[太字][大文字]1. 灼熱の沈黙[/大文字][/太字]
南シナ海の死闘を越え、一行はシンガポールを経由し、南インドの地へと足を踏み入れていた。
じりじりと肌を焼く太陽。街中に充満するスパイスと家畜の匂い、そして絶え間ない喧騒。しかし、その賑やかさとは裏腹に、空条承太郎の表情は険しかった。
「やれやれだぜ……。この暑さ、スタンド使いの殺気よりも堪えやがる」
承太郎は学ランの襟を正しながら、日陰を求めて歩を進める。その隣では、ジョセフが地図を広げ、ポルナレフが道行く美女に声をかけては振られていた。
佐藤匠人は、一行から数歩遅れて歩いていた。
彼の首にかけられたヘッドホンは、外界の音を遮断しているわけではない。彼は「空気の震え」を聴いていた。
「……承太郎、止まれ」
匠人の静かな、だが重みのある声が響く。
「ん? どうした匠人、腹でも壊したか?」
ジョセフが振り返るが、匠人の視線は自分たちの足元――地面に伸びる「影」に固定されていた。
「影が……笑ってやがるぜ」
匠人がそう呟いた瞬間、承太郎の足元の影が、まるで底なし沼のようにドロリと形を変えた。そこから這い出してきたのは、鋭い鎌のような腕を持つ漆黒のスタンド。タロットカードの暗示を持たない、DIOが放った独自の暗殺者だ。
「ヒヒヒ……。気づくのが遅かったな! 私のスタンド『シャドウ・ゲート』の領域に入ったが最後、お前たちの実体は影に縫い付けられ、一歩も動けん!」
「なっ……体が動かん! 影を刺されているのか!」
ポルナレフが叫ぶ。ジョセフもアヴドゥルも、自身の影を黒い棘で貫かれ、地面に固定されていた。
[太字][大文字]2. 承太郎の怒りと、匠人の「執行」[/大文字][/太字]
承太郎だけは、スタープラチナを出現させ、強引にその拘束を跳ね返そうとする。
「オラァッ!」
スタープラチナの拳が空を切り裂くが、影のスタンドは実体を持たず、煙のように攻撃をすり抜けた。
「無駄だ、空条承太郎! 実体のない影に、お前のパワーは届かない。じわじわと影を削り取り、お前たちの存在そのものをこの世から消し去ってくれるわ!」
敵の本体は、近くの建物の屋上から高笑いしている。
承太郎は忌々しそうに帽子を深く被り直した。
「……匠人。あのアホ面を黙らせろ。実体がないなら、『概念』ごと叩き潰すしかねえな」
「……了解だ、承太郎。あんたの言う通りだ」
匠人が一歩、前へ踏み出す。
影を縫い付けられているはずの匠人が、まるで見えない階段を登るかのように、重力を無視して悠然と歩き出した。
「な、なぜだ!? なぜ動ける! 貴様の影も確かに貫いたはずだ!」
屋上の暗殺者が驚愕に目を見開く。
「お前は『影』を刺したつもりだろうが……。俺の時間は、お前が攻撃を意識したその『コンマ数秒前』で既に固定されている。お前が刺したのは、俺がそこにいたという『過去の結果』に過ぎない」
匠人の背後に、クロームシルバーの巨神『ゼロ・ディレイ』が静かに、だが絶対的な圧圧感を持って浮上した。
[太字][大文字]3. 能力2:ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)[/大文字][/太字]
「教えてやる。本当の『絶望』ってやつをな」
匠人が指をパチンと鳴らす。
「能力1――『ザ・ワールド』」
世界から色彩が消え去った。
風に舞う砂埃も、暗殺者の引きつった顔も、全てが静止する。
止まった時間の中で、匠人はゆっくりと屋上の敵の元へ歩み寄る。
「影に実体がない? ……そんなのは、この静止した世界では何の意味も持たない『遅延(ディレイ)』だ」
匠人は『ゼロ・ディレイ』を敵の眼前に立たせた。
そして、彼は「予約」を開始する。
「予約(プレ・オーダー):多重存在(残像)」
匠人は止まった時間の中で、敵の全身を全方位から包囲するように移動し、その都度、打撃のフォームを固定していく。
東から、西から、上空から。
数百体の『ゼロ・ディレイ』が、まるで彫像のように敵を囲んで拳を構えている。
「『因果の逆転』。……お前はこれから、殴られた感触すら味わうことなく、崩壊したという事実だけを受け入れることになる」
匠人は敵の鼻先で、最後の一言を放つ。
「時は動き出す」
[太字][大文字]4. 零秒の無駄無駄ラッシュ[/大文字][/太字]
カチリ。
時計の針が動いた瞬間、南インドの熱気を切り裂く轟音が炸裂した。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
文字通り、全方位から同時に放たれた数千発の拳。
敵の暗殺者は、悲鳴を上げる暇さえなかった。
彼の肉体は、一瞬にして全細胞が同時に粉砕されるという「結果」を突きつけられ、衝撃波によって建物ごと粉々に弾け飛んだ。
影のスタンド『シャドウ・ゲート』も、本体の消滅と共に、悲鳴のような音を立てて霧散していく。
「無駄だと言ったはずだ。……俺の『ゼロ・ディレイ』の前では、光も影も、ただの遅れた情報に過ぎない」
匠人は着地し、何事もなかったかのように承太郎の元へ戻った。
5. 黄金の精神への共鳴
拘束の解けたジョセフたちが、荒い息を吐きながら立ち上がる。
「……凄まじいな。いつ見ても、匠人君の戦いは理解の範疇を超えている」
アヴドゥルが冷や汗を拭いながら呟く。
ポルナレフは呆然と壊れた建物を見つめていた。
「おいおい……。あいつ、さっきまで影だったんだぜ? それを物理的に粉砕しちまうなんて、どんな理屈だよ」
承太郎は、隣に立つ匠人の横顔をじっと見つめていた。
「匠人。お前、その力……使いすぎれば、いつか『自分』を見失うぞ」
「……何が言いたい、承太郎」
「時を止め、結果を先に手に入れる。それは神の如き力だが、人間の『歩み』を否定することにもなりかねん。……だが、今は助かったぜ。礼は言わねえがな」
承太郎はそう言うと、再びエジプトの方角へと歩き出した。
ぶっきらぼうな言い草だったが、そこには匠人を「一人の仲間」として、そして「危うい力を持つ友人」として案じる優しさが込められていた。
匠人はヘッドホンを耳に当て、微かに口角を上げた。
「……歩み、か。あんたが歩くなら、俺はその道をゼロ秒で整備してやるだけだ」
砂塵の舞うインドの街道。
最強の二人を擁する一行は、DIOの影がより濃くなる西へと、その歩みを早めていく。
彼らの背後には、ただ静まり返った砂時計の如き静寂だけが残されていた。
第4話 完:[下線][明朝体]残り44話[/明朝体][/下線]
南シナ海の死闘を越え、一行はシンガポールを経由し、南インドの地へと足を踏み入れていた。
じりじりと肌を焼く太陽。街中に充満するスパイスと家畜の匂い、そして絶え間ない喧騒。しかし、その賑やかさとは裏腹に、空条承太郎の表情は険しかった。
「やれやれだぜ……。この暑さ、スタンド使いの殺気よりも堪えやがる」
承太郎は学ランの襟を正しながら、日陰を求めて歩を進める。その隣では、ジョセフが地図を広げ、ポルナレフが道行く美女に声をかけては振られていた。
佐藤匠人は、一行から数歩遅れて歩いていた。
彼の首にかけられたヘッドホンは、外界の音を遮断しているわけではない。彼は「空気の震え」を聴いていた。
「……承太郎、止まれ」
匠人の静かな、だが重みのある声が響く。
「ん? どうした匠人、腹でも壊したか?」
ジョセフが振り返るが、匠人の視線は自分たちの足元――地面に伸びる「影」に固定されていた。
「影が……笑ってやがるぜ」
匠人がそう呟いた瞬間、承太郎の足元の影が、まるで底なし沼のようにドロリと形を変えた。そこから這い出してきたのは、鋭い鎌のような腕を持つ漆黒のスタンド。タロットカードの暗示を持たない、DIOが放った独自の暗殺者だ。
「ヒヒヒ……。気づくのが遅かったな! 私のスタンド『シャドウ・ゲート』の領域に入ったが最後、お前たちの実体は影に縫い付けられ、一歩も動けん!」
「なっ……体が動かん! 影を刺されているのか!」
ポルナレフが叫ぶ。ジョセフもアヴドゥルも、自身の影を黒い棘で貫かれ、地面に固定されていた。
[太字][大文字]2. 承太郎の怒りと、匠人の「執行」[/大文字][/太字]
承太郎だけは、スタープラチナを出現させ、強引にその拘束を跳ね返そうとする。
「オラァッ!」
スタープラチナの拳が空を切り裂くが、影のスタンドは実体を持たず、煙のように攻撃をすり抜けた。
「無駄だ、空条承太郎! 実体のない影に、お前のパワーは届かない。じわじわと影を削り取り、お前たちの存在そのものをこの世から消し去ってくれるわ!」
敵の本体は、近くの建物の屋上から高笑いしている。
承太郎は忌々しそうに帽子を深く被り直した。
「……匠人。あのアホ面を黙らせろ。実体がないなら、『概念』ごと叩き潰すしかねえな」
「……了解だ、承太郎。あんたの言う通りだ」
匠人が一歩、前へ踏み出す。
影を縫い付けられているはずの匠人が、まるで見えない階段を登るかのように、重力を無視して悠然と歩き出した。
「な、なぜだ!? なぜ動ける! 貴様の影も確かに貫いたはずだ!」
屋上の暗殺者が驚愕に目を見開く。
「お前は『影』を刺したつもりだろうが……。俺の時間は、お前が攻撃を意識したその『コンマ数秒前』で既に固定されている。お前が刺したのは、俺がそこにいたという『過去の結果』に過ぎない」
匠人の背後に、クロームシルバーの巨神『ゼロ・ディレイ』が静かに、だが絶対的な圧圧感を持って浮上した。
[太字][大文字]3. 能力2:ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)[/大文字][/太字]
「教えてやる。本当の『絶望』ってやつをな」
匠人が指をパチンと鳴らす。
「能力1――『ザ・ワールド』」
世界から色彩が消え去った。
風に舞う砂埃も、暗殺者の引きつった顔も、全てが静止する。
止まった時間の中で、匠人はゆっくりと屋上の敵の元へ歩み寄る。
「影に実体がない? ……そんなのは、この静止した世界では何の意味も持たない『遅延(ディレイ)』だ」
匠人は『ゼロ・ディレイ』を敵の眼前に立たせた。
そして、彼は「予約」を開始する。
「予約(プレ・オーダー):多重存在(残像)」
匠人は止まった時間の中で、敵の全身を全方位から包囲するように移動し、その都度、打撃のフォームを固定していく。
東から、西から、上空から。
数百体の『ゼロ・ディレイ』が、まるで彫像のように敵を囲んで拳を構えている。
「『因果の逆転』。……お前はこれから、殴られた感触すら味わうことなく、崩壊したという事実だけを受け入れることになる」
匠人は敵の鼻先で、最後の一言を放つ。
「時は動き出す」
[太字][大文字]4. 零秒の無駄無駄ラッシュ[/大文字][/太字]
カチリ。
時計の針が動いた瞬間、南インドの熱気を切り裂く轟音が炸裂した。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
文字通り、全方位から同時に放たれた数千発の拳。
敵の暗殺者は、悲鳴を上げる暇さえなかった。
彼の肉体は、一瞬にして全細胞が同時に粉砕されるという「結果」を突きつけられ、衝撃波によって建物ごと粉々に弾け飛んだ。
影のスタンド『シャドウ・ゲート』も、本体の消滅と共に、悲鳴のような音を立てて霧散していく。
「無駄だと言ったはずだ。……俺の『ゼロ・ディレイ』の前では、光も影も、ただの遅れた情報に過ぎない」
匠人は着地し、何事もなかったかのように承太郎の元へ戻った。
5. 黄金の精神への共鳴
拘束の解けたジョセフたちが、荒い息を吐きながら立ち上がる。
「……凄まじいな。いつ見ても、匠人君の戦いは理解の範疇を超えている」
アヴドゥルが冷や汗を拭いながら呟く。
ポルナレフは呆然と壊れた建物を見つめていた。
「おいおい……。あいつ、さっきまで影だったんだぜ? それを物理的に粉砕しちまうなんて、どんな理屈だよ」
承太郎は、隣に立つ匠人の横顔をじっと見つめていた。
「匠人。お前、その力……使いすぎれば、いつか『自分』を見失うぞ」
「……何が言いたい、承太郎」
「時を止め、結果を先に手に入れる。それは神の如き力だが、人間の『歩み』を否定することにもなりかねん。……だが、今は助かったぜ。礼は言わねえがな」
承太郎はそう言うと、再びエジプトの方角へと歩き出した。
ぶっきらぼうな言い草だったが、そこには匠人を「一人の仲間」として、そして「危うい力を持つ友人」として案じる優しさが込められていた。
匠人はヘッドホンを耳に当て、微かに口角を上げた。
「……歩み、か。あんたが歩くなら、俺はその道をゼロ秒で整備してやるだけだ」
砂塵の舞うインドの街道。
最強の二人を擁する一行は、DIOの影がより濃くなる西へと、その歩みを早めていく。
彼らの背後には、ただ静まり返った砂時計の如き静寂だけが残されていた。
第4話 完:[下線][明朝体]残り44話[/明朝体][/下線]