「お母さまの名前ね、元々は『百鬼[漢字]永姫[/漢字][ふりがな]えいき[/ふりがな]』だったのよ。琴子、じゃないの。」
どこか楽しそうに、寂しそうに、久世が言う。
「……そんなことは聞いていない。では、再婚であることを隠してここに来たのか」
「そうなるわね」
「……何よそれ。嘘つきにも程があるじゃない……!」
母が[漢字]憤慨[/漢字][ふりがな]ふんがい[/ふりがな]して言う。
「嘘はついていないわよ。隠していたことが多かっただけ」
久世は何ということもないというように答えるが、それも嘘というのではないかと凱は思う。
「どういう経緯で琴子さん……いや永姫さんは嫁いで来たんですか」
肝心のところはそこだろうと、凱は話に割って入る。
「どういう経緯……どういうって、そんなのこっちが聞きたいわよ。子どもからすれば理不尽極まりないもの」
それはそうである。
「首塚山に私たちの、百鬼の邸があったのよ。一族七十人くらいが住んでいたのだけれど」
あれは百鬼家の邸だったのか。でも、何故『あった』と過去形なのだろう。
「あった……?」
「あ、一昨日無くなっちゃったの、闘いで」
一昨日、燃えていたのはそれだったのか。
「それは置いといて、前はあそこには無かったのよ。別の場所にあったの。[漢字]竜ヶ崎[/漢字][ふりがな]りゅうがさき[/ふりがな]ってところ。知っている?」
「はい」
首塚山については後で聞けば良いと思い、一旦頭の隅に置いた。
竜ヶ崎は知っている。ここからでも、かなり遠いところだ。汽車で丸一日はかかるだろう。そして、山ばかりの、いかにも怪談が多そうな田舎である。
「代々、一族は竜ヶ崎で住んでいたんだよ。もちろん私のお父さまとお母さまも。ちょうど最盛期で、一族で百人くらいいた。」
ずいぶんと[漢字]人気[/漢字][ふりがな]ひとけ[/ふりがな]を避けて暮らしていたのだな、と凱は思う。
父も母も、何も言わずに聞いていた。
「二人とも、とても仲が良かったのよ。年頃になってすぐに結婚して、すぐにお母さまは[漢字]身籠[/漢字][ふりがな]みごも[/ふりがな]て、ここまでは まだ良かった」
言葉を区切った。
「一番最初は、竜ヶ崎に人がよく来るようになった。」
そのあと、あたりの木を燃やされることが頻発したらしい。
今までに無かったことに困惑しているうちに、最初の死亡者が出た。鎮火しようとしたところ、何者かに襲われたらしい。
「人を使って 誰が殺したか、誰が火を付けたのかを調べたら、一般人だった。でも、ただの一般人じゃない、何かの信者みたいな感じの人だった、って」
どこか楽しそうに、寂しそうに、久世が言う。
「……そんなことは聞いていない。では、再婚であることを隠してここに来たのか」
「そうなるわね」
「……何よそれ。嘘つきにも程があるじゃない……!」
母が[漢字]憤慨[/漢字][ふりがな]ふんがい[/ふりがな]して言う。
「嘘はついていないわよ。隠していたことが多かっただけ」
久世は何ということもないというように答えるが、それも嘘というのではないかと凱は思う。
「どういう経緯で琴子さん……いや永姫さんは嫁いで来たんですか」
肝心のところはそこだろうと、凱は話に割って入る。
「どういう経緯……どういうって、そんなのこっちが聞きたいわよ。子どもからすれば理不尽極まりないもの」
それはそうである。
「首塚山に私たちの、百鬼の邸があったのよ。一族七十人くらいが住んでいたのだけれど」
あれは百鬼家の邸だったのか。でも、何故『あった』と過去形なのだろう。
「あった……?」
「あ、一昨日無くなっちゃったの、闘いで」
一昨日、燃えていたのはそれだったのか。
「それは置いといて、前はあそこには無かったのよ。別の場所にあったの。[漢字]竜ヶ崎[/漢字][ふりがな]りゅうがさき[/ふりがな]ってところ。知っている?」
「はい」
首塚山については後で聞けば良いと思い、一旦頭の隅に置いた。
竜ヶ崎は知っている。ここからでも、かなり遠いところだ。汽車で丸一日はかかるだろう。そして、山ばかりの、いかにも怪談が多そうな田舎である。
「代々、一族は竜ヶ崎で住んでいたんだよ。もちろん私のお父さまとお母さまも。ちょうど最盛期で、一族で百人くらいいた。」
ずいぶんと[漢字]人気[/漢字][ふりがな]ひとけ[/ふりがな]を避けて暮らしていたのだな、と凱は思う。
父も母も、何も言わずに聞いていた。
「二人とも、とても仲が良かったのよ。年頃になってすぐに結婚して、すぐにお母さまは[漢字]身籠[/漢字][ふりがな]みごも[/ふりがな]て、ここまでは まだ良かった」
言葉を区切った。
「一番最初は、竜ヶ崎に人がよく来るようになった。」
そのあと、あたりの木を燃やされることが頻発したらしい。
今までに無かったことに困惑しているうちに、最初の死亡者が出た。鎮火しようとしたところ、何者かに襲われたらしい。
「人を使って 誰が殺したか、誰が火を付けたのかを調べたら、一般人だった。でも、ただの一般人じゃない、何かの信者みたいな感じの人だった、って」
- 1.第一章 始まり(1)
- 2.第一章 始まり(2)
- 3.第一章 始まり(3)
- 4.第一章 始まり(4)
- 5.第一章 始まり(5)
- 6.第一章 始まり(6)
- 7.第一章 始まり(7)
- 8.第一章 始まり(8)
- 9.第一章 始まり(9)
- 10.第一章 始まり(10)
- 11.第一章 始まり(11)
- 12.第一章 始まり(12)
- 13.第一章 始まり(13)
- 14.第二章 彼の妹(1)
- 15.第二章 彼の妹(2)
- 16.第二章 彼の妹(3)
- 17.第二章 彼の妹(4)
- 18.第二章 彼の妹(5)
- 19.第二章 彼の妹(6)
- 20.第二章 彼の妹(7)
- 21.第二章 彼の妹(8)
- 22.第二章 彼の妹(9)
- 23.第二章 彼の妹(10)
- 24.第二章 彼の妹(11)
- 25.第二章 彼の妹(12)
- 26.第二章 彼の妹(13)
- 27.第二章 彼の妹(14)
- 28.第二章 彼の妹(15)
- 29.第二章 彼の妹(16)
- 30.第二章 彼の妹(17)
- 31.第二章 彼の妹(18)
- 32.第二章 彼の妹(19)
- 33.第二章 彼の妹(20)
- 34.第三章 神社(1)
- 35.第三章 神社(2)
- 36.第三章 神社(3)
- 37.第三章 神社(4)
- 38.第三章 神社(5)
- 39.第三章 神社(6)
- 40.第三章 神社(7)
- 41.第三章 神社(8)
- 42.第三章 神社(9)
- 43.第三章 神社(10)
- 44.第三章 神社(11)
- 45.第三章 神社(12)
- 46.第三章 神社(13)
- 47.第三章 神社(14)
- 48.第三章 神社(15)
- 49.第三章 神社(16)
- 50.第三章 神社(17)
- 51.第三章 神社(18)
- 52.第三章 神社(19)
- 53.第三章 神社(20)
- 54.第三章 神社(21)
- 55.第三章 神社(22)
- 56.第三章 神社(23)
- 57.第四章 別れ(1)
- 58.第四章 別れ(2)
- 59.第四章 別れ(3)
- 60.第四章 別れ(4)
- 61.第四章 別れ(5)
- 62.第四章 別れ(6)
- 63.第四章 別れ(7)
- 64.第四章 別れ(8)
- 65.第四章 別れ(9)
- 66.第四章 別れ(10)
- 67.第五章 異変(1)
- 68.第五章 異変(2)
- 69.第五章 異変(3)
- 70.第五章 異変(4)
- 71.第五章 異変(5)
- 72.第五章 異変(6)
- 73.第五章 異変(7)
- 74.第五章 異変(8)
- 75.第五章 異変(9)
- 76.第五章 異変(10)
- 77.第五章 異変(11)
- 78.第五章 異変(12)
- 79.第五章 異変(13)
- 80.第五章 異変(14)
- 81.第五章 異変(15)
- 82. 第五章 異変(16)
- 83.第五章 異変(17)
- 84.第五章 異変(18)
- 85.第五章 異変(19)
- 86.第五章 異変(20)
- 87.第六章 真実(1)
- 88.第六章 真実(2)
- 89.第六章 真実(3)
- 90.第六章 真実(4)
- 91.第六章 真実(5)
- 92.第六章 真実(6)
- 93.第六章 真実(7)
- 94.第六章 真実(8)
- 95.第六章 真実(9)
- 96.第六章 真実(10)
- 97.第六章 真実(11)
- 98.第六章 真実(12)
- 99.第六章 真実(13)
- 100.第六章 真実(14)
- 101.第六章 真実(15)
- 102.第六章 真実(16)
- 103.第六章 真実(17)
- 104.第六章 真実(18)
- 105.第六章 真実(19)
- 106.第七章 闘い(1)
- 107.第七章 闘い(2)
- 108.第七章 闘い(3)
- 109.第七章 闘い(4)
- 110.第七章 闘い(5)
- 111.第七章 闘い(6)
- 112.第七章 闘い(7)
- 113.第七章 闘い(8)
- 114.第七章 闘い(9)
- 115.第七章 闘い(10)
- 116.第七章 闘い(11)
- 117.第七章 闘い(12)
- 118.第七章 闘い(13)
- 119.第七章 闘い(14)
- 120.第七章 闘い(15)
- 121.第七章 闘い(16)
- 122.第七章 闘い(17)
- 123.第七章 闘い(18)
- 124.第七章 闘い(19)
- 125.第七章 闘い(20)
- 126.第七章 闘い(21)
- 127.第七章 闘い(22)
- 128.第七章 闘い(23)
- 129.第七章 闘い(24)
- 130.第七章 闘い(25)
- 131.【幕間】作品解説という名の、作者の妄想ネタを吐き出す場
- 132.第八章 再会(1)
- 133.第八章 再会(2)
- 134.第八章 再会(3)
- 135.第八章 再会(4)
- 136.第八章 再会(5)
- 137.第八章 再会(6)