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⚠︎注意
ショッキングな内容や暴力表現を含む話があります。
──────
こちらは私の雨連れシリーズのまとめ+特別編が収録されています。
最初の2話は見たことがある人もいるかもしれません。
僕には、お父さんがいない。
5年前、お父さんは突然家を出ていった。
『お父さん!どこ行くの?』
『…出張だよ、すぐ戻ってくるから。』
そう言って、お父さんは今まで帰ってきていない。
お母さんにお父さんのことを聞くと、お父さんは酷い人だ、とそれだけ言われた。
お父さんの話題を出すと、お母さんの顔から笑顔が消える。
それを見て、もうお父さんは一生帰ってこないのだろう、ということを察してしまった。
その日以来、お父さんの話題を出すことはやめた。
「[漢字]宙[/漢字][ふりがな]そら[/ふりがな]、ぼーっとしてどうしたの?」
「ん〜、なんでもない。」
今日はお母さんとショッピングモールに来ている。
もうすぐ僕も4年生だ。
ワンサイズ上の上靴を見ると、心臓が高鳴る。
毎回上靴を新しいものに変えた時はシンデレラの気分なのだ。
家に宅配便が来た時も、自分のものではないとわかっているはずなのにドキドキしてしまう。
たとえその中身が、大量の算数ドリルだったとしても。
ふと顔を上げると、本屋が目に入った。
好きなものを詰め込んだようなキラキラした本屋に惹かれ、お母さんにおねだりする。
「お母さん、本買って!!」
「はいはい、一冊だけね。」
「よっしゃ!」
そう言って喜んだ瞬間、大人の男の人が向こうから走ってきた。
その人の手に握られていた光が、包丁だとわかるまで数秒かかった。
『死ねぇぇぇぇ!!!!!』
包丁を振り回し、狂気を感じる目線でこちらを睨む。
その様子に、体が金縛りにあったようになった。
お母さんが僕を抱えて、近づいてくるその人から逃げ出そうとする。
その瞬間、お母さんの動きが止まった。
膝から崩れ落ち、地面に脱力して突っ伏した。
先ほどの男の人は警備の人に取り押さえられている。
お母さんの背中からは、彼が握っていた包丁の黒い持ち手が飛び出していた。
苦しそうに血を吐くお母さんを見て、僕は夢でも見ているのかと思った。
周りの人が救急車を呼んでくれたようで、すぐに救急隊員がやってきた。
「君も乗りなさい」
そう言われたが、動くことができなかった。
視界が、モノクロに染まっていく。
その後すぐに僕は気を失い、目が覚めると病室の中だった。
[水平線]
僕は退院と同時に児童養護施設という場所に送られた。
その場所には、子供が10人いた。
そこの家族の一員として過ごしても、僕の視界はモノクロだった。
時々具合が悪くなり、嘔吐することもよくあった。
そのまま半年。
僕の保護者になりたいという人がやってきた。
その人は、[漢字]涼野瑛太[/漢字][ふりがな]すずのえいた[/ふりがな]という背の高い若い男の人と、[漢字]涼野杏奈[/漢字][ふりがな]すずのあんな[/ふりがな]という童顔の若い女の人だった。
とんとん拍子に話が進み、僕はその人たちの養子になった。
僕は、[漢字]大里宙[/漢字][ふりがな]おおさとそら[/ふりがな]ではなく、[漢字]涼野宙[/漢字][ふりがな]すずのそら[/ふりがな]という名前になったのだ。
新しいお父さんとお母さんは、僕にこう言った。
「無理にお父さんなんて呼ばなくていいから、友達みたいに呼んでもらって構わないよ。」
「杏奈ちゃん、とかでもいいからね!」
その言葉が、少しだけ嬉しかった。
瑛太さんは在宅ワークが主な仕事で、杏奈さんは服屋で働いているらしい。
──瑛太さんは、変わった副業をしている。
そのことを教えてもらったのは、5年生の春の日だった。
「よし、宙くん、ちゃんと見とけよ〜!」
そう言って、彼は指を弾いた。
その瞬間、瑛太さんは空へ舞い上がり、雲の上を駆けていった。
雨を告げるように風が吹き、僕の黒い上着のフードが頭に被さる。
お日様を追いかけて、ものすごいスピードで雲が広がっていく。
その上に知っている人間が乗っていると考えると、不思議な気持ちだった。
広がりきっていない雲の隙間から放射状に光が溢れる。
放射状の光は、一瞬僕を照らした。
まるで、ステージの主役に当てられるスポットライトのように。
そして、カーテンコールを告げるように光は見えなくなり、空は煙のような色に包まれる。
僕は渡されていた傘を地面に落とし、濡れるのも構わずそれを見つめていた。
雲を走る瑛太さんは、同い年くらいの男の子に見えた。
それくらいひたむきに、邪念なんか全く無い状態で空と向き合っている。
「おぉい、風邪引くぞ。」
いつの間にか後ろにいた瑛太さんは、傘をささない僕の顔を見て驚いた顔をした。
僕は、泣いていた。
「ど、どうした!?大丈夫!?なんか辛いことあった!?」
心配そうに聞いてくる瑛太さんを見て、笑みが溢れる。
その様子を見て、彼は怪訝そうに顔を顰める。
「僕は、瑛太さん──お父さんのようになりたい。」
不意に口から溢れた言葉になぜか恥ずかしくなる。
2年前は本心を親に伝えることに羞恥心はなかった。
僕は、どれほどこの景色を待ち望んでいたんだろうか。
「そうか…」
父はそういって、雨が降る家路に傘をさしながら帰った。
後で知ったが、父の仕事は『[漢字]雨連れ[/漢字][ふりがな]あまづれ[/ふりがな]』という雨を連れる仕事らしい。
先祖代々伝わる特別な職業で、生きる希望を無くしている人の前にだけ現れる存在。
今日は、僕が雨連れとしての初仕事を任された。
依頼主はある女子高生の心の声だ。
あの日着ていた黒い上着に身を包み、裸足のまま外に出る。
パチンと指を弾くと、一瞬茜色の街が見えた。
そして浮き上がった空の上では、太陽が沈もうとしていた。
これから降るのは、貴方が主役の夕立だ。
自然にカーテンコールを迎えるまで、どうかそのまま───。
〜雨と光の[打消し][漢字]カーテンコール[/漢字][ふりがな]アンコール[/ふりがな][/打消し]〜
5年前、お父さんは突然家を出ていった。
『お父さん!どこ行くの?』
『…出張だよ、すぐ戻ってくるから。』
そう言って、お父さんは今まで帰ってきていない。
お母さんにお父さんのことを聞くと、お父さんは酷い人だ、とそれだけ言われた。
お父さんの話題を出すと、お母さんの顔から笑顔が消える。
それを見て、もうお父さんは一生帰ってこないのだろう、ということを察してしまった。
その日以来、お父さんの話題を出すことはやめた。
「[漢字]宙[/漢字][ふりがな]そら[/ふりがな]、ぼーっとしてどうしたの?」
「ん〜、なんでもない。」
今日はお母さんとショッピングモールに来ている。
もうすぐ僕も4年生だ。
ワンサイズ上の上靴を見ると、心臓が高鳴る。
毎回上靴を新しいものに変えた時はシンデレラの気分なのだ。
家に宅配便が来た時も、自分のものではないとわかっているはずなのにドキドキしてしまう。
たとえその中身が、大量の算数ドリルだったとしても。
ふと顔を上げると、本屋が目に入った。
好きなものを詰め込んだようなキラキラした本屋に惹かれ、お母さんにおねだりする。
「お母さん、本買って!!」
「はいはい、一冊だけね。」
「よっしゃ!」
そう言って喜んだ瞬間、大人の男の人が向こうから走ってきた。
その人の手に握られていた光が、包丁だとわかるまで数秒かかった。
『死ねぇぇぇぇ!!!!!』
包丁を振り回し、狂気を感じる目線でこちらを睨む。
その様子に、体が金縛りにあったようになった。
お母さんが僕を抱えて、近づいてくるその人から逃げ出そうとする。
その瞬間、お母さんの動きが止まった。
膝から崩れ落ち、地面に脱力して突っ伏した。
先ほどの男の人は警備の人に取り押さえられている。
お母さんの背中からは、彼が握っていた包丁の黒い持ち手が飛び出していた。
苦しそうに血を吐くお母さんを見て、僕は夢でも見ているのかと思った。
周りの人が救急車を呼んでくれたようで、すぐに救急隊員がやってきた。
「君も乗りなさい」
そう言われたが、動くことができなかった。
視界が、モノクロに染まっていく。
その後すぐに僕は気を失い、目が覚めると病室の中だった。
[水平線]
僕は退院と同時に児童養護施設という場所に送られた。
その場所には、子供が10人いた。
そこの家族の一員として過ごしても、僕の視界はモノクロだった。
時々具合が悪くなり、嘔吐することもよくあった。
そのまま半年。
僕の保護者になりたいという人がやってきた。
その人は、[漢字]涼野瑛太[/漢字][ふりがな]すずのえいた[/ふりがな]という背の高い若い男の人と、[漢字]涼野杏奈[/漢字][ふりがな]すずのあんな[/ふりがな]という童顔の若い女の人だった。
とんとん拍子に話が進み、僕はその人たちの養子になった。
僕は、[漢字]大里宙[/漢字][ふりがな]おおさとそら[/ふりがな]ではなく、[漢字]涼野宙[/漢字][ふりがな]すずのそら[/ふりがな]という名前になったのだ。
新しいお父さんとお母さんは、僕にこう言った。
「無理にお父さんなんて呼ばなくていいから、友達みたいに呼んでもらって構わないよ。」
「杏奈ちゃん、とかでもいいからね!」
その言葉が、少しだけ嬉しかった。
瑛太さんは在宅ワークが主な仕事で、杏奈さんは服屋で働いているらしい。
──瑛太さんは、変わった副業をしている。
そのことを教えてもらったのは、5年生の春の日だった。
「よし、宙くん、ちゃんと見とけよ〜!」
そう言って、彼は指を弾いた。
その瞬間、瑛太さんは空へ舞い上がり、雲の上を駆けていった。
雨を告げるように風が吹き、僕の黒い上着のフードが頭に被さる。
お日様を追いかけて、ものすごいスピードで雲が広がっていく。
その上に知っている人間が乗っていると考えると、不思議な気持ちだった。
広がりきっていない雲の隙間から放射状に光が溢れる。
放射状の光は、一瞬僕を照らした。
まるで、ステージの主役に当てられるスポットライトのように。
そして、カーテンコールを告げるように光は見えなくなり、空は煙のような色に包まれる。
僕は渡されていた傘を地面に落とし、濡れるのも構わずそれを見つめていた。
雲を走る瑛太さんは、同い年くらいの男の子に見えた。
それくらいひたむきに、邪念なんか全く無い状態で空と向き合っている。
「おぉい、風邪引くぞ。」
いつの間にか後ろにいた瑛太さんは、傘をささない僕の顔を見て驚いた顔をした。
僕は、泣いていた。
「ど、どうした!?大丈夫!?なんか辛いことあった!?」
心配そうに聞いてくる瑛太さんを見て、笑みが溢れる。
その様子を見て、彼は怪訝そうに顔を顰める。
「僕は、瑛太さん──お父さんのようになりたい。」
不意に口から溢れた言葉になぜか恥ずかしくなる。
2年前は本心を親に伝えることに羞恥心はなかった。
僕は、どれほどこの景色を待ち望んでいたんだろうか。
「そうか…」
父はそういって、雨が降る家路に傘をさしながら帰った。
後で知ったが、父の仕事は『[漢字]雨連れ[/漢字][ふりがな]あまづれ[/ふりがな]』という雨を連れる仕事らしい。
先祖代々伝わる特別な職業で、生きる希望を無くしている人の前にだけ現れる存在。
今日は、僕が雨連れとしての初仕事を任された。
依頼主はある女子高生の心の声だ。
あの日着ていた黒い上着に身を包み、裸足のまま外に出る。
パチンと指を弾くと、一瞬茜色の街が見えた。
そして浮き上がった空の上では、太陽が沈もうとしていた。
これから降るのは、貴方が主役の夕立だ。
自然にカーテンコールを迎えるまで、どうかそのまま───。
〜雨と光の[打消し][漢字]カーテンコール[/漢字][ふりがな]アンコール[/ふりがな][/打消し]〜