うのか、どうして急にそんなことを思ったのか。そんなことは何一つ言わずに、何者かが私の核心に触れ『違う』というむず痒い足跡を残していった。
息を吐いて目を瞑る。“見えない時”の色が私の視覚を包んでいく。
──何が違うの?
今度の言葉は違和感なく、水のようにするっと体の中に入ってきた。
何が違うのかはわからない。でも確実に『違う』。
先生の言葉、クラスメイトの言葉、親の言葉。一つ一つの言葉が乖離して、つながらない。
全ての言葉が、私の意思とは少しだけ違う。
でもどこが違うのかはわからなくて、もう一度ぼんやりとしたモヤが心の中に広がる。それは変な具合に重たく、まどろっこしく、抑えていないと暴れ出してしまいそうだった。
最近はこうなることが多い。何もないのにモヤモヤして、どうしようもないくらいイライラする。
そんな現象のことを、大概大人は“シシュンキ”という。私が、そういう年齢だから。
だから私は“シシュンキ”が嫌いだ。私の意思を殺し、心をずんと重たくする“シシュンキ”が、本当に嫌いだ。
“シシュンキ”が私を子供に縛り付け、大人を強要する。
大人でいたいわけじゃない。子供でいたいわけじゃない。
私は大嫌いな子供でいることから離れつつ、大嫌いな大人へも程遠い。
顔を覆っていた手をおろし、湯に戻す。水面が暖かく、やわらかく揺れた。
枠にはまりたくない。だが、水のように柔軟で、湯のように暖かい枠が欲しい。
いつの間にか心の奥にあった足跡は消えていて、今度はドス黒いモヤが襲ってくる。
モヤを全部解放してしまえたら、楽だろうな。
矛盾だらけの自分の心が、わからない。
やっぱり私は、水のようで沼のような“シシュンキ”から抜けられない。
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