姉と二人きりになる。
まだ頭を下げている姉を見た。
「あのさ、えっと……とりあえず、頭上げてくれない?」
姉が[漢字]恐々[/漢字][ふりがな]こわごわ[/ふりがな]とした様子で頭を上げ、視線を凱に向ける。
無機質な姉の瞳に、自分の姿が映る。思えばまともに姉の顔を見たことさえ、初めてかもしれなかった。
「えーっと……これは、誰に[漢字]貰[/漢字][ふりがな]もら[/ふりがな]ったの?」
姉は黙っている。沈黙が気まずい。
「別に、謝らなくてもいいし、怒るつもりもないよ。姉さんがそんなことするとは僕は思ってないから」
姉はそれでもしばらく黙っていた。やがて、姉がつぶやく。
「……小さな男の子でした。」
それだけ言い、姉は再び俯く。
「男の子……?どういう容姿の?何か、会話した?」
努めて優しく、さらに尋ねた。
「……綺麗な子でした。薄い茶髪で。薄橙の目をしていて。」
目を見開いた。薄い茶髪と、薄橙の目。まるで、馨ではないか。
そこで、姉は言葉を区切る。
もともと馨のものだったと見て間違いないだろう。なぜ『小さな男の子』だったのかは分からないが。
「でも……でも、どこかこの世のものには思えなくて、それで、それが……」
そこまで言って姉は声を詰まらせた。
「亡くなった、お母さま——私の母に似ているような気がして……もう、母のことなんて覚えていないのですけど……」
———姉の実母。確か、[漢字]琴子[/漢字][ふりがな]ことこ[/ふりがな]という名だった。凱が生まれる前に亡くなったこともあり、凱は彼女を知らない。どのような人だったのだろう。
「分かった。ありがとう。」
そう言って微笑んでみると、姉は心なしか安心したようだった。
「そういえば、そろそろ晩御飯だよね。ご飯、もう食べた? よかったら、一緒に食べない? 母さんもしばらく帰ってこないみたいだし」
姉とこうして話したのは、生まれて初めてかもしれない。嬉しさに思わずそう提案した。
「いえ……私が凱様とご一緒するのは、[漢字]分不相応[/漢字][ふりがな]ぶんふそうおう[/ふりがな]ですし……それに、もし奥様がいらっしゃらないとしても、他の方々が黙ってらっしゃらないでしょうし……」
姉が[漢字]渋[/漢字][ふりがな]しぶ[/ふりがな]って言った。そういえば、そうだ。現実に戻されるような感覚を覚える。つい浮かれていたようだった。
まだ頭を下げている姉を見た。
「あのさ、えっと……とりあえず、頭上げてくれない?」
姉が[漢字]恐々[/漢字][ふりがな]こわごわ[/ふりがな]とした様子で頭を上げ、視線を凱に向ける。
無機質な姉の瞳に、自分の姿が映る。思えばまともに姉の顔を見たことさえ、初めてかもしれなかった。
「えーっと……これは、誰に[漢字]貰[/漢字][ふりがな]もら[/ふりがな]ったの?」
姉は黙っている。沈黙が気まずい。
「別に、謝らなくてもいいし、怒るつもりもないよ。姉さんがそんなことするとは僕は思ってないから」
姉はそれでもしばらく黙っていた。やがて、姉がつぶやく。
「……小さな男の子でした。」
それだけ言い、姉は再び俯く。
「男の子……?どういう容姿の?何か、会話した?」
努めて優しく、さらに尋ねた。
「……綺麗な子でした。薄い茶髪で。薄橙の目をしていて。」
目を見開いた。薄い茶髪と、薄橙の目。まるで、馨ではないか。
そこで、姉は言葉を区切る。
もともと馨のものだったと見て間違いないだろう。なぜ『小さな男の子』だったのかは分からないが。
「でも……でも、どこかこの世のものには思えなくて、それで、それが……」
そこまで言って姉は声を詰まらせた。
「亡くなった、お母さま——私の母に似ているような気がして……もう、母のことなんて覚えていないのですけど……」
———姉の実母。確か、[漢字]琴子[/漢字][ふりがな]ことこ[/ふりがな]という名だった。凱が生まれる前に亡くなったこともあり、凱は彼女を知らない。どのような人だったのだろう。
「分かった。ありがとう。」
そう言って微笑んでみると、姉は心なしか安心したようだった。
「そういえば、そろそろ晩御飯だよね。ご飯、もう食べた? よかったら、一緒に食べない? 母さんもしばらく帰ってこないみたいだし」
姉とこうして話したのは、生まれて初めてかもしれない。嬉しさに思わずそう提案した。
「いえ……私が凱様とご一緒するのは、[漢字]分不相応[/漢字][ふりがな]ぶんふそうおう[/ふりがな]ですし……それに、もし奥様がいらっしゃらないとしても、他の方々が黙ってらっしゃらないでしょうし……」
姉が[漢字]渋[/漢字][ふりがな]しぶ[/ふりがな]って言った。そういえば、そうだ。現実に戻されるような感覚を覚える。つい浮かれていたようだった。
- 1.第一章 始まり(1)
- 2.第一章 始まり(2)
- 3.第一章 始まり(3)
- 4.第一章 始まり(4)
- 5.第一章 始まり(5)
- 6.第一章 始まり(6)
- 7.第一章 始まり(7)
- 8.第一章 始まり(8)
- 9.第一章 始まり(9)
- 10.第一章 始まり(10)
- 11.第一章 始まり(11)
- 12.第一章 始まり(12)
- 13.第一章 始まり(13)
- 14.第二章 彼の妹(1)
- 15.第二章 彼の妹(2)
- 16.第二章 彼の妹(3)
- 17.第二章 彼の妹(4)
- 18.第二章 彼の妹(5)
- 19.第二章 彼の妹(6)
- 20.第二章 彼の妹(7)
- 21.第二章 彼の妹(8)
- 22.第二章 彼の妹(9)
- 23.第二章 彼の妹(10)
- 24.第二章 彼の妹(11)
- 25.第二章 彼の妹(12)
- 26.第二章 彼の妹(13)
- 27.第二章 彼の妹(14)
- 28.第二章 彼の妹(15)
- 29.第二章 彼の妹(16)
- 30.第二章 彼の妹(17)
- 31.第二章 彼の妹(18)
- 32.第二章 彼の妹(19)
- 33.第二章 彼の妹(20)
- 34.第三章 神社(1)
- 35.第三章 神社(2)
- 36.第三章 神社(3)
- 37.第三章 神社(4)
- 38.第三章 神社(5)
- 39.第三章 神社(6)
- 40.第三章 神社(7)
- 41.第三章 神社(8)
- 42.第三章 神社(9)
- 43.第三章 神社(10)
- 44.第三章 神社(11)
- 45.第三章 神社(12)
- 46.第三章 神社(13)
- 47.第三章 神社(14)
- 48.第三章 神社(15)
- 49.第三章 神社(16)
- 50.第三章 神社(17)
- 51.第三章 神社(18)
- 52.第三章 神社(19)
- 53.第三章 神社(20)
- 54.第三章 神社(21)
- 55.第三章 神社(22)
- 56.第三章 神社(23)
- 57.第四章 別れ(1)
- 58.第四章 別れ(2)
- 59.第四章 別れ(3)
- 60.第四章 別れ(4)
- 61.第四章 別れ(5)
- 62.第四章 別れ(6)
- 63.第四章 別れ(7)
- 64.第四章 別れ(8)
- 65.第四章 別れ(9)
- 66.第四章 別れ(10)
- 67.第五章 異変(1)
- 68.第五章 異変(2)
- 69.第五章 異変(3)
- 70.第五章 異変(4)
- 71.第五章 異変(5)
- 72.第五章 異変(6)
- 73.第五章 異変(7)
- 74.第五章 異変(8)
- 75.第五章 異変(9)
- 76.第五章 異変(10)
- 77.第五章 異変(11)
- 78.第五章 異変(12)
- 79.第五章 異変(13)
- 80.第五章 異変(14)
- 81.第五章 異変(15)
- 82. 第五章 異変(16)
- 83.第五章 異変(17)
- 84.第五章 異変(18)
- 85.第五章 異変(19)
- 86.第五章 異変(20)
- 87.第六章 真実(1)
- 88.第六章 真実(2)
- 89.第六章 真実(3)
- 90.第六章 真実(4)
- 91.第六章 真実(5)
- 92.第六章 真実(6)
- 93.第六章 真実(7)
- 94.第六章 真実(8)
- 95.第六章 真実(9)
- 96.第六章 真実(10)
- 97.第六章 真実(11)
- 98.第六章 真実(12)
- 99.第六章 真実(13)
- 100.第六章 真実(14)
- 101.第六章 真実(15)
- 102.第六章 真実(16)
- 103.第六章 真実(17)
- 104.第六章 真実(18)
- 105.第六章 真実(19)
- 106.第七章 闘い(1)
- 107.第七章 闘い(2)
- 108.第七章 闘い(3)
- 109.第七章 闘い(4)
- 110.第七章 闘い(5)
- 111.第七章 闘い(6)
- 112.第七章 闘い(7)
- 113.第七章 闘い(8)
- 114.第七章 闘い(9)
- 115.第七章 闘い(10)
- 116.第七章 闘い(11)
- 117.第七章 闘い(12)
- 118.第七章 闘い(13)
- 119.第七章 闘い(14)
- 120.第七章 闘い(15)
- 121.第七章 闘い(16)
- 122.第七章 闘い(17)
- 123.第七章 闘い(18)
- 124.第七章 闘い(19)
- 125.第七章 闘い(20)
- 126.第七章 闘い(21)
- 127.第七章 闘い(22)
- 128.第七章 闘い(23)
- 129.第七章 闘い(24)
- 130.第七章 闘い(25)
- 131.【幕間】作品解説という名の、作者の妄想ネタを吐き出す場
- 132.第八章 再会(1)
- 133.第八章 再会(2)
- 134.第八章 再会(3)
- 135.第八章 再会(4)
- 136.第八章 再会(5)
- 137.第八章 再会(6)