退屈な授業が終わり、帰宅時間になった。
今日は不運にも一斉下校の日だ。
中等部も高等部も、部活に入っている生徒も早く帰る日。
心なしか生徒の顔が明るい気がする。
下校していく生徒たちの顔を白とするなら、私の気持ちはグレーだ。
退屈な授業を聞かなくてもいいと言う利点はある。
このような気持ちになっているのも、アイツのせいなのだ。
早急に帰って仲間に顔を出そう、と思った瞬間に背後に気配を感じる。
「楓ちゃん、偶然だね、こんなところで!」
彼は[漢字]佐川 紬[/漢字][ふりがな]さがわ つむぎ[/ふりがな]。4歳年上だが、なぜか私のことを好いている。
ふと、彼の茶色っぽい髪の毛が、私と同じ黒に染まっていることに気がついた。
「…髪の毛の色変えましたか?」
「あ〜、うん!もしかして俺のこと好き?」
「な訳ないです。」
こいつの前でだけは素だ。
嫌われたいから。早く離れてほしいから。
なのに素を見せるとさらにくっついてくるのは本当にやめてほしい。
かといって愛想良くするとすぐこれだ。
頭から硫酸でも被ったらこいつは離れるんだろうか。
いや、それはない。
私は何回も断り続けているのに告白してきて、告白回数は四桁をゆうに超えている。
もはや狂気だ。
私には誰かに好かれる権利もないし、人を好いていい権利なんかない。
私は、人の道から外れてしまった『悪』なのだから。
「楓ちゃん!この後デートでも───」
「お断りします。それでは。」
これ以上こいつに時間を使っている場合ではない。
私の魔力には魔物が近づいてくる。
近づいてくる魔物は一瞬で倒せる自信はある。
だが、近くに[漢字]普通の人間[/漢字][ふりがな]紬[/ふりがな]がいる状態で、変身はできない。
変身ができない私はそこらじゅうの人間とさほど変わらない。
「え〜、なんで?理由は?」
「…用事があるんです。」
「は?」
紬の声のトーンが二段階くらい下がる。
「用事?なんの用事?俺に言えない用事ってこと?まさか他の男と出かける用事とか…」
彼の目に常にあった光が消え、まるで生気の無い目でこちらを見つめてくる。
私よりかなり上背のある相手なので、見下ろしてくると言った方が正しいだろう。
「出かけません。今日は少し疲れているので、家で休みます。それでは。」
それに屈するほど私はヤワじゃない。
なんせ二回死にかけているのだ。
「あ、そうなんだ。ごめんね。無理に誘っちゃって、家まで送ろうか?」
声の調子が元に戻ったかと思うと、またいつもの笑顔に戻った。
「いえ、平気です。早く帰って休みたいので失礼します。」
「お大事にね。」
素直に見送られたと同時に、家路につく。
なぜ、彼はこんなに裏表の激しい奴を好きになったのだろうか。
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