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【完結】虐げられている異母姉のことを、僕たちは知らなかった。

#61

第四章 別れ(5)

「……祝言って、ここで挙げられるのですか」
 やっとちゃんとした文を喋った。
 しかし、どうして突然、『祝言』なのだろうか。
「ええ、そうよ。私と[漢字]龍二[/漢字][ふりがな]りゅうじ[/ふりがな]さんのときも、ここで祝言を挙げたの。あちらに戸があるでしょう、そこを開けると、とても広くなるのよ」
 母は微笑んで言う。久世がやっと話してくれたことに、安心したようだった。
 久世は再び応接間の中を見回す。
 なんとなく、その瞳は寂しそうだった。
 馨もときどき、そのような目をするのを思い出した。たいていは家族の話になったときである。
「……久世さん?」
 耐えきれず、凱は声をかける。
「……この邸を案内してもらっていいですか」
 久世は凱の目を[漢字]一瞥[/漢字][ふりがな]いちべつ[/ふりがな]すると、そう言った。
「いいですよ。凱、案内して差し上げなさい」

「……兄さま、よくここに足繁く来ていたものね。私、もう耐えられないかも」
 歩きつつ、久世がつぶやく。
「えっと……何かあったんですか」
「……お母さまのこと、思い出してしまって」
「あ……亡くなられたんでしたっけ」
「そう」
 馨はそう言っていた。物心つく前だったと聞いている。幼いときに母親を[漢字]喪[/漢字][ふりがな]うしな[/ふりがな]った空白は、どれほどなのだろうか。
「お父様は、いらっしゃるんですか」
「……お父さまも死んじゃった。お母さまが亡くなる前に。だから……だから、私には兄さましかいないの。親戚のみんなも親切にはしてくれるけど、」
 そこで久世は息を吐いた。
「でも、身近にいてくれるのは、甘えられるのは、兄さまだけだった」
 顔を伏せてしまっていて、久世がどんな表情をしているかは分からなかった。

 しばらくの沈黙の後、久世が凱を見た。
「ねぇ」
「はい?」
「お姉さんのところまで、案内してくれる?」
「……え?」
 突然の申し出に、困惑する。
「だから、朝水さんのところまで案内してくれる?」
「……姉さんが困りませんか?」
「今更変わらないでしょう」
 そう言われると、言葉に詰まった。
「……分かりました」

 何度も来た、姉の部屋に辿り着く。
 戸を叩いてみたが、姉はいないようだった。
「いない……かな……?」
 久世のいる方向に振り返る。
 帰りますか? と聞こうとしたところで、後ろから「どうかしましたか……?」という声が聞こえた。姉が来たらしい。
「! お客様ですか……?」
 驚いたように聞く姉。———久世もまた、息を呑んで姉を見ていた。
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2025/11/07 14:39

錦野 真名
ID:≫ 49jonrKhevwZo
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