1950年6月27日。朝鮮半島の空は、もはや「1950年代」という時間軸から完全に切り離されていた。
黄海上空、高度1万メートル。護衛艦「はぐろ」のイージス・システムが捉えたのは、歴史の修正力をあざ笑うかのような絶望的な光景だった。
「艦長! 敵編隊、なおも増殖中! 総数150を突破。……個体識別、完了しました。ソ連製『プロジェクト・ベルクート』……外見、性能共にSu-27 フランカーとほぼ同等と推定。マッハ2.0で南下中!」
「はぐろ」のCIC(戦闘指揮所)で、オペレーターの絶叫が響く。
艦長の匠人三等海佐は、拳を血が滲むほどに握りしめた。ソ連は、かつてナチス・ドイツが自衛隊から盗み出した不完全な設計図や電子部品のサンプルを、この7年間で完全に「自国技術」として昇華させていたのだ。
「……あり得ん。1950年の工業力でフランカーを飛ばすだと? どんな魔法を使った……」
匠人の脳裏に、不吉な予感がよぎる。これは単なる技術模倣ではない。自衛隊の中から、あるいは未来の日本から、ソ連へ亡命した「技術者」が関与しているのではないか。
[太字][大文字]第1章:超音速の激突[/大文字][/太字]
「こちら『しなの』、F-2編隊長! 敵を肉眼で捉えた。……なんてこった、本当にフランカーの形をしていやがる。……全機、交戦許可を(エンゲージ)!」
多機能型護衛艦「しなの」から電磁カタパルトで射出されたF-2戦闘機、およびF-35Bの混成編隊が、ソ連製の模倣機群と正面から激突した。
空を切り裂くのは、レシプロ機の野太い音ではない。何十本ものアフターバーナーが放つ、大気を引き裂くような高周波の咆哮だ。
「ターゲットロック! AAM-4、放てッ!」
F-2から放たれたアクティブ・レーダー誘導ミサイルが、青白い尾を引いてソ連機へ向かう。しかし、敵もさるもの。1950年には存在するはずのない「フレア」と「チャフ」を撒き散らし、信じがたい機動(コブラ)を見せてミサイルを回避した。
「……敵の機動、こちらのアルゴリズムを知っているぞ! 回避パターンを読まれている!」
空中戦(ドッグファイト)は、凄惨な「未来対未来」の殺し合いへと変貌した。
一瞬の交差でマッハを越える速度。F-2のM61機関砲が敵の翼を削れば、敵の30mm砲がF-2のキャノピーを掠める。1950年の朝鮮半島の住民が見上げた空には、目にも止まらぬ速さで爆発し、炎を上げて墜ちていく「銀色の悪魔たち」の死に様が刻まれていた。
[太字][大文字]第2章:ソビエト連邦、内乱の火蓋[/大文字][/太字]
同じ頃、モスクワ。
「未来の力」を強引に引き出したツケは、国家の根幹を揺るがし始めていた。
スターリン政権下において、未来技術の独占を巡る内紛が爆発したのだ。
「あまりにも早すぎた進化」は、軍部と秘密警察(MGB)、そして未来技術の恩恵を受けた新進気鋭の科学者たちの間に決定的な亀裂を生んだ。
「スターリンは狂った! 彼は未来の兵器を使って、全欧州を、いや地球そのものを灰にするつもりだ!」
反スターリン派を掲げるジューコフ元帥に近い将校たちが、突如としてクレムリンへの進撃を開始。自衛隊の戦車技術を流用した新型戦車「IS-7改」がモスクワの街頭を埋め尽くし、味方同士での砲撃戦が始まった。
「報告します! ソ連国内で大規模な武装蜂起が発生! モスクワ、レニングラード、ウラジオストクの各都市で守備隊同士が交戦中! ……ソ連が、内戦状態に突入しました!」
「はぐろ」に飛び込んできたこのニュースに、匠人は戦慄した。
「……内戦だと? この戦場にフランカーを送り込んでおきながら、本国が崩壊し始めたというのか」
[太字][大文字]第3章:鉄の選択[/大文字][/太字]
「艦長、チャンスです。敵航空部隊、本国からの通信混乱により連携が乱れています! 今なら一気に叩けます!」
砲雷長の進言に、匠人は即座に反応した。
「……いや、待て。彼らを殲滅することが今の最善か?」
匠人は、レーダーモニターに映る凄まじい空中戦を見つめた。
もし今、ソ連が内戦で崩壊し、その「未来技術」がさらに世界中に散らばればどうなる? ナチス以上の狂気が、あちこちで芽吹くことになるのではないか。
「……『しなの』に伝えろ。敵機に対して、無差別な攻撃を中止し、通信介入(ジャミング)を行え。我々は、彼らを『降伏』させる。そして、ソ連国内の混乱を鎮圧するために、国連軍として介入する準備を整える」
「艦長! それは歴史への、さらなる致命的な介入になります!」
「……もう遅いんだ。我々がここに来た瞬間に、歴史は死んだ。……今、我々がすべきことは、この世界が核の冬に閉ざされるのを止めることだけだ」
[太字][大文字]第4章:北の空に消える影[/大文字][/太字]
匠人の命令により、「はぐろ」およびイージス艦隊は、強力な電子戦能力を展開。
空域の全ての電波をジャックし、混乱するソ連パイロットたちに呼びかけた。
『こちら日本国海上自衛隊。貴公らの祖国で何が起きているかは把握している。……戦う理由はもうないはずだ。我々の空母への着艦、あるいは指定地域への緊急着陸を認めよう。……命を無駄にするな』
その瞬間、空を埋め尽くしていたソ連機たちの動きが止まった。
一機、また一機と、アフターバーナーの炎を消し、速度を落とす。
だがその時、「はぐろ」のレーダーが、北の平壌(ピョンヤン)付近から上昇する「巨大な熱源」を捉えた。
「……艦長! 巨大熱源、高度を急速に上げています。弾道計算……! 目標は、日本本土、東京です! ……これは、長距離弾道ミサイルです!」
「……ソ連の狂信派か、あるいは北か。……ついに『禁断のボタン』を押したか」
匠人の顔が蒼白になる。1950年のミッドウェーで彼が見た悪夢が、今度は核の脅威となって、最愛の祖国へと襲いかかろうとしていた。
「……『はぐろ』、SM-3発射準備! 大気圏外迎撃を開始する!」
自衛隊は今、朝鮮戦争という枠組みを越え、世界の終末を止めるための「神の領域」の戦いへと引きずり込まれていった。
黄海上空、高度1万メートル。護衛艦「はぐろ」のイージス・システムが捉えたのは、歴史の修正力をあざ笑うかのような絶望的な光景だった。
「艦長! 敵編隊、なおも増殖中! 総数150を突破。……個体識別、完了しました。ソ連製『プロジェクト・ベルクート』……外見、性能共にSu-27 フランカーとほぼ同等と推定。マッハ2.0で南下中!」
「はぐろ」のCIC(戦闘指揮所)で、オペレーターの絶叫が響く。
艦長の匠人三等海佐は、拳を血が滲むほどに握りしめた。ソ連は、かつてナチス・ドイツが自衛隊から盗み出した不完全な設計図や電子部品のサンプルを、この7年間で完全に「自国技術」として昇華させていたのだ。
「……あり得ん。1950年の工業力でフランカーを飛ばすだと? どんな魔法を使った……」
匠人の脳裏に、不吉な予感がよぎる。これは単なる技術模倣ではない。自衛隊の中から、あるいは未来の日本から、ソ連へ亡命した「技術者」が関与しているのではないか。
[太字][大文字]第1章:超音速の激突[/大文字][/太字]
「こちら『しなの』、F-2編隊長! 敵を肉眼で捉えた。……なんてこった、本当にフランカーの形をしていやがる。……全機、交戦許可を(エンゲージ)!」
多機能型護衛艦「しなの」から電磁カタパルトで射出されたF-2戦闘機、およびF-35Bの混成編隊が、ソ連製の模倣機群と正面から激突した。
空を切り裂くのは、レシプロ機の野太い音ではない。何十本ものアフターバーナーが放つ、大気を引き裂くような高周波の咆哮だ。
「ターゲットロック! AAM-4、放てッ!」
F-2から放たれたアクティブ・レーダー誘導ミサイルが、青白い尾を引いてソ連機へ向かう。しかし、敵もさるもの。1950年には存在するはずのない「フレア」と「チャフ」を撒き散らし、信じがたい機動(コブラ)を見せてミサイルを回避した。
「……敵の機動、こちらのアルゴリズムを知っているぞ! 回避パターンを読まれている!」
空中戦(ドッグファイト)は、凄惨な「未来対未来」の殺し合いへと変貌した。
一瞬の交差でマッハを越える速度。F-2のM61機関砲が敵の翼を削れば、敵の30mm砲がF-2のキャノピーを掠める。1950年の朝鮮半島の住民が見上げた空には、目にも止まらぬ速さで爆発し、炎を上げて墜ちていく「銀色の悪魔たち」の死に様が刻まれていた。
[太字][大文字]第2章:ソビエト連邦、内乱の火蓋[/大文字][/太字]
同じ頃、モスクワ。
「未来の力」を強引に引き出したツケは、国家の根幹を揺るがし始めていた。
スターリン政権下において、未来技術の独占を巡る内紛が爆発したのだ。
「あまりにも早すぎた進化」は、軍部と秘密警察(MGB)、そして未来技術の恩恵を受けた新進気鋭の科学者たちの間に決定的な亀裂を生んだ。
「スターリンは狂った! 彼は未来の兵器を使って、全欧州を、いや地球そのものを灰にするつもりだ!」
反スターリン派を掲げるジューコフ元帥に近い将校たちが、突如としてクレムリンへの進撃を開始。自衛隊の戦車技術を流用した新型戦車「IS-7改」がモスクワの街頭を埋め尽くし、味方同士での砲撃戦が始まった。
「報告します! ソ連国内で大規模な武装蜂起が発生! モスクワ、レニングラード、ウラジオストクの各都市で守備隊同士が交戦中! ……ソ連が、内戦状態に突入しました!」
「はぐろ」に飛び込んできたこのニュースに、匠人は戦慄した。
「……内戦だと? この戦場にフランカーを送り込んでおきながら、本国が崩壊し始めたというのか」
[太字][大文字]第3章:鉄の選択[/大文字][/太字]
「艦長、チャンスです。敵航空部隊、本国からの通信混乱により連携が乱れています! 今なら一気に叩けます!」
砲雷長の進言に、匠人は即座に反応した。
「……いや、待て。彼らを殲滅することが今の最善か?」
匠人は、レーダーモニターに映る凄まじい空中戦を見つめた。
もし今、ソ連が内戦で崩壊し、その「未来技術」がさらに世界中に散らばればどうなる? ナチス以上の狂気が、あちこちで芽吹くことになるのではないか。
「……『しなの』に伝えろ。敵機に対して、無差別な攻撃を中止し、通信介入(ジャミング)を行え。我々は、彼らを『降伏』させる。そして、ソ連国内の混乱を鎮圧するために、国連軍として介入する準備を整える」
「艦長! それは歴史への、さらなる致命的な介入になります!」
「……もう遅いんだ。我々がここに来た瞬間に、歴史は死んだ。……今、我々がすべきことは、この世界が核の冬に閉ざされるのを止めることだけだ」
[太字][大文字]第4章:北の空に消える影[/大文字][/太字]
匠人の命令により、「はぐろ」およびイージス艦隊は、強力な電子戦能力を展開。
空域の全ての電波をジャックし、混乱するソ連パイロットたちに呼びかけた。
『こちら日本国海上自衛隊。貴公らの祖国で何が起きているかは把握している。……戦う理由はもうないはずだ。我々の空母への着艦、あるいは指定地域への緊急着陸を認めよう。……命を無駄にするな』
その瞬間、空を埋め尽くしていたソ連機たちの動きが止まった。
一機、また一機と、アフターバーナーの炎を消し、速度を落とす。
だがその時、「はぐろ」のレーダーが、北の平壌(ピョンヤン)付近から上昇する「巨大な熱源」を捉えた。
「……艦長! 巨大熱源、高度を急速に上げています。弾道計算……! 目標は、日本本土、東京です! ……これは、長距離弾道ミサイルです!」
「……ソ連の狂信派か、あるいは北か。……ついに『禁断のボタン』を押したか」
匠人の顔が蒼白になる。1950年のミッドウェーで彼が見た悪夢が、今度は核の脅威となって、最愛の祖国へと襲いかかろうとしていた。
「……『はぐろ』、SM-3発射準備! 大気圏外迎撃を開始する!」
自衛隊は今、朝鮮戦争という枠組みを越え、世界の終末を止めるための「神の領域」の戦いへと引きずり込まれていった。