「♪〜♬〜〜…」
商店街から少し外れた路地裏に、落ち着きと刺々しさを併せ持ったような鼻歌が響く。
鼻歌の主は落ち着いた赤色の髪と黒曜石のような瞳を持っていて、整ったクールな表情に少しだけ嬉しさが滲み出ている。
「ふふ、これが大安売りなんて勿体無い。インクルたちと別行動にしてよかったわ。」
彼女が大切そうに持っているのは太陽の光をいっぱいに吸い込んだような色をしたゼラニウムだ。
屋根と屋根の隙間から覗く青空に薄い花びらを透かすと、太陽の光が視界に入ってくる。
宝石のように輝く宝物を掲げ、満足そうに頷いた。
そして、家路に着こうとしたその瞬間。
「おい、そこの女。名前はなんだ。」
えらく傲慢な声が聞こえ、彼女は振り向く。
彼女の後ろにいたのは、金髪の男子だった。それもかなり偉そうな。
「何の用かしら。」
「質問に答えろ。名前はなんだ。」
新手のナンパか、などと思いながら黒曜石のような瞳で彼を見据えると、質問に答える。
「エンラよ。あなたこそ、いきなり何?」
「ふん、エンラか。まぁいい。俺様はラダクだ。覚えておくといい。」
ふんぞり返って自己紹介をするラダクをエンラは冷たい目で見つめ、あっそ、とゼラニウムを抱えてまっすぐ進む。
ラダク「【[漢字]聖なる光[/漢字][ふりがな]ホーリースラッシュ[/ふりがな]】」
パチン、と弾かれたようにエンラが立ち止まる。
いや、正確には止められている、と言った方が正しいかもしれない。
エンラ「…何をしたの。」
ラダク「ふん、体を硬直させたのだ。オマエは美人だから俺様が貰ってやる。」
エンラ「何、新手のナンパ?悪いけど、あなたみたいな人タイプじゃないの。離してくれる?」
顔色一つ変えず冷静なままのエンラに腹を立てたのか、ラダクは杖の先に魔力を込め始める。
性格とは対照的な、光の魔力だ。
[水平線]
ラダク「気に入らん。少しばかり躾をしないとな。」
エンラ「……まずいわね…」
衝撃を緩和するために、動かない状態の体に力を込める。
杖さえ使えれば。
そんなことを思うが、杖は拘束された状態から動かすことができない。
ラダク「顔には傷をつけないでやるよ。」
そう言って放たれた閃光のような一撃に、ぎゅっと目を瞑る。
「【ファランド】!!!!!!」
ぶぉぉ、と目の前に熱気が広がる。
たまらず目を開けると、そこには炎があった。
火は大嫌いだ。だが助かった。
ぐるぐると回転する炎が、ラダクの攻撃を防いでいる。
エンラ「っ…!?」
火には、悪い思い出しかない。
自分を襲い、何より大好きな植物園をも奪った因縁の相手。
「大丈夫、か?」
炎のように爛々と輝くその目は、私に対する杞憂とラダクに対する怒りに満ちていた。
それを見て、こう思った。
火とは、こんなに優しいものだったのか。