凱が続きをやろうと仕舞っていた課題を引っ張り出す。
それを広げたとき、「———え?」と呆然としたような久世の声がした。
久世を見ると、凱の課題をじっと見つめながら、息を呑んでいた。
「久世、さん?」
久世はじっと、微動だにしない。
どうしたのだろう。一秒、一秒と沈黙の時間が過ぎれば過ぎるほど、不安がどんどん膨らんでいく。
「……なの?」と声がした。
「ねえ。時庭の子なの?」
久世の視線の先をよく見ると、課題の名前の欄を見つめていた。
『時庭 凱』と書かれている、名前の欄を。
「あ、……はい」
久世が突然身を乗り出す。凱は思わずびくっと身をすくめた。
「本家?分家?……ねえ、当主の子とか、ないよね?」
久世の瞳には激しい憎悪の念が[漢字]渦巻[/漢字][ふりがな]うずま[/ふりがな]いている。
怖い。ここまで自分に負の感情を向けられたことは、生まれて初めてだろう。
「答えてよ」
「本家、です。」
久世が唇を引き結ぶ。
「だから、兄さんは、……凱君に苗字を名乗らせなかったの?……私に」
確かにあのとき、凱は苗字を言わなかった。馨が止めたからだ。馨はこれを予期して止めたのだろう。
おそらくは、妹を傷つけないようにするために———。
思えば、初めて馨に会った際、凱が名前を言ったとき馨は息を呑んでいた。
馨といい久世といい、何かあったのだろうか。
「兄さま、ときどき知り合いに会うとか言って出かけるのよね。時庭家に行っていたの? どうして時庭が兄さまに関わるの?だいたい、兄さまとどうやって会ったの? 私たちにあんなことをしておきながら——」
さらに久世が言い続けようとすると、「お待たせいたしませんでした〜」とおどけたように言いながら店の中に入ってくる人があった。
斎だ。ようやく戻ってきたのだ。両手に課題らしきものを抱えている。
この雰囲気であったから、凱は余計にほっとした。生まれて初めて、斎が救世主のように見えた。
「いやあ、課題を探すのがなっかなか大変でさ〜。神社ん中全部探したんですわ〜、それにしてはちょー早く帰って来たろ?そんでオムライスは———」
言葉を区切って机の上を見渡す。
「——ええっ、ない!? なんでー!? 食ったの!? ひどくね!?」
「斎がなかなか戻ってこないから、食べてもらったんだよ」
凱がそう言って斎はやっと久世の存在に気づいたらしく、「わー、この前会った美人だ〜」とか言って騒がしくした。
そのとき、「お待たせいたしました」とパフェが運ばれてきた。
久世が黙ってそれを取り、食べ始める。
「あ、パフェ、斎が食べていいよ、オムライスを取っちゃったお詫びとして」
凱が久世から離れたくてそう言うと、そうとも知らない斎が「やったー!」と無邪気に喜ぶ。
凱は席を立ち、店を出ようと荷物を片付ける。
斎はさっそくとパフェを頬張り始めた。
店を出る際、久世をちらりと見る。目が合った。もうその瞳には憎悪の念はなく———
———ただ悲しそうに揺らいでいただけだった。
それを広げたとき、「———え?」と呆然としたような久世の声がした。
久世を見ると、凱の課題をじっと見つめながら、息を呑んでいた。
「久世、さん?」
久世はじっと、微動だにしない。
どうしたのだろう。一秒、一秒と沈黙の時間が過ぎれば過ぎるほど、不安がどんどん膨らんでいく。
「……なの?」と声がした。
「ねえ。時庭の子なの?」
久世の視線の先をよく見ると、課題の名前の欄を見つめていた。
『時庭 凱』と書かれている、名前の欄を。
「あ、……はい」
久世が突然身を乗り出す。凱は思わずびくっと身をすくめた。
「本家?分家?……ねえ、当主の子とか、ないよね?」
久世の瞳には激しい憎悪の念が[漢字]渦巻[/漢字][ふりがな]うずま[/ふりがな]いている。
怖い。ここまで自分に負の感情を向けられたことは、生まれて初めてだろう。
「答えてよ」
「本家、です。」
久世が唇を引き結ぶ。
「だから、兄さんは、……凱君に苗字を名乗らせなかったの?……私に」
確かにあのとき、凱は苗字を言わなかった。馨が止めたからだ。馨はこれを予期して止めたのだろう。
おそらくは、妹を傷つけないようにするために———。
思えば、初めて馨に会った際、凱が名前を言ったとき馨は息を呑んでいた。
馨といい久世といい、何かあったのだろうか。
「兄さま、ときどき知り合いに会うとか言って出かけるのよね。時庭家に行っていたの? どうして時庭が兄さまに関わるの?だいたい、兄さまとどうやって会ったの? 私たちにあんなことをしておきながら——」
さらに久世が言い続けようとすると、「お待たせいたしませんでした〜」とおどけたように言いながら店の中に入ってくる人があった。
斎だ。ようやく戻ってきたのだ。両手に課題らしきものを抱えている。
この雰囲気であったから、凱は余計にほっとした。生まれて初めて、斎が救世主のように見えた。
「いやあ、課題を探すのがなっかなか大変でさ〜。神社ん中全部探したんですわ〜、それにしてはちょー早く帰って来たろ?そんでオムライスは———」
言葉を区切って机の上を見渡す。
「——ええっ、ない!? なんでー!? 食ったの!? ひどくね!?」
「斎がなかなか戻ってこないから、食べてもらったんだよ」
凱がそう言って斎はやっと久世の存在に気づいたらしく、「わー、この前会った美人だ〜」とか言って騒がしくした。
そのとき、「お待たせいたしました」とパフェが運ばれてきた。
久世が黙ってそれを取り、食べ始める。
「あ、パフェ、斎が食べていいよ、オムライスを取っちゃったお詫びとして」
凱が久世から離れたくてそう言うと、そうとも知らない斎が「やったー!」と無邪気に喜ぶ。
凱は席を立ち、店を出ようと荷物を片付ける。
斎はさっそくとパフェを頬張り始めた。
店を出る際、久世をちらりと見る。目が合った。もうその瞳には憎悪の念はなく———
———ただ悲しそうに揺らいでいただけだった。
- 1.第一章 始まり(1)
- 2.第一章 始まり(2)
- 3.第一章 始まり(3)
- 4.第一章 始まり(4)
- 5.第一章 始まり(5)
- 6.第一章 始まり(6)
- 7.第一章 始まり(7)
- 8.第一章 始まり(8)
- 9.第一章 始まり(9)
- 10.第一章 始まり(10)
- 11.第一章 始まり(11)
- 12.第一章 始まり(12)
- 13.第一章 始まり(13)
- 14.第二章 彼の妹(1)
- 15.第二章 彼の妹(2)
- 16.第二章 彼の妹(3)
- 17.第二章 彼の妹(4)
- 18.第二章 彼の妹(5)
- 19.第二章 彼の妹(6)
- 20.第二章 彼の妹(7)
- 21.第二章 彼の妹(8)
- 22.第二章 彼の妹(9)
- 23.第二章 彼の妹(10)
- 24.第二章 彼の妹(11)
- 25.第二章 彼の妹(12)
- 26.第二章 彼の妹(13)
- 27.第二章 彼の妹(14)
- 28.第二章 彼の妹(15)
- 29.第二章 彼の妹(16)
- 30.第二章 彼の妹(17)
- 31.第二章 彼の妹(18)
- 32.第二章 彼の妹(19)
- 33.第二章 彼の妹(20)
- 34.第三章 神社(1)
- 35.第三章 神社(2)
- 36.第三章 神社(3)
- 37.第三章 神社(4)
- 38.第三章 神社(5)
- 39.第三章 神社(6)
- 40.第三章 神社(7)
- 41.第三章 神社(8)
- 42.第三章 神社(9)
- 43.第三章 神社(10)
- 44.第三章 神社(11)
- 45.第三章 神社(12)
- 46.第三章 神社(13)
- 47.第三章 神社(14)
- 48.第三章 神社(15)
- 49.第三章 神社(16)
- 50.第三章 神社(17)
- 51.第三章 神社(18)
- 52.第三章 神社(19)
- 53.第三章 神社(20)
- 54.第三章 神社(21)
- 55.第三章 神社(22)
- 56.第三章 神社(23)
- 57.第四章 別れ(1)
- 58.第四章 別れ(2)
- 59.第四章 別れ(3)
- 60.第四章 別れ(4)
- 61.第四章 別れ(5)
- 62.第四章 別れ(6)
- 63.第四章 別れ(7)
- 64.第四章 別れ(8)
- 65.第四章 別れ(9)
- 66.第四章 別れ(10)
- 67.第五章 異変(1)
- 68.第五章 異変(2)
- 69.第五章 異変(3)
- 70.第五章 異変(4)
- 71.第五章 異変(5)
- 72.第五章 異変(6)
- 73.第五章 異変(7)
- 74.第五章 異変(8)
- 75.第五章 異変(9)
- 76.第五章 異変(10)
- 77.第五章 異変(11)
- 78.第五章 異変(12)
- 79.第五章 異変(13)
- 80.第五章 異変(14)
- 81.第五章 異変(15)
- 82. 第五章 異変(16)
- 83.第五章 異変(17)
- 84.第五章 異変(18)
- 85.第五章 異変(19)
- 86.第五章 異変(20)
- 87.第六章 真実(1)
- 88.第六章 真実(2)
- 89.第六章 真実(3)
- 90.第六章 真実(4)
- 91.第六章 真実(5)
- 92.第六章 真実(6)
- 93.第六章 真実(7)
- 94.第六章 真実(8)
- 95.第六章 真実(9)
- 96.第六章 真実(10)
- 97.第六章 真実(11)
- 98.第六章 真実(12)
- 99.第六章 真実(13)
- 100.第六章 真実(14)
- 101.第六章 真実(15)
- 102.第六章 真実(16)
- 103.第六章 真実(17)
- 104.第六章 真実(18)
- 105.第六章 真実(19)
- 106.第七章 闘い(1)
- 107.第七章 闘い(2)
- 108.第七章 闘い(3)
- 109.第七章 闘い(4)
- 110.第七章 闘い(5)
- 111.第七章 闘い(6)
- 112.第七章 闘い(7)
- 113.第七章 闘い(8)
- 114.第七章 闘い(9)
- 115.第七章 闘い(10)
- 116.第七章 闘い(11)
- 117.第七章 闘い(12)
- 118.第七章 闘い(13)
- 119.第七章 闘い(14)
- 120.第七章 闘い(15)
- 121.第七章 闘い(16)
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- 124.第七章 闘い(19)
- 125.第七章 闘い(20)
- 126.第七章 闘い(21)
- 127.第七章 闘い(22)
- 128.第七章 闘い(23)
- 129.第七章 闘い(24)
- 130.第七章 闘い(25)
- 131.【幕間】作品解説という名の、作者の妄想ネタを吐き出す場
- 132.第八章 再会(1)
- 133.第八章 再会(2)
- 134.第八章 再会(3)
- 135.第八章 再会(4)
- 136.第八章 再会(5)
- 137.第八章 再会(6)