「それで、今度は何の知らせを持ってきたの?」
フミを両手で包んで静かに消すと、蓮は肩に乗ってきた舞鶴を見た。
そのままじっと視線を交わしている。視線で意思の疎通を図っているようだった。
「そうか。あいつ、そんなところまで行ってしまったのか。もう始まるんだね。[漢字]首塚[/漢字][ふりがな]くびづか[/ふりがな]の邸は、あと少しで[漢字]陥[/漢字][ふりがな]お[/ふりがな]ちると思う。……お前だけが頼りだって、あいつに伝えておいて」
蓮はため息を吐いた。
「舞鶴。お前の主には、もう伝えたのかな?」
かすかに舞鶴は[漢字]首肯[/漢字][ふりがな]しゅこう[/ふりがな]する。
舞鶴が蓮の肩から離れる。そして、そのまま飛び立っていった。
(舞鶴……? あっ———)
久世が飼っていた烏だと凱はようやく思い出した。
[水平線]
あれから一週間ほどの時間が経った。
また妖怪が出るかもしれないから、と今度は通学を止められた。
そのため、この一週間はほとんど家にいた。
父はいつもより増して忙しくしている。あのとき、そしてあれから、いろいろな場所であれくらいの妖怪が現れるようになり、人員が足りなくなってしまったのだという。
毎日のように、父の隊員たちの訃報が耳に入ってくる。
泊まるかもしれない、と言っていた久世にも、あれから会っていない。時庭の邸にも来ない。
それに、最近はよく分からない噂が広まっているようだった。
『魔法使いの一味が、呪術を使って 悪魔と共謀して人に害を与えている』———。
まさに一週間前に会ったあの大柄な男の話と同じだった。
『魔法使いの一味』が、百鬼家を表しているのは間違いないだろう。
そして、馨や久世の兄妹、蓮、そして世里や夕癸など蓮とともに凱たちを助けてくれた人たちも、百鬼家の一員であることも。
———あんなに必死に、凱たちを助けてくれた。
あの人たちが、人々に害を与えるとは到底思えなかった。
姉は、あれ以来、特に夜は見かけなくなった。姉と話すのは主に夜だから、当然姉とは話せていない。
母や、姉を[漢字]忌[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]んでいた親戚たちは、凱を露骨に避けるようになった。
会いにいっても無視されることが多くなったから、凱は自室に引きこもるようになった。
食事の時間になると、決まって部屋の前に食事が置かれるようになったから、引きこもっていても困ることは無かった。
[水平線]
辺りはすっかり真っ暗だった。
誰かに見つからないように、そっと周囲を[漢字]窺[/漢字][ふりがな]うかが[/ふりがな]いながら裏門を出た。
ふと風が吹いて、ぶるりと体が震える。思わず、手に抱えた"それ"を ぎゅっと抱きしめた。
真冬の真夜中の寒さにはちっとも慣れない。古着ともいえないほど状態の悪いこの服では、当然だろう。
「あ、来たのね」
ふわっとしたような、温かい風のような声がして、顔を上げた。少し先に、彼女はいた。
ほっとして駆け寄る。ぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、やっと会えた。……こんなボロボロの服で。寒かったでしょう? ずっと何もできなくて、ごめんなさい」
抱きしめられた力と温かさで、泣きそうになった。亡き実母がいたら、こんなだったのだろうか。
しばらくして、抱きしめていた手を緩めて、彼女は私の目を覗き込んだ。
初めて、彼女の顔を直視した。自分とも似ていない、美しい顔。暗闇の中でも分かる、薄橙の瞳。
「もう大丈夫だからね。ほら、早く行きましょう」
「はい、———」
彼女に手を引かれて、私は夜の中を走り出した。
フミを両手で包んで静かに消すと、蓮は肩に乗ってきた舞鶴を見た。
そのままじっと視線を交わしている。視線で意思の疎通を図っているようだった。
「そうか。あいつ、そんなところまで行ってしまったのか。もう始まるんだね。[漢字]首塚[/漢字][ふりがな]くびづか[/ふりがな]の邸は、あと少しで[漢字]陥[/漢字][ふりがな]お[/ふりがな]ちると思う。……お前だけが頼りだって、あいつに伝えておいて」
蓮はため息を吐いた。
「舞鶴。お前の主には、もう伝えたのかな?」
かすかに舞鶴は[漢字]首肯[/漢字][ふりがな]しゅこう[/ふりがな]する。
舞鶴が蓮の肩から離れる。そして、そのまま飛び立っていった。
(舞鶴……? あっ———)
久世が飼っていた烏だと凱はようやく思い出した。
[水平線]
あれから一週間ほどの時間が経った。
また妖怪が出るかもしれないから、と今度は通学を止められた。
そのため、この一週間はほとんど家にいた。
父はいつもより増して忙しくしている。あのとき、そしてあれから、いろいろな場所であれくらいの妖怪が現れるようになり、人員が足りなくなってしまったのだという。
毎日のように、父の隊員たちの訃報が耳に入ってくる。
泊まるかもしれない、と言っていた久世にも、あれから会っていない。時庭の邸にも来ない。
それに、最近はよく分からない噂が広まっているようだった。
『魔法使いの一味が、呪術を使って 悪魔と共謀して人に害を与えている』———。
まさに一週間前に会ったあの大柄な男の話と同じだった。
『魔法使いの一味』が、百鬼家を表しているのは間違いないだろう。
そして、馨や久世の兄妹、蓮、そして世里や夕癸など蓮とともに凱たちを助けてくれた人たちも、百鬼家の一員であることも。
———あんなに必死に、凱たちを助けてくれた。
あの人たちが、人々に害を与えるとは到底思えなかった。
姉は、あれ以来、特に夜は見かけなくなった。姉と話すのは主に夜だから、当然姉とは話せていない。
母や、姉を[漢字]忌[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]んでいた親戚たちは、凱を露骨に避けるようになった。
会いにいっても無視されることが多くなったから、凱は自室に引きこもるようになった。
食事の時間になると、決まって部屋の前に食事が置かれるようになったから、引きこもっていても困ることは無かった。
[水平線]
辺りはすっかり真っ暗だった。
誰かに見つからないように、そっと周囲を[漢字]窺[/漢字][ふりがな]うかが[/ふりがな]いながら裏門を出た。
ふと風が吹いて、ぶるりと体が震える。思わず、手に抱えた"それ"を ぎゅっと抱きしめた。
真冬の真夜中の寒さにはちっとも慣れない。古着ともいえないほど状態の悪いこの服では、当然だろう。
「あ、来たのね」
ふわっとしたような、温かい風のような声がして、顔を上げた。少し先に、彼女はいた。
ほっとして駆け寄る。ぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、やっと会えた。……こんなボロボロの服で。寒かったでしょう? ずっと何もできなくて、ごめんなさい」
抱きしめられた力と温かさで、泣きそうになった。亡き実母がいたら、こんなだったのだろうか。
しばらくして、抱きしめていた手を緩めて、彼女は私の目を覗き込んだ。
初めて、彼女の顔を直視した。自分とも似ていない、美しい顔。暗闇の中でも分かる、薄橙の瞳。
「もう大丈夫だからね。ほら、早く行きましょう」
「はい、———」
彼女に手を引かれて、私は夜の中を走り出した。
- 1.第一章 始まり(1)
- 2.第一章 始まり(2)
- 3.第一章 始まり(3)
- 4.第一章 始まり(4)
- 5.第一章 始まり(5)
- 6.第一章 始まり(6)
- 7.第一章 始まり(7)
- 8.第一章 始まり(8)
- 9.第一章 始まり(9)
- 10.第一章 始まり(10)
- 11.第一章 始まり(11)
- 12.第一章 始まり(12)
- 13.第一章 始まり(13)
- 14.第二章 彼の妹(1)
- 15.第二章 彼の妹(2)
- 16.第二章 彼の妹(3)
- 17.第二章 彼の妹(4)
- 18.第二章 彼の妹(5)
- 19.第二章 彼の妹(6)
- 20.第二章 彼の妹(7)
- 21.第二章 彼の妹(8)
- 22.第二章 彼の妹(9)
- 23.第二章 彼の妹(10)
- 24.第二章 彼の妹(11)
- 25.第二章 彼の妹(12)
- 26.第二章 彼の妹(13)
- 27.第二章 彼の妹(14)
- 28.第二章 彼の妹(15)
- 29.第二章 彼の妹(16)
- 30.第二章 彼の妹(17)
- 31.第二章 彼の妹(18)
- 32.第二章 彼の妹(19)
- 33.第二章 彼の妹(20)
- 34.第三章 神社(1)
- 35.第三章 神社(2)
- 36.第三章 神社(3)
- 37.第三章 神社(4)
- 38.第三章 神社(5)
- 39.第三章 神社(6)
- 40.第三章 神社(7)
- 41.第三章 神社(8)
- 42.第三章 神社(9)
- 43.第三章 神社(10)
- 44.第三章 神社(11)
- 45.第三章 神社(12)
- 46.第三章 神社(13)
- 47.第三章 神社(14)
- 48.第三章 神社(15)
- 49.第三章 神社(16)
- 50.第三章 神社(17)
- 51.第三章 神社(18)
- 52.第三章 神社(19)
- 53.第三章 神社(20)
- 54.第三章 神社(21)
- 55.第三章 神社(22)
- 56.第三章 神社(23)
- 57.第四章 別れ(1)
- 58.第四章 別れ(2)
- 59.第四章 別れ(3)
- 60.第四章 別れ(4)
- 61.第四章 別れ(5)
- 62.第四章 別れ(6)
- 63.第四章 別れ(7)
- 64.第四章 別れ(8)
- 65.第四章 別れ(9)
- 66.第四章 別れ(10)
- 67.第五章 異変(1)
- 68.第五章 異変(2)
- 69.第五章 異変(3)
- 70.第五章 異変(4)
- 71.第五章 異変(5)
- 72.第五章 異変(6)
- 73.第五章 異変(7)
- 74.第五章 異変(8)
- 75.第五章 異変(9)
- 76.第五章 異変(10)
- 77.第五章 異変(11)
- 78.第五章 異変(12)
- 79.第五章 異変(13)
- 80.第五章 異変(14)
- 81.第五章 異変(15)
- 82. 第五章 異変(16)
- 83.第五章 異変(17)
- 84.第五章 異変(18)
- 85.第五章 異変(19)
- 86.第五章 異変(20)
- 87.第六章 真実(1)
- 88.第六章 真実(2)
- 89.第六章 真実(3)
- 90.第六章 真実(4)
- 91.第六章 真実(5)
- 92.第六章 真実(6)
- 93.第六章 真実(7)
- 94.第六章 真実(8)
- 95.第六章 真実(9)
- 96.第六章 真実(10)
- 97.第六章 真実(11)
- 98.第六章 真実(12)
- 99.第六章 真実(13)
- 100.第六章 真実(14)
- 101.第六章 真実(15)
- 102.第六章 真実(16)
- 103.第六章 真実(17)
- 104.第六章 真実(18)
- 105.第六章 真実(19)
- 106.第七章 闘い(1)
- 107.第七章 闘い(2)
- 108.第七章 闘い(3)
- 109.第七章 闘い(4)
- 110.第七章 闘い(5)
- 111.第七章 闘い(6)
- 112.第七章 闘い(7)
- 113.第七章 闘い(8)
- 114.第七章 闘い(9)
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- 117.第七章 闘い(12)
- 118.第七章 闘い(13)
- 119.第七章 闘い(14)
- 120.第七章 闘い(15)
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- 124.第七章 闘い(19)
- 125.第七章 闘い(20)
- 126.第七章 闘い(21)
- 127.第七章 闘い(22)
- 128.第七章 闘い(23)
- 129.第七章 闘い(24)
- 130.第七章 闘い(25)
- 131.【幕間】作品解説という名の、作者の妄想ネタを吐き出す場
- 132.第八章 再会(1)
- 133.第八章 再会(2)
- 134.第八章 再会(3)
- 135.第八章 再会(4)
- 136.第八章 再会(5)
- 137.第八章 再会(6)