夜雨が仕事を終えると、もう夕暮れが近づいている。
結局火影に謝罪をすることはなかった。
提灯と木製の階段が複雑に絡み合う[漢字]糸桜通[/漢字][ふりがな]イトザクラドオリ[/ふりがな]に夜雨は住んでいる。
この辺に桜はあまりないが、それでも街の方から流れてくる桃色だけで十分だ。
櫻井国では、なぜか一年中桜の花が咲いている。
夜雨にとっては当たり前の景色だが、他の国では桜は春に咲くものだそう。
桜の咲いていない環境を、夜雨は見てみたかった。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
夜雨「ただいま戻りました。」
「夜雨![漢字]帯櫻神社[/漢字][ふりがな]タイオウジンジャ[/ふりがな]行くよ!!!!」
帰ってきて早々、先ほど火影と会った神社に行こうと言われる。
気まずいから行きたくないが、反論は許されない。
夜雨「え、なんかあるの?」
「[漢字]命の灯火[/漢字][ふりがな]イノチノトモシビ[/ふりがな]が光ったのよ!!!国内の子供全員あそこに集めるって!!!!」
命の灯火とは、帯櫻神社の内側にある大きな灯籠のことだ。
この土地にはこんな言い伝えがある。
命の灯火が輝く時、神に選ばれし少年少女らの力が目覚める、というものだ。
作り話だと思っていた分倍驚いて、気まずさも忘れて神社へ向かった。
そこには人がたくさんいて、大人は門前払いされていた。
母と別れて境内を進む。
本殿の方に、暗い紅色の髪が見えた。
人ごみをかき分けてそちらに向かおうとするが、150cm前半だと無理がある。
気が付かず押し戻され、もみくちゃにされてしまった。
流石に限界だ。
救いを求めて手を伸ばすと、誰かが私の手を掴んだ。
ただ、その細い華奢な手にとてつもない憎悪を抱いた。
あぁ、あいつだ。
人ごみを抜けると、彼女の顔が明らかになった。
目が覚めるような純白髪、桜色の大きな瞳。整った顔。
そして──
「夜雨っ!大丈夫!?」
鈴を転がすような、明るく可愛らしい声。
頭に染み付いているこの声を、久しぶりに生で聴いた。
その瞬間、腹の底から黒いものが溢れてくる。
それを堪え、彼女に向かって引き攣った笑みを浮かべた。
夜雨「ありがとう、[漢字]飛花[/漢字][ふりがな]トビカ[/ふりがな]。」
私の口からこの名前が出ていることに、吐き気がした。