[太字][大文字]1. 疑心の航路[/大文字][/太字]
香港を発った一行を乗せた巨大な茶色い船は、南シナ海の荒波を切り裂いて進んでいた。
空はどんよりとした鉛色の雲に覆われ、時折激しいスコールが甲板を叩きつける。
「やれやれだぜ……。海の上ってのは、逃げ場がなくて落ち着かねえ」
空条承太郎は、雨に濡れるのも構わず、手すりに寄りかかって海面を見つめていた。彼の鋭い直感は、水面下に潜む「得体の知れない殺気」を捉えていた。
その背後、船の操舵室近くの壁に背を預けているのは佐藤匠人だ。
彼は首のヘッドホンを外し、指先で空中の「振動」を弾くように動かしていた。
「承太郎。この船の鼓動……エンジンの音に混じって、余計な『拍子』が紛れ込んでるぜ。それも一つや二つじゃない」
「……ああ。アヴドゥルやじじいも気づいている。偽物の船長が一人。そして、水の中に一匹だ」
その直後だった。船長を装っていた男が正体を現し、海中へと飛び込む。同時に、船の底から凄まじい衝撃が走り、船体が大きく傾いた。
「出たな……! スタンド使いだ!」
ジョセフ・ジョースターの声が響く。海中から現れたのは、鋭い鱗と牙を持つ半魚人のようなスタンド――『ダークブルー・ムーン(暗青の月)』。
「ヒッヒッヒ! この海の中では、いかなるスタンドも無力! 私のチャージ・バフによる渦潮からは、何者も逃げられんのだ!」
偽船長の嘲笑と共に、海面が巨大な洗濯機のように回り始め、承太郎を水中に引きずり込もうとする。
[太字][大文字]2. 水中の『零秒(ゼロ)[/大文字][/太字]』
「承太郎!」
ジョセフが叫ぶが、承太郎は冷静だった。
「……匠人。お前のスタンドなら、この水の抵抗すら『無かったこと』にできるな?」
「ああ。……『ゼロ・ディレイ』に、物理法則なんていう『遅延(ディレイ)』は通用しない」
匠人は迷わず、荒れ狂う渦潮へと飛び込んだ。
普通、水中に飛び込めば水の抵抗で動きは鈍る。だが、匠人の周りだけは、まるで水が彼を避けているかのように、全くその速度が落ちない。
水深十メートル。光の届かない青の世界で、ダークブルー・ムーンが牙を剥く。
「馬鹿な小僧が! 自ら死地へ飛び込んでくるとは! この水圧の中では、貴様のパンチなどスローモーションよ!」
ダークブルー・ムーンの鋭い鱗が、カミソリのような速度で匠人を切り裂こうとする。
だが、匠人は無表情のまま、その場で指を鳴らした。
「能力1――『ザ・ワールド』」
ドォォォーーン。
心臓の鼓動のような重低音が響き、泡の一つ一つ、光の屈折、そして襲いかかる敵の牙さえもが、その場で完全に静止した。
匠人は、止まった時間の中で泳ぐことすらしない。
彼は『ゼロ・ディレイ』を出現させると、止まった水の中を、まるで地上を歩くかのように平然と踏みしめて進んだ。
「お前の『攻撃しよう』という意思は、既に俺が買い取った。……この止まった時間の中で、お前の運命を『上書き』させてもらう」
[太字][大文字]3. 因果の破壊――無駄無駄ラッシュ[/大文字][/太字]
匠人は『ゼロ・ディレイ』と共に、ダークブルー・ムーンの目の前に立った。
ここで匠人が選んだのは、単なる一撃ではない。
「能力2――『ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)』」
「予約開始(プレ・オーダー)」
匠人は、止まった時間の中で『ゼロ・ディレイ』の拳を、敵の全身の急所に数千発叩き込む「動作」を予約した。
そして、その一つ一つの打撃に、「因果の逆転」を付与する。
「殴ってからダメージが出るんじゃない。お前は既に……粉砕されたという『結果』を持って、時を再開するんだ」
匠人の黄金に近い輝きを放つスタンドが、その拳を構える。
「時は動き出す……。そして、お前の命もここで終わりだ」
カチッ。
時が動き出した瞬間、物理的な「予備動作」を一切省略した、文字通りの「零秒のラッシュ」が炸裂した。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
ドッ、ドォォォォォォォォン!!
海中であるにもかかわらず、爆発的な打撃音が連鎖する。
一発一発の拳が、水の抵抗を完全に無視し、敵の肉体に「直接」結果を刻み込む。
ダークブルー・ムーンは、自分がいつ殴られたのか、何が起きたのかすら認識できないまま、全身の骨を砕かれ、肉を削ぎ落とされていった。
「無駄だ。俺が時を止めた瞬間、お前の敗北は『確定事項』へと上書きされた」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
最後の一撃が敵の脳天を貫き、ダークブルー・ムーンは海肉の塊となって四散した。
[太字][大文字]4. 静寂の帰還[/大文字][/太字]
海面に浮上した匠人は、何事もなかったかのように船の甲板へと飛び乗った。
髪をかき上げ、首にヘッドホンを戻す。
「終わったぜ、承太郎」
「……フン。相変わらず情け容赦ねえな、お前のスタンドは」
承太郎はタバコに火をつけようとしたが、濡れていることに気づき、忌々しそうにそれを捨てた。
ジョセフ、アヴドゥル、ポルナレフの三人は、海上で起きた一瞬の出来事に言葉を失っていた。
「今、一瞬だけ……海全体が『止まった』ように見えたのは、わしの気のせいか?」
ジョセフが頬をひきつらせて尋ねる。
「……いや。気のせいじゃない。彼は、私たちが到達できない『領域』で戦っている」
アヴドゥルは、匠人が放つ、DIOと同じ「時を支配する香り」に戦慄を隠せなかった。しかし、その力は邪悪ではなく、承太郎の隣に並び立つ「正義の刃」としての輝きを放っている。
「へっ、お前みたいな化け物が味方で助かったぜ、匠人!」
ポルナレフが豪快に笑いながら匠人の肩を叩こうとするが、匠人はスッと体をかわし、船の先端を見つめた。
「まだだ。海を抜けても、次は空……そして砂漠が待っている」
匠人の瞳には、遥か彼方、エジプトの地で嘲笑う吸血鬼の影が見えていた。
「承太郎。あんたのスタープラチナなら、いつか俺のこの『世界』に入ってこれるかもしれないな」
「……もしそうなったら、その時は二人でDIOを殴り飛ばすだけだ。……行くぞ」
空を覆っていた暗雲が、一筋の光によって切り裂かれた。
承太郎という太陽。そして匠人という、影をも超越した零秒の執行者。
二人の奇妙な共闘は、南シナ海を越え、さらに過酷な戦地へと向かっていく。
[下線]第3話 完:残り45話[/下線]
香港を発った一行を乗せた巨大な茶色い船は、南シナ海の荒波を切り裂いて進んでいた。
空はどんよりとした鉛色の雲に覆われ、時折激しいスコールが甲板を叩きつける。
「やれやれだぜ……。海の上ってのは、逃げ場がなくて落ち着かねえ」
空条承太郎は、雨に濡れるのも構わず、手すりに寄りかかって海面を見つめていた。彼の鋭い直感は、水面下に潜む「得体の知れない殺気」を捉えていた。
その背後、船の操舵室近くの壁に背を預けているのは佐藤匠人だ。
彼は首のヘッドホンを外し、指先で空中の「振動」を弾くように動かしていた。
「承太郎。この船の鼓動……エンジンの音に混じって、余計な『拍子』が紛れ込んでるぜ。それも一つや二つじゃない」
「……ああ。アヴドゥルやじじいも気づいている。偽物の船長が一人。そして、水の中に一匹だ」
その直後だった。船長を装っていた男が正体を現し、海中へと飛び込む。同時に、船の底から凄まじい衝撃が走り、船体が大きく傾いた。
「出たな……! スタンド使いだ!」
ジョセフ・ジョースターの声が響く。海中から現れたのは、鋭い鱗と牙を持つ半魚人のようなスタンド――『ダークブルー・ムーン(暗青の月)』。
「ヒッヒッヒ! この海の中では、いかなるスタンドも無力! 私のチャージ・バフによる渦潮からは、何者も逃げられんのだ!」
偽船長の嘲笑と共に、海面が巨大な洗濯機のように回り始め、承太郎を水中に引きずり込もうとする。
[太字][大文字]2. 水中の『零秒(ゼロ)[/大文字][/太字]』
「承太郎!」
ジョセフが叫ぶが、承太郎は冷静だった。
「……匠人。お前のスタンドなら、この水の抵抗すら『無かったこと』にできるな?」
「ああ。……『ゼロ・ディレイ』に、物理法則なんていう『遅延(ディレイ)』は通用しない」
匠人は迷わず、荒れ狂う渦潮へと飛び込んだ。
普通、水中に飛び込めば水の抵抗で動きは鈍る。だが、匠人の周りだけは、まるで水が彼を避けているかのように、全くその速度が落ちない。
水深十メートル。光の届かない青の世界で、ダークブルー・ムーンが牙を剥く。
「馬鹿な小僧が! 自ら死地へ飛び込んでくるとは! この水圧の中では、貴様のパンチなどスローモーションよ!」
ダークブルー・ムーンの鋭い鱗が、カミソリのような速度で匠人を切り裂こうとする。
だが、匠人は無表情のまま、その場で指を鳴らした。
「能力1――『ザ・ワールド』」
ドォォォーーン。
心臓の鼓動のような重低音が響き、泡の一つ一つ、光の屈折、そして襲いかかる敵の牙さえもが、その場で完全に静止した。
匠人は、止まった時間の中で泳ぐことすらしない。
彼は『ゼロ・ディレイ』を出現させると、止まった水の中を、まるで地上を歩くかのように平然と踏みしめて進んだ。
「お前の『攻撃しよう』という意思は、既に俺が買い取った。……この止まった時間の中で、お前の運命を『上書き』させてもらう」
[太字][大文字]3. 因果の破壊――無駄無駄ラッシュ[/大文字][/太字]
匠人は『ゼロ・ディレイ』と共に、ダークブルー・ムーンの目の前に立った。
ここで匠人が選んだのは、単なる一撃ではない。
「能力2――『ゼロ・ディレイ(遅延なき執行)』」
「予約開始(プレ・オーダー)」
匠人は、止まった時間の中で『ゼロ・ディレイ』の拳を、敵の全身の急所に数千発叩き込む「動作」を予約した。
そして、その一つ一つの打撃に、「因果の逆転」を付与する。
「殴ってからダメージが出るんじゃない。お前は既に……粉砕されたという『結果』を持って、時を再開するんだ」
匠人の黄金に近い輝きを放つスタンドが、その拳を構える。
「時は動き出す……。そして、お前の命もここで終わりだ」
カチッ。
時が動き出した瞬間、物理的な「予備動作」を一切省略した、文字通りの「零秒のラッシュ」が炸裂した。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
ドッ、ドォォォォォォォォン!!
海中であるにもかかわらず、爆発的な打撃音が連鎖する。
一発一発の拳が、水の抵抗を完全に無視し、敵の肉体に「直接」結果を刻み込む。
ダークブルー・ムーンは、自分がいつ殴られたのか、何が起きたのかすら認識できないまま、全身の骨を砕かれ、肉を削ぎ落とされていった。
「無駄だ。俺が時を止めた瞬間、お前の敗北は『確定事項』へと上書きされた」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
最後の一撃が敵の脳天を貫き、ダークブルー・ムーンは海肉の塊となって四散した。
[太字][大文字]4. 静寂の帰還[/大文字][/太字]
海面に浮上した匠人は、何事もなかったかのように船の甲板へと飛び乗った。
髪をかき上げ、首にヘッドホンを戻す。
「終わったぜ、承太郎」
「……フン。相変わらず情け容赦ねえな、お前のスタンドは」
承太郎はタバコに火をつけようとしたが、濡れていることに気づき、忌々しそうにそれを捨てた。
ジョセフ、アヴドゥル、ポルナレフの三人は、海上で起きた一瞬の出来事に言葉を失っていた。
「今、一瞬だけ……海全体が『止まった』ように見えたのは、わしの気のせいか?」
ジョセフが頬をひきつらせて尋ねる。
「……いや。気のせいじゃない。彼は、私たちが到達できない『領域』で戦っている」
アヴドゥルは、匠人が放つ、DIOと同じ「時を支配する香り」に戦慄を隠せなかった。しかし、その力は邪悪ではなく、承太郎の隣に並び立つ「正義の刃」としての輝きを放っている。
「へっ、お前みたいな化け物が味方で助かったぜ、匠人!」
ポルナレフが豪快に笑いながら匠人の肩を叩こうとするが、匠人はスッと体をかわし、船の先端を見つめた。
「まだだ。海を抜けても、次は空……そして砂漠が待っている」
匠人の瞳には、遥か彼方、エジプトの地で嘲笑う吸血鬼の影が見えていた。
「承太郎。あんたのスタープラチナなら、いつか俺のこの『世界』に入ってこれるかもしれないな」
「……もしそうなったら、その時は二人でDIOを殴り飛ばすだけだ。……行くぞ」
空を覆っていた暗雲が、一筋の光によって切り裂かれた。
承太郎という太陽。そして匠人という、影をも超越した零秒の執行者。
二人の奇妙な共闘は、南シナ海を越え、さらに過酷な戦地へと向かっていく。
[下線]第3話 完:残り45話[/下線]