1950年6月26日、黄海。
ソウル北岸で10式戦車が北朝鮮地上軍を圧倒したその時、海上では現代戦の恐ろしさがその牙を剥こうとしていた。護衛艦「はぐろ」の右舷、わずか数百メートルの海面が爆発し、天を突くような水柱が上がった。
「至近弾! 右舷外板、異常なし! 衝撃に備えろ!」
艦橋に匠人三等海佐の怒号が響く。遅れてやってきた凄まじい震動が、2026年製の強靭な艦体を揺さぶった。
「ソナー報告しろ! 魚雷か? どこから来た!」
「……雷跡確認できず! 航跡波もありませんでした。おそらく、ソ連製の酸素魚雷……いや、自衛隊のデータを元に造られた『超静粛長射程魚雷』です!」
ソナー担当の悲鳴に近い報告に、匠人は戦慄した。ソ連は第二次世界大戦終結後の7年間で、単に兵器の形を模しただけでなく、自衛隊が秘匿していた「探知されにくい攻撃手法」までも再現しつつあったのだ。
[太字][大文字]第1章:見えない刺客[/大文字][/太字]
「……対潜戦闘、用意。全艦、パッシブ・ソナーを最大感度に。デコイを射出せよ」
匠人の指示に従い、「はぐろ」の舷側から音響デコイが放たれた。海中に偽のスクリュー音を撒き散らし、敵の次弾を誘う。
現在の黄海は、平均水深が浅く、塩分濃度や水温の層が複雑に入り混じっている。これは潜水艦にとっては「隠れ蓑」が多く、水上艦にとっては極めて不利な条件だ。
「艦長、僚艦『たいげい』より水中通話あり。『我、敵潜水艦の微弱な音紋を捕捉。方位180、深度120。……敵艦、二隻あり』とのことです!」
「……二隻だと?」
匠人はモニターに映し出された海域図を凝視した。一隻が「はぐろ」に魚雷を放ち、注意を逸らしている間にもう一隻が仕留める――。それは現代潜水艦戦の定石(セオリー)だ。1950年のソ連海軍が、21世紀の戦術を使いこなしているという事実に、背筋が凍る。
「『たいげい』に伝えろ。一隻は任せる。もう一隻は『はぐろ』が引きずり出す」
[太字][大文字]第2章:音の殺し合い[/大文字][/太字]
海面下では、最新鋭潜水艦「たいげい」が、獲物を狙うクジラのように静かに、しかし確実に敵へと迫っていた。
「たいげい」の艦内は、赤い低光度照明に包まれ、乗員たちはヘッドセットから流れる微かな音に全神経を集中させている。
「……ターゲット、感あり。ソ連製、改キロ級……いや、彼らの呼称では『プロジェクト・フューチャー』か。リチウムイオン電池の駆動音が微かに聞こえます」
水測員の報告を受け、「たいげい」艦長は静かに右手を上げた。
「……魚雷発射管1番から4番、注水。18式長射程魚雷、起動。敵の音響シグネチャーにロックしろ」
「たいげい」から放たれた魚雷は、有線誘導によって敵の喉元へと突き進む。ソ連潜水艦側も異常を察知し、急速潜航とデコイ射出で回避を試みるが、現代の魚雷の「頭脳」は、偽物の音に惑わされるほど甘くはなかった。
ドォォォォォォン……。
海深深くで、鈍い衝撃音が響いた。1950年の海に、本来存在しないはずのハイテク潜水艦が、一隻、鉄の棺桶となって沈んでいった。
[太字][大文字]第3章:アスロックの咆哮[/大文字][/太字]
一方、「はぐろ」を狙っていたもう一隻の敵潜水艦は、自衛隊の猛攻に晒されていた。
「艦長、敵潜、魚雷発射準備に入りました! 本艦をロックオンしています!」
「……逃がすな。垂直発射型魚雷(アスロック)、発射!」
「はぐろ」のVLS(垂直発射装置)から、白煙を引いてミサイルが飛び出した。それは空中で放物線を描き、敵潜水艦の直上で水中へと突入、自律誘導魚雷へと分離した。
「……敵潜、緊急浮上してきます! 魚雷を回避しきれないと判断した模様!」
海面が大きく盛り上がり、漆黒の艦体が姿を現した。それは、1950年代のどの潜水艦とも異なる、流線型の滑らかなフォルム。セイルには赤い星のエンブレムが刻まれている。
しかし、その浮上も束の間、アスロックの魚雷がその推進器を粉砕した。
「……敵潜水艦、航行不能。……制海権の確保に成功しました」
[太字][大文字]第4章:北の空の異変[/大文字][/太字]
「……よくやった。だが、喜んでいる暇はないぞ」
匠人が空を見上げると、レーダーモニターに異常な反応が大量に出現していた。
「艦長! 報告! 方位330、高度12000、数……120! 敵航空部隊、急速接近!」
「解析しろ。ミグ15か?」
「……いえ、違います! この反射特性、そして速度……。Su-27 フランカーに酷似しています! 1950年の空に、第4世代ジェット戦闘機が現れました!」
匠人は絶句した。ソ連は、潜水艦どころか、航空技術においても「禁断の果実」を完全に飲み込んでいた。
かつてのミッドウェーで自衛隊が米軍を圧倒したように、今度はソ連が、その圧倒的な「未来の模倣」をもって、自衛隊に襲いかかろうとしていた。
「『しなの』へ至急連絡! 全F-2、およびF-35Bを緊急発進させろ! ――これは戦争ではない。未来を奪い合う『聖戦』だ!」
黄海の空に、アフターバーナーの雷鳴が轟こうとしていた。
ソウル北岸で10式戦車が北朝鮮地上軍を圧倒したその時、海上では現代戦の恐ろしさがその牙を剥こうとしていた。護衛艦「はぐろ」の右舷、わずか数百メートルの海面が爆発し、天を突くような水柱が上がった。
「至近弾! 右舷外板、異常なし! 衝撃に備えろ!」
艦橋に匠人三等海佐の怒号が響く。遅れてやってきた凄まじい震動が、2026年製の強靭な艦体を揺さぶった。
「ソナー報告しろ! 魚雷か? どこから来た!」
「……雷跡確認できず! 航跡波もありませんでした。おそらく、ソ連製の酸素魚雷……いや、自衛隊のデータを元に造られた『超静粛長射程魚雷』です!」
ソナー担当の悲鳴に近い報告に、匠人は戦慄した。ソ連は第二次世界大戦終結後の7年間で、単に兵器の形を模しただけでなく、自衛隊が秘匿していた「探知されにくい攻撃手法」までも再現しつつあったのだ。
[太字][大文字]第1章:見えない刺客[/大文字][/太字]
「……対潜戦闘、用意。全艦、パッシブ・ソナーを最大感度に。デコイを射出せよ」
匠人の指示に従い、「はぐろ」の舷側から音響デコイが放たれた。海中に偽のスクリュー音を撒き散らし、敵の次弾を誘う。
現在の黄海は、平均水深が浅く、塩分濃度や水温の層が複雑に入り混じっている。これは潜水艦にとっては「隠れ蓑」が多く、水上艦にとっては極めて不利な条件だ。
「艦長、僚艦『たいげい』より水中通話あり。『我、敵潜水艦の微弱な音紋を捕捉。方位180、深度120。……敵艦、二隻あり』とのことです!」
「……二隻だと?」
匠人はモニターに映し出された海域図を凝視した。一隻が「はぐろ」に魚雷を放ち、注意を逸らしている間にもう一隻が仕留める――。それは現代潜水艦戦の定石(セオリー)だ。1950年のソ連海軍が、21世紀の戦術を使いこなしているという事実に、背筋が凍る。
「『たいげい』に伝えろ。一隻は任せる。もう一隻は『はぐろ』が引きずり出す」
[太字][大文字]第2章:音の殺し合い[/大文字][/太字]
海面下では、最新鋭潜水艦「たいげい」が、獲物を狙うクジラのように静かに、しかし確実に敵へと迫っていた。
「たいげい」の艦内は、赤い低光度照明に包まれ、乗員たちはヘッドセットから流れる微かな音に全神経を集中させている。
「……ターゲット、感あり。ソ連製、改キロ級……いや、彼らの呼称では『プロジェクト・フューチャー』か。リチウムイオン電池の駆動音が微かに聞こえます」
水測員の報告を受け、「たいげい」艦長は静かに右手を上げた。
「……魚雷発射管1番から4番、注水。18式長射程魚雷、起動。敵の音響シグネチャーにロックしろ」
「たいげい」から放たれた魚雷は、有線誘導によって敵の喉元へと突き進む。ソ連潜水艦側も異常を察知し、急速潜航とデコイ射出で回避を試みるが、現代の魚雷の「頭脳」は、偽物の音に惑わされるほど甘くはなかった。
ドォォォォォォン……。
海深深くで、鈍い衝撃音が響いた。1950年の海に、本来存在しないはずのハイテク潜水艦が、一隻、鉄の棺桶となって沈んでいった。
[太字][大文字]第3章:アスロックの咆哮[/大文字][/太字]
一方、「はぐろ」を狙っていたもう一隻の敵潜水艦は、自衛隊の猛攻に晒されていた。
「艦長、敵潜、魚雷発射準備に入りました! 本艦をロックオンしています!」
「……逃がすな。垂直発射型魚雷(アスロック)、発射!」
「はぐろ」のVLS(垂直発射装置)から、白煙を引いてミサイルが飛び出した。それは空中で放物線を描き、敵潜水艦の直上で水中へと突入、自律誘導魚雷へと分離した。
「……敵潜、緊急浮上してきます! 魚雷を回避しきれないと判断した模様!」
海面が大きく盛り上がり、漆黒の艦体が姿を現した。それは、1950年代のどの潜水艦とも異なる、流線型の滑らかなフォルム。セイルには赤い星のエンブレムが刻まれている。
しかし、その浮上も束の間、アスロックの魚雷がその推進器を粉砕した。
「……敵潜水艦、航行不能。……制海権の確保に成功しました」
[太字][大文字]第4章:北の空の異変[/大文字][/太字]
「……よくやった。だが、喜んでいる暇はないぞ」
匠人が空を見上げると、レーダーモニターに異常な反応が大量に出現していた。
「艦長! 報告! 方位330、高度12000、数……120! 敵航空部隊、急速接近!」
「解析しろ。ミグ15か?」
「……いえ、違います! この反射特性、そして速度……。Su-27 フランカーに酷似しています! 1950年の空に、第4世代ジェット戦闘機が現れました!」
匠人は絶句した。ソ連は、潜水艦どころか、航空技術においても「禁断の果実」を完全に飲み込んでいた。
かつてのミッドウェーで自衛隊が米軍を圧倒したように、今度はソ連が、その圧倒的な「未来の模倣」をもって、自衛隊に襲いかかろうとしていた。
「『しなの』へ至急連絡! 全F-2、およびF-35Bを緊急発進させろ! ――これは戦争ではない。未来を奪い合う『聖戦』だ!」
黄海の空に、アフターバーナーの雷鳴が轟こうとしていた。