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【完結】虐げられている異母姉のことを、僕たちは知らなかった。

#103

第六章 真実(17)

 場面が変わった。

『永、永、大丈夫? 少しは何か、食べなさいよ。まだ産後の肥立ちも悪いんだから』
 永姫の部屋に誰かが入ってくる。世里だった。[漢字]膳[/漢字][ふりがな]ぜん[/ふりがな]を持っている。
 永姫は布団にいて、久世はその隣に、馨は母親の膝でそれぞれ眠っていた。
『……世里ちゃん』
『馨くんも久世ちゃんも、心配するわよ』
『……うん』
 世里は永姫の前に膳を置いた。永姫はそれをじっと見る。
『永、子どもから母親を奪っちゃ駄目よ。ちゃんと食べなさい』
 永姫は膝で眠る息子を見つめると、箸を手に取った。
『……世里ちゃん』
『どうしたの?』
『私。……お嫁に行くことにした』
『は……? どこに?』
『さっきの縁談よ。時庭家。……だから。体調は戻さないと、ね』
 [漢字]龍二[/漢字][ふりがな]りゅうじ[/ふりがな]との縁談を受け入れた頃だと分かった。
『何、いきなり』
『私が嫁いだら、もうこんなことは終わりになるんでしょ、だから。……もう傷つきたくない。ことのことも、司のことも』
 永姫がつかえながら言う。
『世里ちゃん。ごめんね。この子たちのこと、よろしくね。この子たちがもう少し大きくなったら、伝えてね。離れていても、愛してるって』
 世里はしばらくの間、永姫を凝視していた。そして俯いて、
『……分かった。任せて。』
 永姫の目を見て、うなずいた。
 永姫が二人の頭を撫でる。
『……馨。久世。』
 その両目から涙が[漢字]溢[/漢字][ふりがな]こぼ[/ふりがな]れる。
『ごめんね。至らない母親で、ごめんね。』
 泣きながら、永姫は二人に詫びる。
『———愛してる。大好きよ』

[水平線]
 鏡がその光を失い、凱は我に返った。
気がついたら、頬が濡れていた。
 馨と久世も、これを見ていたのだろう。物心もつかぬうちに世を去った、両親を[漢字]恋[/漢字][ふりがな]こ[/ふりがな]いしく思っていたのだろうか。
 そして、もし姉もこれを見たのだとしたら、どう感じたのだろう。
 永姫———琴子はどんな気持ちで、これを作ったのだろう。
 子を捨てて、元の名前も捨てて、何を思っていたのだろう。
 鏡の回想の中の永姫は、朝水にとても似ていた。
 もし兄妹が姉に接触したのなら、亡き母を思い起こさずにはいられなかっただろう。
 ふと夜空を見ると、下弦の月が浮かんでいた。
 もう、夜も更けていた。
 手鏡をそっと置き、凱は布団を敷き始めた。
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2025/11/04 08:31

錦野 真名
ID:≫ 49jonrKhevwZo
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