[太字][大文字]1. カイロへの急行列車[/大文字][/太字]
エジプトの広大な砂漠を突き進む急行列車。客室の窓から見える景色は、単調な砂の色から、次第にナイル川沿いの緑へと変わりつつあった。
空条承太郎は、座席に深く腰掛け、読書を装いながらも周囲の気配を殺していた。彼の向かいでは、佐藤匠人がいつものようにヘッドホンを耳に当て、瞳を閉じている。だが、承太郎はその「違和感」を見逃さなかった。
「……匠人。お前、昨日の戦闘から何も食ってねえな」
匠人は目を開けず、短く答えた。
「……腹が減らないんだ。それだけじゃない。心臓の鼓動が、昨日から一度も『速く』ならない」
匠人が自分の手首を承太郎に差し出す。承太郎がその脈を測ると、一分間に正確に60回。激戦の後も、深い眠りの後も、一分一秒の狂いもなく、機械のように一定の律動を刻み続けていた。
「……やれやれだぜ。お前のスタンドの代償、どうやらタダの疲労じゃあ済まねえようだな」
匠人のスタンド『ゼロ・ディレイ』は、時を止め、因果を書き換える。その能力を限界を超えて行使した結果、匠人の肉体そのものが「時間の概念」から切り離され始めていた。細胞の老化が止まり、新陳代謝が固定される。それは一見、究極の進化に見えるが、生物としては「死」という出口さえ失った、永遠の牢獄への入り口でもあった。
「不老……か。笑えない冗談だぜ。俺は、人間として死ぬことさえ『予約』できなくなったらしい」
[太字][大文字]2. 死の予言書:オインゴとボインゴ[/大文字][/太字]
その時、隣の車両から奇妙な二人組が紛れ込んできた。DIOの刺客、オインゴとボインゴの兄弟だ。弟のボインゴが持つスタンド『トト神』の漫画には、100%的中する「未来の予言」が描かれている。
漫画のページがめくれる。そこには、衝撃的なシーンが描かれていた。
『佐藤匠人が、列車の爆発に巻き込まれ、粉々になって死ぬ』。
「ヒヒヒ……! 出たぞ、兄ちゃん! この予言は絶対だ。あの生意気なガキは、次の駅に着く前に肉の塊になるんだ!」
変装したオインゴが、起爆装置を手に忍び寄る。
承太郎の鋭い直感が、車両の床下に仕掛けられた爆弾の微かな音を捉えた。
「匠人! 伏せろ、爆弾だッ!」
ドォォォォォォン!!
凄まじい爆炎が客車を包み込んだ。火柱が上がり、鉄の塊である列車が無残にひしゃげる。予言通り、匠人が座っていた場所は爆心の中心となり、炎に飲み込まれた。
「やった……! やったぞ! 予言は的中だ!」
オインゴが歓喜の声を上げる。だが、煙の中から聞こえてきたのは、絶望的なまでに冷静な「足音」だった。
[太字][大文字]3. ゼロ・ディレイ:確定した未来の「上書き」[/大文字][/太字]
「……予言? そんなもの、俺の『ゼロ』の前ではただの落書きだ」
煙を割り、佐藤匠人が姿を現した。
彼の制服は焼け焦げ、爆風を真正面から受けたはずだった。しかし、彼の肌にはかすり傷一つない。それどころか、流れた血さえもが、空中で静止し、まるでビデオを巻き戻すように傷口へと戻っていく。
「な……!? なぜだ! 予言は絶対のはずだ! お前は死んだはずだぞ!」
ボインゴが漫画を握りしめて震える。
「……確かに、俺は死んだ。一瞬だけな」
匠人の背後に、かつてないほどの威圧感を持って『ゼロ・ディレイ』が顕現した。その全身からは、周囲の物質を強制的に静止させる「零の波動」が溢れ出している。
「能力1――『ザ・ワールド』」
世界がモノクロームに反転する。
飛び散る火花、逃げ惑う乗客の叫び、そしてボインゴの手にある予言の漫画。全てが匠人の支配下に入った。
「能力2――『ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)』」
匠人は、止まった時間の中でボインゴに歩み寄り、その漫画のページを指先でなぞった。
「予約(プレ・オーダー):因果の逆転(フェイト・オーバーライト)」
匠人は「自分が死ぬ」という確定した未来の因果を、「無傷で生き残る」という結果に書き換えた。しかし、その瞬間、匠人の肉体に激痛が走る。
『不老』の呪いが、さらに深く、彼の魂を蝕んでいく。彼の髪の一部が、時間の加速と停止の衝突によって、真っ白に染まった。
「……時は動き出す。お前たちの描いた『未来』、俺が消去(デリート)してやるよ」
[太字][大文字]4. 無駄無駄ラッシュ:予言の終焉[/大文字][/太字]
カチリ。
時が動き出した瞬間、爆発の衝撃そのものが「無かったこと」へと反転した。
そして、匠人の拳が、腰を抜かした兄弟に向かって解き放たれる。
「予言に従って死ぬのが運命なら……。俺の拳で砕け散るのが、お前たちの『執行済み』の結末だ」
「[太字]無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!![/太字]」
ドッ、ドォォォォォォォォン!!
『ゼロ・ディレイ』の拳は、肉体だけでなく、彼らの「スタンド能力の根源」さえも粉砕した。ボインゴの漫画は白紙へと戻り、オインゴの変装は剥がれ落ち、二人は車両の壁を突き破って砂漠へと放り出された。
「[太字]無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!![/太字]」
最後の一撃と共に、因果の歪みは正された。列車は再び、何事もなかったかのように平穏な走行を続ける。
5. 承太郎の懸念
戦いが終わり、匠人は再び座席に腰を下ろした。
白くなった前髪を指先でいじりながら、彼は無機質な瞳で窓の外を見つめる。
「……匠人。お前、その力……もう人間を辞め始めてるぜ」
承太郎が、隣に座り直し、低い声で告げた。
「……分かってる。さっきの予言を書き換えた瞬間、確信した。俺の体はもう、傷つくことさえ拒絶している。……この先、俺がどれだけ血を流しても、時間は俺を無理やり『17歳の佐藤匠人』に戻し続けるだろう」
不老。それはDIOと同じ土俵に立ったことを意味する。だが、吸血鬼としての不老ではない。時間を支配しすぎた者が受ける、宇宙からの「追放」に近い罰。
「……だが、都合がいい。これなら、DIOの『世界』の中でも、俺だけは永遠に動き続けられる」
「……フン。お前が化け物になっても、俺が殴って人間に戻してやる。……今は、少し休んでおけ」
承太郎はそう言うと、匠人の肩を叩き、再び目を閉じた。
カイロ到着まで、あとわずか。
宿命のカウントダウンが刻まれる中、匠人の「止まった時間」は、承太郎の「進む時間」と共鳴しながら、最終決戦の地へと向かっていく。
第9話 完:[下線][明朝体]残り39話[/明朝体][/下線]
エジプトの広大な砂漠を突き進む急行列車。客室の窓から見える景色は、単調な砂の色から、次第にナイル川沿いの緑へと変わりつつあった。
空条承太郎は、座席に深く腰掛け、読書を装いながらも周囲の気配を殺していた。彼の向かいでは、佐藤匠人がいつものようにヘッドホンを耳に当て、瞳を閉じている。だが、承太郎はその「違和感」を見逃さなかった。
「……匠人。お前、昨日の戦闘から何も食ってねえな」
匠人は目を開けず、短く答えた。
「……腹が減らないんだ。それだけじゃない。心臓の鼓動が、昨日から一度も『速く』ならない」
匠人が自分の手首を承太郎に差し出す。承太郎がその脈を測ると、一分間に正確に60回。激戦の後も、深い眠りの後も、一分一秒の狂いもなく、機械のように一定の律動を刻み続けていた。
「……やれやれだぜ。お前のスタンドの代償、どうやらタダの疲労じゃあ済まねえようだな」
匠人のスタンド『ゼロ・ディレイ』は、時を止め、因果を書き換える。その能力を限界を超えて行使した結果、匠人の肉体そのものが「時間の概念」から切り離され始めていた。細胞の老化が止まり、新陳代謝が固定される。それは一見、究極の進化に見えるが、生物としては「死」という出口さえ失った、永遠の牢獄への入り口でもあった。
「不老……か。笑えない冗談だぜ。俺は、人間として死ぬことさえ『予約』できなくなったらしい」
[太字][大文字]2. 死の予言書:オインゴとボインゴ[/大文字][/太字]
その時、隣の車両から奇妙な二人組が紛れ込んできた。DIOの刺客、オインゴとボインゴの兄弟だ。弟のボインゴが持つスタンド『トト神』の漫画には、100%的中する「未来の予言」が描かれている。
漫画のページがめくれる。そこには、衝撃的なシーンが描かれていた。
『佐藤匠人が、列車の爆発に巻き込まれ、粉々になって死ぬ』。
「ヒヒヒ……! 出たぞ、兄ちゃん! この予言は絶対だ。あの生意気なガキは、次の駅に着く前に肉の塊になるんだ!」
変装したオインゴが、起爆装置を手に忍び寄る。
承太郎の鋭い直感が、車両の床下に仕掛けられた爆弾の微かな音を捉えた。
「匠人! 伏せろ、爆弾だッ!」
ドォォォォォォン!!
凄まじい爆炎が客車を包み込んだ。火柱が上がり、鉄の塊である列車が無残にひしゃげる。予言通り、匠人が座っていた場所は爆心の中心となり、炎に飲み込まれた。
「やった……! やったぞ! 予言は的中だ!」
オインゴが歓喜の声を上げる。だが、煙の中から聞こえてきたのは、絶望的なまでに冷静な「足音」だった。
[太字][大文字]3. ゼロ・ディレイ:確定した未来の「上書き」[/大文字][/太字]
「……予言? そんなもの、俺の『ゼロ』の前ではただの落書きだ」
煙を割り、佐藤匠人が姿を現した。
彼の制服は焼け焦げ、爆風を真正面から受けたはずだった。しかし、彼の肌にはかすり傷一つない。それどころか、流れた血さえもが、空中で静止し、まるでビデオを巻き戻すように傷口へと戻っていく。
「な……!? なぜだ! 予言は絶対のはずだ! お前は死んだはずだぞ!」
ボインゴが漫画を握りしめて震える。
「……確かに、俺は死んだ。一瞬だけな」
匠人の背後に、かつてないほどの威圧感を持って『ゼロ・ディレイ』が顕現した。その全身からは、周囲の物質を強制的に静止させる「零の波動」が溢れ出している。
「能力1――『ザ・ワールド』」
世界がモノクロームに反転する。
飛び散る火花、逃げ惑う乗客の叫び、そしてボインゴの手にある予言の漫画。全てが匠人の支配下に入った。
「能力2――『ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)』」
匠人は、止まった時間の中でボインゴに歩み寄り、その漫画のページを指先でなぞった。
「予約(プレ・オーダー):因果の逆転(フェイト・オーバーライト)」
匠人は「自分が死ぬ」という確定した未来の因果を、「無傷で生き残る」という結果に書き換えた。しかし、その瞬間、匠人の肉体に激痛が走る。
『不老』の呪いが、さらに深く、彼の魂を蝕んでいく。彼の髪の一部が、時間の加速と停止の衝突によって、真っ白に染まった。
「……時は動き出す。お前たちの描いた『未来』、俺が消去(デリート)してやるよ」
[太字][大文字]4. 無駄無駄ラッシュ:予言の終焉[/大文字][/太字]
カチリ。
時が動き出した瞬間、爆発の衝撃そのものが「無かったこと」へと反転した。
そして、匠人の拳が、腰を抜かした兄弟に向かって解き放たれる。
「予言に従って死ぬのが運命なら……。俺の拳で砕け散るのが、お前たちの『執行済み』の結末だ」
「[太字]無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!![/太字]」
ドッ、ドォォォォォォォォン!!
『ゼロ・ディレイ』の拳は、肉体だけでなく、彼らの「スタンド能力の根源」さえも粉砕した。ボインゴの漫画は白紙へと戻り、オインゴの変装は剥がれ落ち、二人は車両の壁を突き破って砂漠へと放り出された。
「[太字]無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!![/太字]」
最後の一撃と共に、因果の歪みは正された。列車は再び、何事もなかったかのように平穏な走行を続ける。
5. 承太郎の懸念
戦いが終わり、匠人は再び座席に腰を下ろした。
白くなった前髪を指先でいじりながら、彼は無機質な瞳で窓の外を見つめる。
「……匠人。お前、その力……もう人間を辞め始めてるぜ」
承太郎が、隣に座り直し、低い声で告げた。
「……分かってる。さっきの予言を書き換えた瞬間、確信した。俺の体はもう、傷つくことさえ拒絶している。……この先、俺がどれだけ血を流しても、時間は俺を無理やり『17歳の佐藤匠人』に戻し続けるだろう」
不老。それはDIOと同じ土俵に立ったことを意味する。だが、吸血鬼としての不老ではない。時間を支配しすぎた者が受ける、宇宙からの「追放」に近い罰。
「……だが、都合がいい。これなら、DIOの『世界』の中でも、俺だけは永遠に動き続けられる」
「……フン。お前が化け物になっても、俺が殴って人間に戻してやる。……今は、少し休んでおけ」
承太郎はそう言うと、匠人の肩を叩き、再び目を閉じた。
カイロ到着まで、あとわずか。
宿命のカウントダウンが刻まれる中、匠人の「止まった時間」は、承太郎の「進む時間」と共鳴しながら、最終決戦の地へと向かっていく。
第9話 完:[下線][明朝体]残り39話[/明朝体][/下線]