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【完結】虐げられている異母姉のことを、僕たちは知らなかった。

#33

第二章 彼の妹(20)

 凱が続きをやろうと仕舞っていた課題を引っ張り出す。
 それを広げたとき、「———え?」と呆然としたような久世の声がした。
 久世を見ると、凱の課題をじっと見つめながら、息を呑んでいた。
「久世、さん?」
 久世はじっと、微動だにしない。
 どうしたのだろう。一秒、一秒と沈黙の時間が過ぎれば過ぎるほど、不安がどんどん膨らんでいく。
「……なの?」と声がした。
「ねえ。時庭の子なの?」
 久世の視線の先をよく見ると、課題の名前の欄を見つめていた。
『時庭 凱』と書かれている、名前の欄を。
「あ、……はい」
 久世が突然身を乗り出す。凱は思わずびくっと身をすくめた。
「本家?分家?……ねえ、当主の子とか、ないよね?」
 久世の瞳には激しい憎悪の念が[漢字]渦巻[/漢字][ふりがな]うずま[/ふりがな]いている。
 怖い。ここまで自分に負の感情を向けられたことは、生まれて初めてだろう。
「答えてよ」
「本家、です。」
 久世が唇を引き結ぶ。
「だから、兄さんは、……凱君に苗字を名乗らせなかったの?……私に」
 確かにあのとき、凱は苗字を言わなかった。馨が止めたからだ。馨はこれを予期して止めたのだろう。
 おそらくは、妹を傷つけないようにするために———。
 思えば、初めて馨に会った際、凱が名前を言ったとき馨は息を呑んでいた。
 馨といい久世といい、何かあったのだろうか。
「兄さま、ときどき知り合いに会うとか言って出かけるのよね。時庭家に行っていたの? どうして時庭が兄さまに関わるの?だいたい、兄さまとどうやって会ったの? 私たちにあんなことをしておきながら——」
 さらに久世が言い続けようとすると、「お待たせいたしませんでした〜」とおどけたように言いながら店の中に入ってくる人があった。

 斎だ。ようやく戻ってきたのだ。両手に課題らしきものを抱えている。
 この雰囲気であったから、凱は余計にほっとした。生まれて初めて、斎が救世主のように見えた。
「いやあ、課題を探すのがなっかなか大変でさ〜。神社ん中全部探したんですわ〜、それにしてはちょー早く帰って来たろ?そんでオムライスは———」
 言葉を区切って机の上を見渡す。
「——ええっ、ない!? なんでー!? 食ったの!? ひどくね!?」
「斎がなかなか戻ってこないから、食べてもらったんだよ」
 凱がそう言って斎はやっと久世の存在に気づいたらしく、「わー、この前会った美人だ〜」とか言って騒がしくした。
 そのとき、「お待たせいたしました」とパフェが運ばれてきた。
 久世が黙ってそれを取り、食べ始める。
「あ、パフェ、斎が食べていいよ、オムライスを取っちゃったお詫びとして」
 凱が久世から離れたくてそう言うと、そうとも知らない斎が「やったー!」と無邪気に喜ぶ。
 凱は席を立ち、店を出ようと荷物を片付ける。
 斎はさっそくとパフェを頬張り始めた。

 店を出る際、久世をちらりと見る。目が合った。もうその瞳には憎悪の念はなく———

 ———ただ悲しそうに揺らいでいただけだった。
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2025/11/09 12:44

錦野 真名
ID:≫ 49jonrKhevwZo
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