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54342様の『闇に堕ちる勇者』のネタバレを含みます。
──ホント、変な病気。
口からこぼれ出た独り言が本だらけの静かなこの場所に響く。少し恥ずかしくなりながら、頭に被っていたキャップを深く被り直した。
平日の昼下がり、私──[漢字]辻堂 葉音[/漢字][ふりがな]ツジドウ ハノン[/ふりがな]は図書館で本を読んでいた。最寄駅から電車で二駅、電車賃が勿体無いので他に予定がある時くらいしかここを訪れることはない。
だが、家の近くにある図書館と比べてここは大きく、ジャンルも私好みのものが多いのでとても気に入っている。
今日は私が通っている女子校の創立記念日と夕方の予定のタイミングがあったため、待ち時間を読書に充てることにした。
大きな本棚には『病気』とジャンルが書かれていて、そこには一般向けから専門書まで豊富な本がずらっと並んでいる。大量の本の中で、私はずっと同じような場所の本を引き抜いては読んでいた。
『ファンタジスタ症候群って?』『十万人のファンタジー』『色違いの髪の色』『不治の病ファンタジスタ』……どの本を見ても同じような題名ばかりだ。
そこから一冊手に取ると、できるだけ気軽にページを開いた。
『ファンタジスタ症候群とは、2000年以降に生まれた子供に見られる生まれつきの病で、世界中で十万人ほど確認されている。独特な髪や目の色をもち染色体異常の一つと考えられているが詳細はよくわかっていない。整った容姿の患者が多く、弱視、生殖機能への異常、不眠症、意思に反する笑みなど多くの合併症を持つ場合が多い。髪や目が変わった色をしている場合は幼少期の時点でファンタジスタ症候群と診断されるが、地味だった場合気が付かれにくくそのまま寿命が短くなっていく。幼少期から治療ができた場合は平均寿命程度まで生きることができるが、思春期以降に発見された場合は早くて三十代頃寿命を迎え──』
そこまでは頑張って読んだがうんざりしてしまい本を閉じる。いや、堅苦しすぎじゃない?もうちょっと簡単に書けないわけ?
「はぁ……」
ふと、図書館の柱が目に入る。柱は鏡のようになっていて、キャップを被った私と近くを通る女性の姿が映っている。女性が立ち去ったあと、ポツポツとやってくる人々の髪の色は黒、または染めたような茶色だ。
キャップからはみ出たグレーの髪、色素が薄い大きな煙色の瞳、スッと通った鼻に形のいい唇。ちっとも楽しくないのに笑い出しそうな口元や、一日三時間も寝られないのに健康的な顔色を保ったままの顔、16歳になって生理も来なければ子供を産むこともできない形だけの女体。
一年前、生理がこないことを心配して行った産婦人科からたらい回しに病院を回され、ファンタジスタ症候群と診断された時のままだ。
「……あ、時間だ」
今日は同じファンタジスタ症候群を持つ人との集まりみたいなものがあって、何か変化がないかしゃべることになっている。彼らのほとんどが幼少期にファンタジスタ症候群と診断されているため、私とはだいぶ勝手が違う。喋っても意味ないんじゃないかとかちょっと思ってる。
図書館の自動ドアに近づくと、ガタガタと少々古めの音を立てて開く。そのあとは近くの川沿いをひたすら歩いて行った。
私は、きっと四十代後半くらいで死ぬと思う。子供も産めない。ファンタジスタ症候群と診断されてから何個も薬を飲んでるけど、発見が遅れちゃったから仕方ないよね。まぁ、生理がないからいいんだけど……
お母さんは泣いていた。お父さんも悔しそうに口を歪めていた。妹はその浮世離れした現実にそっと触れたっきり、そのことに何を口を出してこない。
なぜ父と母が泣いているのかどうか、わからなかった。妹のいつも通りが、私にはありがたかった。
正直言って、実感がない。もう一年経ったというのに、自分が“病気”であるという実感がないのだ。効いているのかもわからない薬を飲み続け、味があるかどうかもわからない集会に参加して。
まぁ、難しいこと考えるのはやめるか。私そんな頭よくないですし。
どうせなら楽しいこと考えよ。今日の夕ご飯何かなー?
ふと、橋の下にある湿っぽいダンボールと目があった。明らかに捨ててある。
いつもだったらそのままスルーしていたが、今日の私はちょっと真剣なこと考えてたから勘が鋭くなっている……はず。
「お宝!せいやぁ!!!!」
河川敷を滑り降りると、そのダンボールの元へダッシュする。
何が入ってるかな……
胸を期待に躍らせながら、ダンボールに張り付いた廃れたガムテープを剥がした。
口からこぼれ出た独り言が本だらけの静かなこの場所に響く。少し恥ずかしくなりながら、頭に被っていたキャップを深く被り直した。
平日の昼下がり、私──[漢字]辻堂 葉音[/漢字][ふりがな]ツジドウ ハノン[/ふりがな]は図書館で本を読んでいた。最寄駅から電車で二駅、電車賃が勿体無いので他に予定がある時くらいしかここを訪れることはない。
だが、家の近くにある図書館と比べてここは大きく、ジャンルも私好みのものが多いのでとても気に入っている。
今日は私が通っている女子校の創立記念日と夕方の予定のタイミングがあったため、待ち時間を読書に充てることにした。
大きな本棚には『病気』とジャンルが書かれていて、そこには一般向けから専門書まで豊富な本がずらっと並んでいる。大量の本の中で、私はずっと同じような場所の本を引き抜いては読んでいた。
『ファンタジスタ症候群って?』『十万人のファンタジー』『色違いの髪の色』『不治の病ファンタジスタ』……どの本を見ても同じような題名ばかりだ。
そこから一冊手に取ると、できるだけ気軽にページを開いた。
『ファンタジスタ症候群とは、2000年以降に生まれた子供に見られる生まれつきの病で、世界中で十万人ほど確認されている。独特な髪や目の色をもち染色体異常の一つと考えられているが詳細はよくわかっていない。整った容姿の患者が多く、弱視、生殖機能への異常、不眠症、意思に反する笑みなど多くの合併症を持つ場合が多い。髪や目が変わった色をしている場合は幼少期の時点でファンタジスタ症候群と診断されるが、地味だった場合気が付かれにくくそのまま寿命が短くなっていく。幼少期から治療ができた場合は平均寿命程度まで生きることができるが、思春期以降に発見された場合は早くて三十代頃寿命を迎え──』
そこまでは頑張って読んだがうんざりしてしまい本を閉じる。いや、堅苦しすぎじゃない?もうちょっと簡単に書けないわけ?
「はぁ……」
ふと、図書館の柱が目に入る。柱は鏡のようになっていて、キャップを被った私と近くを通る女性の姿が映っている。女性が立ち去ったあと、ポツポツとやってくる人々の髪の色は黒、または染めたような茶色だ。
キャップからはみ出たグレーの髪、色素が薄い大きな煙色の瞳、スッと通った鼻に形のいい唇。ちっとも楽しくないのに笑い出しそうな口元や、一日三時間も寝られないのに健康的な顔色を保ったままの顔、16歳になって生理も来なければ子供を産むこともできない形だけの女体。
一年前、生理がこないことを心配して行った産婦人科からたらい回しに病院を回され、ファンタジスタ症候群と診断された時のままだ。
「……あ、時間だ」
今日は同じファンタジスタ症候群を持つ人との集まりみたいなものがあって、何か変化がないかしゃべることになっている。彼らのほとんどが幼少期にファンタジスタ症候群と診断されているため、私とはだいぶ勝手が違う。喋っても意味ないんじゃないかとかちょっと思ってる。
図書館の自動ドアに近づくと、ガタガタと少々古めの音を立てて開く。そのあとは近くの川沿いをひたすら歩いて行った。
私は、きっと四十代後半くらいで死ぬと思う。子供も産めない。ファンタジスタ症候群と診断されてから何個も薬を飲んでるけど、発見が遅れちゃったから仕方ないよね。まぁ、生理がないからいいんだけど……
お母さんは泣いていた。お父さんも悔しそうに口を歪めていた。妹はその浮世離れした現実にそっと触れたっきり、そのことに何を口を出してこない。
なぜ父と母が泣いているのかどうか、わからなかった。妹のいつも通りが、私にはありがたかった。
正直言って、実感がない。もう一年経ったというのに、自分が“病気”であるという実感がないのだ。効いているのかもわからない薬を飲み続け、味があるかどうかもわからない集会に参加して。
まぁ、難しいこと考えるのはやめるか。私そんな頭よくないですし。
どうせなら楽しいこと考えよ。今日の夕ご飯何かなー?
ふと、橋の下にある湿っぽいダンボールと目があった。明らかに捨ててある。
いつもだったらそのままスルーしていたが、今日の私はちょっと真剣なこと考えてたから勘が鋭くなっている……はず。
「お宝!せいやぁ!!!!」
河川敷を滑り降りると、そのダンボールの元へダッシュする。
何が入ってるかな……
胸を期待に躍らせながら、ダンボールに張り付いた廃れたガムテープを剥がした。
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