翌々日。
よく休講していたこともあり、予定より遅れて修了式が執り行われた。
戸井君はみんなに別れの挨拶をしていた。今日を限りでもう学校に来ることはないのだ。
親が、同級生たちが死ぬ原因の一つであったのにも関わらず、皆、戸井君に優しかった。両親が『信者』と成り果ててしまった境遇に、同情したのだろう。
退学後、商家に奉公に行くらしい。
ちなみに[漢字]斎[/漢字][ふりがな]いつき[/ふりがな]はというと、修了式が始まる前に 教室に入ってきた教師に向かって吹き矢を飛ばして叱られていた。いつも通りだ。
式終了後、これまたいつも通り 教師に呼び出しを食らって凱に泣きついてきたが、適当にあしらっておいた。
一年の終わりくらい大人しくできないのだろうか。
学校から帰る途中、百鬼一族の墓へと足を向けた。
ここまで関わってしまった以上、ちゃんと[漢字]冥福[/漢字][ふりがな]めいふく[/ふりがな]を祈る義務があると思ったからだ。
『百鬼家之墓』
たったそれだけしか書かれていない墓標の前に腰を下ろし、手を合わせる。
ここにはいったい、何人の人の魂が埋まっているのだろう。馨のように若くして死んだ者も多かっただろう、彼らは幸せだったのだろうか。
ぼんやりと考えていると、後ろから「凱君?」と聞き覚えのある声がした。
「……久世さん?」
一ヶ月半もの間、つい一昨日まで意識がなかった人がそこにいた。
左目に眼帯をし、髪を首のあたりでばっさりと切っていた。
左の袖からは、手はのぞいていない。
「起きたんですか? 大丈夫なんですか、体は」
「起きた。体は……あんまり?」
「……それでよく医者の許可が下りましたね」
「許可取ってないからね。抜け出してきた」
「それ、駄目なやつじゃないですか」
凱が突っ込むと、久世は悪戯っ子のように笑った。眼帯をしていても、亡き兄に似たその顔は美しかった。
「わざわざ墓参り? ありがとう」
久世が腰を下ろす。
寂しそうな目で、墓標を見つめる。
「これだけなんだね、あんなに人が死んだのに」
「……そうですね」
「でも、これくらいしかできないんでしょうね、体が残っている人なんて、ほとんどいないに等しいし」
馨も、遺体は見つからなかった。無論、そこに立ちこもっていた他の人たちも。
彼のいた邸であった、[漢字]灰燼[/漢字][ふりがな]かいじん[/ふりがな]がそこに残っただけ。
久世が凱の方を見る。
「何人、生き残ったの?」
「五人、と聞いてます」
「五人……」
そっと久世が[漢字]俯[/漢字][ふりがな]うつむ[/ふりがな]く。
「……他にもいるのね、生き残った人なんて。でも、私だけ長らえてしまった気がしてならない……」
ぽつんと、つぶやく。
「……兄さんに会いたい。あんなに、一緒にいたのに」
語尾が崩れる。
「まだ十九よ? こんなに早く逝くなんて、信じられない」
涙声に変わる。
「兄さま、あちらで、お父さまとお母さまに、逢えたかな」
あとは、すすり泣きと風の音だけが聞こえた。
よく休講していたこともあり、予定より遅れて修了式が執り行われた。
戸井君はみんなに別れの挨拶をしていた。今日を限りでもう学校に来ることはないのだ。
親が、同級生たちが死ぬ原因の一つであったのにも関わらず、皆、戸井君に優しかった。両親が『信者』と成り果ててしまった境遇に、同情したのだろう。
退学後、商家に奉公に行くらしい。
ちなみに[漢字]斎[/漢字][ふりがな]いつき[/ふりがな]はというと、修了式が始まる前に 教室に入ってきた教師に向かって吹き矢を飛ばして叱られていた。いつも通りだ。
式終了後、これまたいつも通り 教師に呼び出しを食らって凱に泣きついてきたが、適当にあしらっておいた。
一年の終わりくらい大人しくできないのだろうか。
学校から帰る途中、百鬼一族の墓へと足を向けた。
ここまで関わってしまった以上、ちゃんと[漢字]冥福[/漢字][ふりがな]めいふく[/ふりがな]を祈る義務があると思ったからだ。
『百鬼家之墓』
たったそれだけしか書かれていない墓標の前に腰を下ろし、手を合わせる。
ここにはいったい、何人の人の魂が埋まっているのだろう。馨のように若くして死んだ者も多かっただろう、彼らは幸せだったのだろうか。
ぼんやりと考えていると、後ろから「凱君?」と聞き覚えのある声がした。
「……久世さん?」
一ヶ月半もの間、つい一昨日まで意識がなかった人がそこにいた。
左目に眼帯をし、髪を首のあたりでばっさりと切っていた。
左の袖からは、手はのぞいていない。
「起きたんですか? 大丈夫なんですか、体は」
「起きた。体は……あんまり?」
「……それでよく医者の許可が下りましたね」
「許可取ってないからね。抜け出してきた」
「それ、駄目なやつじゃないですか」
凱が突っ込むと、久世は悪戯っ子のように笑った。眼帯をしていても、亡き兄に似たその顔は美しかった。
「わざわざ墓参り? ありがとう」
久世が腰を下ろす。
寂しそうな目で、墓標を見つめる。
「これだけなんだね、あんなに人が死んだのに」
「……そうですね」
「でも、これくらいしかできないんでしょうね、体が残っている人なんて、ほとんどいないに等しいし」
馨も、遺体は見つからなかった。無論、そこに立ちこもっていた他の人たちも。
彼のいた邸であった、[漢字]灰燼[/漢字][ふりがな]かいじん[/ふりがな]がそこに残っただけ。
久世が凱の方を見る。
「何人、生き残ったの?」
「五人、と聞いてます」
「五人……」
そっと久世が[漢字]俯[/漢字][ふりがな]うつむ[/ふりがな]く。
「……他にもいるのね、生き残った人なんて。でも、私だけ長らえてしまった気がしてならない……」
ぽつんと、つぶやく。
「……兄さんに会いたい。あんなに、一緒にいたのに」
語尾が崩れる。
「まだ十九よ? こんなに早く逝くなんて、信じられない」
涙声に変わる。
「兄さま、あちらで、お父さまとお母さまに、逢えたかな」
あとは、すすり泣きと風の音だけが聞こえた。
- 1.第一章 始まり(1)
- 2.第一章 始まり(2)
- 3.第一章 始まり(3)
- 4.第一章 始まり(4)
- 5.第一章 始まり(5)
- 6.第一章 始まり(6)
- 7.第一章 始まり(7)
- 8.第一章 始まり(8)
- 9.第一章 始まり(9)
- 10.第一章 始まり(10)
- 11.第一章 始まり(11)
- 12.第一章 始まり(12)
- 13.第一章 始まり(13)
- 14.第二章 彼の妹(1)
- 15.第二章 彼の妹(2)
- 16.第二章 彼の妹(3)
- 17.第二章 彼の妹(4)
- 18.第二章 彼の妹(5)
- 19.第二章 彼の妹(6)
- 20.第二章 彼の妹(7)
- 21.第二章 彼の妹(8)
- 22.第二章 彼の妹(9)
- 23.第二章 彼の妹(10)
- 24.第二章 彼の妹(11)
- 25.第二章 彼の妹(12)
- 26.第二章 彼の妹(13)
- 27.第二章 彼の妹(14)
- 28.第二章 彼の妹(15)
- 29.第二章 彼の妹(16)
- 30.第二章 彼の妹(17)
- 31.第二章 彼の妹(18)
- 32.第二章 彼の妹(19)
- 33.第二章 彼の妹(20)
- 34.第三章 神社(1)
- 35.第三章 神社(2)
- 36.第三章 神社(3)
- 37.第三章 神社(4)
- 38.第三章 神社(5)
- 39.第三章 神社(6)
- 40.第三章 神社(7)
- 41.第三章 神社(8)
- 42.第三章 神社(9)
- 43.第三章 神社(10)
- 44.第三章 神社(11)
- 45.第三章 神社(12)
- 46.第三章 神社(13)
- 47.第三章 神社(14)
- 48.第三章 神社(15)
- 49.第三章 神社(16)
- 50.第三章 神社(17)
- 51.第三章 神社(18)
- 52.第三章 神社(19)
- 53.第三章 神社(20)
- 54.第三章 神社(21)
- 55.第三章 神社(22)
- 56.第三章 神社(23)
- 57.第四章 別れ(1)
- 58.第四章 別れ(2)
- 59.第四章 別れ(3)
- 60.第四章 別れ(4)
- 61.第四章 別れ(5)
- 62.第四章 別れ(6)
- 63.第四章 別れ(7)
- 64.第四章 別れ(8)
- 65.第四章 別れ(9)
- 66.第四章 別れ(10)
- 67.第五章 異変(1)
- 68.第五章 異変(2)
- 69.第五章 異変(3)
- 70.第五章 異変(4)
- 71.第五章 異変(5)
- 72.第五章 異変(6)
- 73.第五章 異変(7)
- 74.第五章 異変(8)
- 75.第五章 異変(9)
- 76.第五章 異変(10)
- 77.第五章 異変(11)
- 78.第五章 異変(12)
- 79.第五章 異変(13)
- 80.第五章 異変(14)
- 81.第五章 異変(15)
- 82. 第五章 異変(16)
- 83.第五章 異変(17)
- 84.第五章 異変(18)
- 85.第五章 異変(19)
- 86.第五章 異変(20)
- 87.第六章 真実(1)
- 88.第六章 真実(2)
- 89.第六章 真実(3)
- 90.第六章 真実(4)
- 91.第六章 真実(5)
- 92.第六章 真実(6)
- 93.第六章 真実(7)
- 94.第六章 真実(8)
- 95.第六章 真実(9)
- 96.第六章 真実(10)
- 97.第六章 真実(11)
- 98.第六章 真実(12)
- 99.第六章 真実(13)
- 100.第六章 真実(14)
- 101.第六章 真実(15)
- 102.第六章 真実(16)
- 103.第六章 真実(17)
- 104.第六章 真実(18)
- 105.第六章 真実(19)
- 106.第七章 闘い(1)
- 107.第七章 闘い(2)
- 108.第七章 闘い(3)
- 109.第七章 闘い(4)
- 110.第七章 闘い(5)
- 111.第七章 闘い(6)
- 112.第七章 闘い(7)
- 113.第七章 闘い(8)
- 114.第七章 闘い(9)
- 115.第七章 闘い(10)
- 116.第七章 闘い(11)
- 117.第七章 闘い(12)
- 118.第七章 闘い(13)
- 119.第七章 闘い(14)
- 120.第七章 闘い(15)
- 121.第七章 闘い(16)
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- 125.第七章 闘い(20)
- 126.第七章 闘い(21)
- 127.第七章 闘い(22)
- 128.第七章 闘い(23)
- 129.第七章 闘い(24)
- 130.第七章 闘い(25)
- 131.【幕間】作品解説という名の、作者の妄想ネタを吐き出す場
- 132.第八章 再会(1)
- 133.第八章 再会(2)
- 134.第八章 再会(3)
- 135.第八章 再会(4)
- 136.第八章 再会(5)
- 137.第八章 再会(6)